かつて「販売台数チャンピオン」だったネータが破産した後、多くの車のオーナーが親会社・合衆(ごうしゅう)新能源汽車から通知を受け取りました。通知では、レノボ傘下の通信サービス会社「レノボ・スマートコネクト(聯想懂的通信有限公司)」が契約の履行を拒否したため、車載インターネット通信サービスを順次停止し、ユーザーが自ら通信量を購入する必要があると記載されています。突然の知らせに、約50万人のネータ車オーナーは大きな衝撃を受けました。
ネータの問題は特例ではありません。これまでにも、威馬(ウェイマー)、高合(ハイファイ)、極越(ジーユエ)といったブランドが相次いで破綻し、車のオーナーたちは苦境に立たされています。『中国汽車報』の10月8日の報道によると、不完全な統計では、過去10年間に倒産した新エネルギー自動車メーカーは、すでに数百万人ものオーナーを巻き込んでいるといいます。
掘り出し物から自己修理へ
北京在住の威馬(ウェイマー)車オーナー・郭(かく)さんは、購入当時のことを今でも鮮明に覚えています。「当時、威馬のデザインに一目惚れした。車内スペースも広く、装備も充実。運転支援機能まで付いていた。2020年当時としてはコスパが抜群だった。掘り出し物の車を見つけたと喜んでいた」
ところが、2022年からアフターサービス体制が崩壊し始めました。車のエアコンから異音がするため、修理センターに連絡したところ、返ってきたのは「部品がない。入荷次第ご連絡する」という答えだけでした。その後、半年待っても部品は届かず、さらに無念なことに、約10万円(約5000元)を支払って購入した「8年/20万キロ延長保証」も無効になってしまいました。現在、北京で営業している威馬の修理拠点は朝陽北路の1店舗のみで、自宅から遠い上に、特殊部品は依然として入手不能のままです。
自動車整備の仕事に携わっている郭さんは、軽微な故障なら自分で修理できるが、ソフトウェアのアップデート停止や、一部機能が使えなくなるといった問題には手の打ちようがありません。
保証の約束は空しく、修理は「人脈頼み」
上海の朱(しゅ)さんも同じ苦境に立たされています。
「2020年に威馬を選んだのは、価格と性能のバランスが良かったからだ」と彼はいいます。当時は迷わず購入を決めましたが、2年後にはアフターサービスが「頭痛の種」になっていました。
「カスタマーサービスに連絡しても明確な回答がもらえない。4S店ごとに基準が違って、無料の項目もあれば有料の項目もある。威馬の破産後、かつて約束されていた生涯無料の軽整備サービスも立ち消えとなった。バッテリーの劣化など本来は保証対象で無料交換できるはずが、アフターサービスが消滅したため、自費で修理せざるを得なくなった」
現在、上海には正式な威馬の修理拠点はもうありません。朱さんはやむを得ず、旧4S店の知人を頼って修理してもらっています。「一部の店ではまだ小さな故障なら直せるが、メーカーの支援体制がなくなった今、純正部品も見つからず、ソフトの再設定もできない」
小規模ブランドのアフターサービスの弱点
山東省東営市(とうえいし)出身の韓融鍇(かんゆうかい)さんは、新エネルギー車の「マニア」で、複数の電気自動車を所有しており、その中にはすでに経営破綻した高合や極越も含まれています。
韓さんは次のように話します。「新エネルギー車を買ったのは、デザインと機能に惹かれたからだ。子どもが車内でアニメを見られるし、長距離走行も悪くない。製品としての性能には問題なかったのに、会社が倒産してしまったのは残念だ」
ブランドが破綻した後、アフターサービスはほぼ停止状態になりました。「以前は高合のスタッフが3か月に1回、自宅までメンテナンスに来てくれたのに、今では自分で済南市の直営店まで車を持っていくしかない。部品交換も非常に時間がかかり、360度カメラが壊れて、交換部品が届くまで1か月近く待ちました」と韓さんはいいます。
極越のアフターサービスは、臨時的に領克(Lynk & Co)ディーラーへ引き継がれたものの、対応品質は大幅に低下しました。「以前に買ったメンテナンスクーポンも、店によっては使えるところと使えないところがあって、結局は領克のカスタマーセンターに苦情を入れなければならなかった」
韓さんは率直に語ります。「今の多くのメーカーは技術を封鎖しているので、第三者が修理できない。テスラのように修理権限を開放してくれれば、たとえ会社が倒産してもオーナーは困らないのだが」
一部のオーナーにとってさらに深刻なのは、車載ソフトウェアのアップデートサービスがいつ止まるかわからないことです。ネータと極越を所有する孫凱(そんかい)さんは取材に対し、「今はスマホを買い替えるのも怖い。車を操作するアプリが削除されたら、再ダウンロードできなくなるかもしれない。システムの更新なんて、もう期待していない」と語りました。
車両価格の暴落と保険価値の縮小
ブランド崩壊の影響は、修理の問題だけではありません。車の価値が暴落しています。
済南市在住の李さんは、昨年およそ400万円(約20万元)で極越の車を購入しましたが、現在の中古市場では約200万円(約10万元)にまで下落し、「それでも誰も買ってくれない」と肩を落とします。
済南市の中古車販売業者・馬さんによると、「ネータVの定価は約160万円(約8万元)だったが、今の中古価格は約60万円(約3万元)だ」と述べました。
成都市の自動車販売会社の社員も「定価約500万円(約25万元)の極越01は、現在在庫処分価格で約300万円(15万元)まで下がっている」と話しました。
さらに追い打ちをかけるのが保険問題です。ネータ車のオーナー余さんは「複数の大手保険会社に更新を断られ、最終的に小規模な保険会社でようやく契約できたが、補償額が半分に削られた」と話します。「昨年の車両損害保険は10万元以上だったが、今年は約90万円(約4万元)しか保障されない」と嘆いています。
消費者にツケを押し付けてはならない
数百万台に上る新エネルギー車の「不良在庫」問題に直面するなかで、消費者の権利は誰が守るのでしょうか。
ポーラ自動車コンサルティング会社の創業者・王浩(おう・こう)はこう指摘します。「多くの新エネルギー車メーカーがアフターサービス体制を整備できず、対応能力も不足している現状では、政府が独立したアフターサービス市場の構築を推進し、補完的なチャンネルとしてユーザーに便利で信頼できるサポートを提供すべきだ」
また、新エネルギー車アフターサービスの専門家・王立剛も「企業の淘汰は市場の自然な現象だが、その代償を消費者が負うべきではない。関連する法律・制度を速やかに整備し、ユーザーを犠牲にするような行為を根絶すべきだ」と強調します。
中国の新エネルギー車産業は、ここ10年間で爆発的な成長を遂げました。しかし今、その華やかな成長の裏で深刻な信頼危機に直面しています。かつて「スマートモビリティの象徴」と称されたブランドが、一夜にして空洞企業へと変わってしまいました。車のオーナーにとって、それは金銭的損失だけでなく、信頼そのものの崩壊でもあるのです。
(翻訳・藍彧)
