今年10月の中国の大型連休では、中国の観光市場に注目すべき変化が見られました。全国の来場者数上位50の「5A級観光地(国家最高ランクの観光地格付け)」において、1時間以上滞在する旅行者の数が2024年に比べて221万人減少し、3年連続で下落したのです。

 データによると、2023年から2025年の連休期間における上位50カ所の5A級観光地の観光客数は、それぞれ4184万人、3843万人、3622万人で、3年間で約13%の減少となりました。この動きはネット上でも大きな話題となり、中国の観光産業が構造的な転換期を迎えていることを示しています。

 湖北省宜昌市の三峡大瀑布景区の総経理、安勤氏は「今年に入ってから団体旅行客の数が明らかに減っている」と語ります。観光研究専門家の楊涛氏も、「5A級観光地の来場者数の減少は、中国の大衆観光市場が新たな段階に入ったことを示すものである。“消費者中心・体験重視・コンテンツ中心”の新時代の到来を意味している」と分析しています。長年にわたり複数の5A級景区の顧問を務めてきた孫震氏も、「高価格で混雑する従来型の5A級観光地は、旅行者の選択肢から徐々に外れつつある」と指摘しています。いまや多くの旅行者が“人それぞれ異なる価値観やニーズに合わせて提供されるパーソナルな体験”や“コストパフォーマンス”を重視し、過度な価格設定には魅力を感じなくなっているのです。

 実際、旅行者の不満はSNS上にも表れています。連休前から、抖音や小紅書などのプラットフォームには、「行かない方がいい」「罠のスポット」といった投稿が急増しました。多くの人々が「人が多すぎて景色を楽しめない」と嘆き、特に山岳型の観光地では、狭い登山道や展望ポイントでの混雑が深刻化し、安全面への懸念も広がっています。さらに、最近新たに昇格した5A級観光地の中には、景観に独自性が乏しく、人工的で多様性が失われた同じ様な施設ばかりだという批判も少なくありません。

 入場料の高さとサービスの質の低さも、観光客離れを加速させています。多くの観光地では入場券が数千円(数百元)と高額であるにもかかわらず、実際に体験できることは、浅い川に足を浸す程度の単純な企画ばかりです。その他のアクティビティは追加料金が必要です。飲食や土産物の価格も高騰し、「マトリョーシカ式に次から次へと出てくる追加料金」と揶揄されることもあります。

 また、インフラ整備の遅れも観光体験を大きく損ねています。四川省九寨溝は自然景観の美しさで知られています。しかし、地震後の復旧では道路の狭さやトイレ不足、通信環境の悪さが課題となっています。海南省の天涯海角でも、料金が高いわりに休憩所や案内システムの整備が不十分で、「価格に見合わない」と酷評されています。北京市の故宮では入場制限を設けても行列が絶えず、黄山では混雑による事故の危険性も指摘されています。

 さらに、一部の観光地では「無料見物客」を防ぐため、極端な封鎖措置を講じる例もあります。陝西省と山西省の境にある壺口瀑布では、公道沿いに高い壁を設けて滝が外から見えないようにしました。これに対し、「公衆観光客を締め出す行為だ」と批判が殺到しました。青海湖周辺では鉄線フェンスが張り巡らされるなど、観光地の「過度な営利主義」がネット上で炎上しました。

 一方で、地方や県レベルの小規模観光地が新たな人気スポットとして台頭しています。混雑が少なく、自然が残り、コストも低い――そんな「リラックス感」や「本物の体験」が旅行者の心を掴んでいます。オンライン旅行会社の分析によると、北京市や上海市といった一・二線都市よりも、三・四線都市や県レベルの観光市場の成長率が高く、「小さな町が大都市を上回る」現象が定着しつつあります。

 中国の5A級観光地制度は2007年に始まり、故宮や長城、九寨溝など66カ所が初めて認定されました。その後、2024年までに358カ所へと拡大しました。しかし、数の増加とともに質の低下も目立つようになりました。高価格化、過剰な商業化、管理のずさんさが重なり、観光客の信頼を失いつつあります。

 観光とは本来、人々が自然や文化を分かち合い、心を癒すための場であるはずです。短期的な利益ではなく、長期的な信頼を築くことを選ぶなら、5A級観光地は再び多くの人々にとって憧れの場所となるでしょう。

(翻訳・吉原木子)