10月26日、上海市浦東新区の貴金属店で強盗事件が発生しました。ある男がビニール袋を手にしながら、落ち着いた様子でハンマーを振り下ろし、ショーケースのガラスを割り、中の金製品を次々と袋に詰め込みました。その後、警察が駆け付け、男をその場で取り押さえました。この事件は瞬く間に注目を集め、「男の行動はあまりにも冷静すぎる」「まるで強盗ではなく『食事を注文しに来た』ように落ち着いていた」といった声がネット上に広がりました。

 複数のネット動画によれば、事件は同日午前、浦東新区周浦鎮康沈路にある「中国黄金」と看板のある店舗で起きました。映像には、男が右手にハンマー、左手にビニール袋を持ち、通行人が見守る中、ゆっくりとガラスを叩き割り、ショーケースから金のアクセサリーを一つずつ袋に入れていく様子が映されています。店の外では多くの人がスマートフォンを掲げて撮影していました。

 店舗が建つ通りは交通量が多く、交差点の角に位置し、周辺には10軒以上の貴金属店が並んでいます。事件当日の夜には、店舗のシャッターが下ろされ営業が停止していました。事件後、午後6時ごろ、記者が現場を訪れた際には、店前が布で覆われ、ガラスのショーウィンドウも隠されていました。隣接する貴金属店の店員たちは「防犯訓練」と称して金属製のフォークや盾を使った訓練を行っており、突発事件への警戒が高まっている様子がうかがえました。

 警察の発表によると、10月26日午前10時55分ごろ、浦東公安分局に「康沈路の貴金属店で男がショーケースを破壊している」との通報があり、警察官が現場に直行。店の警備員の協力を得て、37歳の容疑者・曹某をその場で拘束しました。この事件でけが人はなく、店内の商品にも損害はなかったといいます。曹容疑者は刑事拘留され、現在も捜査が続いています。

 この事件はインターネット上で大きな話題となり、多くの中国本土のネットユーザーが皮肉を込めたコメントを残しました。「これは遊びであって強盗じゃない」「刃物も持っていないなんて、強盗業界への侮辱だ」「あの落ち着きようは、きっと“安定した食事”を求めてのこと」「高利貸しから逃げて、刑務所で暮らすつもりだったのだろう」といった意見が相次ぎました。

 実際、近年の中国では貴金属店を狙った強盗事件が相次いでいます。たとえば、今年3月21日の夜、広東省広州市番禺区南村鎮のショッピングモール内にある「周大福」貴金属店で、34歳の男がハンマーでショーケースを割り、金製品を奪って逃走。後に警察が逮捕し、盗品も押収されました。当時も多くのネットユーザーが「生活に絶望し、自ら刑罰を求めたのでは」と推測していました。

 また、2024年11月28日には山東省濰坊市で2件の強盗事件が発生。1件は上口鎮で男2人と女1人が共謀し、わずか1分で約2.14億円相当の金飾りと金塊を奪って逃走。もう1件は昌邑市で覆面をした2人組による犯行でした。いずれの事件もその後解決し、被害額は合計約1,712万円と報じられています。

 さらに、2024年10月2日には広東省廉江市の貴金属店で、ヘルメットをかぶった男が侵入し、約8,560万円相当の金を奪い、バイクで逃走し、その後、37歳の男・呉某傑が逮捕されました。

 2024年8月13日には、山東省日照市五蓮県で斧を持った覆面男が貴金属店を襲撃し、金製品を詰めた袋を持って落ち着いた様子で立ち去る事件もありました。44歳の容疑者は逮捕され、地元の人々の間では「生活に困って、一人で罪を被り家族を救おうとしたのでは」との声も出ていました。

 これらの事件と今回の上海事件は、中国経済の減速という社会背景のなかで、生活に追い詰められた一部の庶民が極端な行動に出ている現実を映し出しています。近年、中国本土では外資の撤退、債務危機に直面する不動産業、企業倒産の増加、地方政府の巨額な負債、失業率の上昇など、経済環境が急速に悪化しています。こうしたなかで、社会の底辺層が「違法行為を代償に一時的な安定を得ようとする」ケースが増えており、この事件はその象徴的な一幕と言えるでしょう。

(翻訳・吉原木子)