十数万人が1か所に押し寄せ、身動きできないほど中国の就職難が深刻化しています。博士号を持っていても月給はわずか6万円程度という現実に直面し、学歴が「就職の切り札」として通用しなくなっています。青年失業率は過去最高を更新し、出口の見えない「地獄級の就職氷河期」が若者をのみ込もうとしています。

 9月中旬、黒竜江大学の体育館には11万人もの学士・修士・博士課程の卒業生が詰めかけ、9千余りの求人枠をめぐって激しい争奪戦が繰り広げられました。平均すれば、1つの求人に十数人が殺到する計算です。「知識が運命を変える」という夢は、卒業と同時に厳しい現実に打ち砕かれました。

 中国メディアの報道によると、当日朝6時にはすでに大量の求職者が分厚い履歴書を抱えて体育館に押し寄せ、7時過ぎには外の行列が地下鉄の駅口まで延びていました。冷たい風の中、数時間も並んだ末にようやく入口に近づいたところで、「履歴書の受付はすでに終了」と告げられる人も少なくなかったといいます。

 さらに残酷なのは、この就職説明会の求人の8割が修士号以上を条件としており、中には博士号や名門大学卒業者に限ると明記された募集も少なくありません。ある応募者は「月給約6万~10万円(3000~5000元)と書いてあるのに、修士以上が条件。応募者が多すぎると、募集側がその場で博士限定に引き上げることもある」と不満を漏らしました。もはや「学歴の価値が下落した」という表現は抽象的な言葉ではなく、目の前の厳しい現実となっています。

学歴競争は激化、給与は崖のように下落

 「学歴は上がるのに、給与は下がる」――今年を象徴する皮肉な状況です。

 甘粛省のある企業では修士課程修了者を月給約4万円(2000元)で募集しています。ある自動車部品メーカーでは一般作業員20名の採用に博士号を条件とし、給与は月給約7万~10万円(3500~5000元)にすぎません。

 『中華網』の報道によれば、ハルビン市図書館は2023年以降の文系修士・博士のみを対象に募集を行い、月給は一律約6万~8万円(3000~4000元)です。また、市政府が管理する旅行会社・遼寧省錦州文旅集団では、中国の名門大学出身の中国語文学修士を条件に秘書職を募集し、初任給は月給約7万円(3500元)としています。

 「本物の才能はいずれ輝く」とは言われますが、誰もが才能を持っていたら、その輝きは埋もれてしまいます。今では配達員や配車サービス運転手の収入が、多くの高学歴職の給与を上回っているのです。

 理工系も例外ではありません。ハルビン市特種設備監督検験研究院は2025年卒の理工系博士を募集していますが、月給は約8万~10万円(4000~5000元)です。社会保険と住宅積立金を差し引くと、実際の手取りは約6万円(3000元)程度です。ここからさらに家賃・水道光熱費・交通費を払えば、生活費もほとんど残らず、住宅購入や結婚・出産などは夢のまた夢です。

 ある試算では、博士を育てるには幼稚園から博士課程卒業まで約27年かかります。『中国生育コスト報告(2024年)』によれば、中国の家庭が0歳から大学卒業までに投じる教育費は平均約1400万円(68万元)、一線都市や私立教育、学習塾を含めると総額2000万円(100万元)を超えることもあるといいます。

 しかし現実は、博士号取得後の月給は約10万円(5000元)、社保を引けば約6万円(3000元)しか残りません。一銭も使わなくても年間80万円(4万元)も貯められず、20年働いても元が取れません。

 ネット上では「子どもが博士まで頑張っても、結局は月給約10万円しか得られず、家を買うには一生銀行(ローン返済)のために働き続けるしかない」と皮肉を込めた声もあります。多くの人は「今の給与水準は十数年前に逆戻りし、インフレを考慮すれば購買力は20年前に落ち込んでいる」と嘆いています。

 さらに追い打ちをかけるのは就職率の低下です。データによると、2024年の修士課程卒業生の就職率はわずか44.4%。学士卒の45.4%を下回り、短大卒が56.6%で最も高くなっています。高学歴がもはや強みではなく、むしろ重い足かせになっているのです。

若年層失業率が過去最高を更新

 8月、中国の若年層失業率が過去最高を更新しました。国家統計局のデータによると、16~24歳の都市部若年層失業率は7月の17.8%から18.9%へと上昇し、昨年の記録を更新しました。この数値には在校生は含まれず、実際の失業状況はさらに深刻であるとみられます。

 一見1.1%の上昇に過ぎませんが、今年の大学卒業生は1222万人で、昨年より43万人多い計算です。この基数で考えると、1.1%は134万人もの若者が「就職先がない」ことを意味します。ネット上では「実際の失業率は70%を超えているのではないか」との声も出ています。

 さらに厳しいのは、2026年の卒業生数が1593万人に達する可能性があることです。今年より371万人も増える見込みで、仮に保守的に見積もっても1250万~1300万人規模に膨らむと予測されています。どの推計でも結論は同じで、競争は一段と熾烈になるということです。

経済減速が職場を直撃

 高い失業率は経済の減速を直接反映しています。オークンの法則が示すように、経済成長率が鈍化すれば失業率は上昇し、とりわけ若年層失業率はマクロ経済の変動に敏感です。

 マクロデータを見ると、8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.4%減と半年ぶりの大幅下落、生産者物価指数(PPI)は2.9%減となり、デフレ圧力が一段と強まっていることを示しています。イギリスの経済研究機構であるキャピタル・エコノミクスの経済学者、黄子春(ホアン・ズーチュン)は「中国の内需は依然として弱く、産能過剰も深刻で、デフレ局面は短期的に解消しがたい」と分析しています。

 対外貿易も厳しい状況です。8月の輸出は前年同月比でわずか4.4%増と予想を下回り、特に対米輸出は33.1%も急減し、5か月連続で二桁の下落を記録しました。9月25日、トランプ米大統領は10月から建材・家具・医薬品など一部中国製品に最大100%の追加関税を課すと発表し、中国の輸出への打撃は避けられません。

 アメリカは中国にとって最大の貿易相手国であり、その市場を代替できる国は存在しません。輸出の停滞と受注の減少は、製造業の雇用を維持することをますます困難にしています。

 一方、不動産市場も下落を続けています。一線都市で購入制限が解除されたものの、住宅価格は下げ止まらず、むしろ急落に転じています。不動産仲介大手「鏈家(リエンジャ)」は8月に9千人を解雇し、業界全体の景況感が完全に崩れ落ちました。

若者の苦境

 経済の寒波の中で、中国の若者たちは現実から逃れるために三つの道を選ばざるを得なくなっています。それは「大学院進学」「公務員試験」「公共機関の正規職員採用試験」です。あるいは「露天商」「店舗開業」「SNS発信による収益化」といった起業の三つの道へと進む人もいます。しかし、それに失敗すれば、最後には「フードデリバリー」「宅配便」「配車アプリ運転手」という生計維持の三つの道に転じるしかありません。いずれの道も競争はますます激しくなっています。

 安定した体面ある仕事はますます得にくくなり、学歴というカードも効力を失いました。焦燥感と不安が新たな常態となり、多くのネットユーザーが「二十年勉強しても、卒業した途端に失業」と嘆いています。

 こうした厳しいデータの背後には、中国経済の下降が示す深刻な構造的問題があります。産能過剰、輸出縮小、消費不振、そして若年層失業率の急上昇という複数の難題に直面するなかで、この「地獄級の就職氷河期」はまだ始まりにすぎないのかもしれません。

(翻訳・藍彧)