中国の電気自動車(EV)市場に不安定さが広がっています。9月22日、世界的投資家ウォーレン・バフェットが、中国の電気自動車大手・比亜迪(BYD)の株式をすべて売却したという衝撃的なニュースが伝えられました。

 その数日前の9月19日には、小米(シャオミ)自動車が安全上の理由から、初の電気自動車「SU7」を11万台もリコールすると発表しました。これは前例のない規模です。さらに業界の大半が赤字に転落する中で、熾烈な価格競争と企業淘汰の波が広がりつつあります。当初は「未来経済の新たなエンジン」と期待された電気自動車ですが、その実態は政府主導の計画経済が生んだ歪んだバブルであり、最も大きな負担を背負わされるのは一般消費者であることが浮き彫りになっています。

電気自動車バブル 政治的需要が生んだ歪な産物

 ロイターの調査によれば、中国国内の自動車生産量はすでに市場の吸収能力を大幅に超えています。同調査は、中国の自動車メーカーの生産目標が実際の市場需要ではなく、「政府の定めた生産指標に合わせるため」に設定されていると指摘しました。その結果、多くの自動車メーカーが収益を上げられずに苦しんでいるのです。

 中国自動車工業協会のデータによれば、2024年の中国における自動車総生産台数と販売台数はそろって3100万台を突破しました。そのうち「新エネルギー車」とされる電気自動車は約1300万台に達し、新車販売の4割以上を占めています。

 この状況は、中国政府の政策的な誘導と切り離すことができません。2017年には、北京当局が「2025年までに自動車年間生産台数を3500万台に引き上げる」との目標を掲げ、特に電気自動車の重点的な発展を強調しました。この方針は短期間で電気自動車メーカーの爆発的な増加をもたらし、2018年には一時487社もの企業が乱立しましたが、2024年には129社にまで激減しました。バブルは急速に膨張し、そして同じ速度でしぼんでいったのです。

 米国在住の経済学者・黄大衛(こう・だいえい)は、中国政府が電気自動車を推進する目的は、「産業発展や消費者の利益のためではなく、欧米諸国との炭素排出・気候交渉における交渉カードを握るための政治的計算だ」と指摘します。そのため当局は企業に巨額の補助金や政策優遇を与え、地方政府もまた雇用確保やGDP成長、財政収入を目的に電気自動車産業を「政績プロジェクト」として推進しました。

 黄大衛は「これらの自動車メーカーは基本的に政府政策に従って動いており、市場原理に基づいて運営されているわけではない」とし、このように市場の論理から乖離した仕組みは、長期的に維持できないのは必然であると述べました。

 米国サウスカロライナ大学の謝田(しゃ・でん)教授も「中国の電気自動車ブームは巨大な浪費である」と厳しく批判しています。

バブルは解消困難 倒産ラッシュは避けられないか

 生産過剰が深刻化する中、中国の自動車市場は3年連続で価格競争に陥っています。今年8月末に開かれた成都国際モーターショーでは、国産アウディの新車が「半額」で販売され、一汽集団の7人乗りSUVは「4割引」で投げ売りされました。過激な値下げ競争は、産業構造の深刻な歪みを浮き彫りにしています。

 台湾大学経済学部の樊家忠(はん・かちゅう)教授は、過剰生産の本質を「計画経済の産物」だと分析します。「中国政府は本気で市場経済の道を歩もうとしたことはない。計画経済を堅持することで、生産資源を政府が強く掌握でき、権力集中に有利だからだ」と指摘しました。

 さらに彼は、中国共産党がGDP成長を維持する手法は「供給面に偏っている」と述べます。企業が赤字でも生産を続ければ、統計上は経済成長を演出でき、雇用や社会不安を一時的に緩和できるためです。その結果、自動車産業は無理やり「新たな第一の柱産業」とされました。

 しかし、この歪んだ発展モデルがもたらすのは深刻な「激しい競争」と終わりのない価格戦争です。樊家忠教授は「この問題は原則的に解決不能だ。競争の激化は自らが招いたものであり、是正すれば別の問題を生み、全体のバランスを崩す。これは計画経済が需給不均衡を処理する際の非効率さと硬直性を示すものだ」と強調しました。

 彼は短期的には過当競争が続き、中長期的には大規模な企業倒産がほぼ避けられないと予測します。「中国の自動車市場はいずれ壮絶な淘汰を経て、新たな均衡点に収束するだろう。しかしその過程は長期化し、深刻な社会的痛みを伴う」と警告しました。

誰が真の勝者か? 最大の敗者は消費者

 電気自動車ブームの中で、誰が利益を得て、誰が犠牲を強いられているのでしょうか。

 米国在住の経済学者・黄大衛(こう・だいえい)は「短期的には多くの勝者がいるように見えるが、中長期的にはすべてが敗者だ。特に消費者が最も大きな犠牲を払っている」と強調します。

 中国政府については「いわゆる『新エネルギーの優位性』は欧米にすぐに見破られ、『新エネルギー詐欺』と化し、最終的に交渉カードとしての効力を失う」と指摘しました。地方政府は「短期的には財政収入を得たが、長期的には巨額の債務を抱え、経済基盤を改善する機会を失った」と述べています。

 大手企業も、淘汰戦を生き残る少数のトップ企業を除けば、長期的には市場リスクと過酷な競争にさらされます。中小メーカーや販売代理店は、補助金による一時的繁栄の後、大量の在庫が売れ残り、資金繰りが悪化し、最終的には破産に追い込まれるケースが多いのです。

 黄大衛は「最も悲惨なのは一般消費者だ」と強調しました。「多くの人は低価格で『得をした』と錯覚しているが、実際には非常に重い代償を払っている。第一に電気自動車には大きな安全リスクがある。第二に減価率は従来のガソリン車よりもはるかに高く、資産価値が極めて低い。第三に電気自動車にはネット接続や監視機能が備わっており、事故を引き起こす道具として利用される可能性すらある。消費者にとって、ほとんど『百害あって一利なし』だ」と述べました。

 また、謝田(しゃ・でん)教授も「この産業モデルは不動産と極めて似ている」と指摘しました。バブル拡大期に本当に利益を得たのは中国共産党上層部の権力者やその家族であり、資本操作と政策優遇で巨額の利益をすでに手にしている。ところがバブルが崩壊し始めると、その後始末を押し付けられるのは一般国民と消費者なのです。

 バフェットによるBYD株の完全売却、小米による大規模リコール、業界の巨額赤字、そして続く価格戦争――これらの事実は、中国の電気自動車産業が危険な局面に突入したことを示しています。一時は「未来経済の新たなエンジン」として喧伝されましたが、今やその実態は計画経済が生んだ歪みとバブルであることが次第に明らかになってきました。

(翻訳・藍彧)