2025年10月13日午前3時16分ごろ、四川省成都市で重大な交通事故が発生しました。走行していたのは小米(シャオミ)の電気自動車「SU7 Ultra」とみられる車両で、目撃証言や初期調査によりますと、市街地にもかかわらず時速168キロ前後で走行していた可能性があります。車両は制御を失って中央分離帯や緑地帯のコンクリート柱に衝突し、激しい衝撃で車体が大きく変形。高電圧バッテリーが損傷し、直後に車体後部から炎が噴き出して、数秒のうちに車全体が火に包まれました。
監視カメラの映像には、車両が反対車線に横転し、運転席の若い男性が窓を叩きながら助けを求める様子が映っていました。しかしドアはロックされたままで開かず、男性は脱出できないまま炎に巻かれて命を落としました。
事故直後、通りかかった4人の運転手や乗客が救助に駆けつけ、肘でドアを叩いたり、足で窓を蹴ったり、車載消火器を使って必死に火を消そうとしましたが、すべてが功を奏しませんでした。原因は、衝突の衝撃で電源が落ち、隠し式の電子ドアハンドルが作動しなかったためです。外側からドアを開ける手段はなく、さらに二重強化ガラスが衝撃に強いため、ハンマーで叩いてもわずかにひびが入る程度でした。車内からは黒煙が噴き出し、救助者たちは高熱で近づけなかったといいます。
火の勢いは瞬く間に広がり、バッテリーの熱暴走によって爆発音が響き、内部の温度はおよそ800度に達しました。一般的な粉末消火器はリチウム電池火災には効果がなく、水を使用すれば導電性により化学反応が激化するおそれもあります。現場はまさに火の海と化しました。
消防隊が到着したのはおよそ10分後でした。高圧放水で外側の火を抑えながら、油圧カッターや電動ノコギリなどを使ってドアをこじ開けましたが、すでに車体は原形をとどめず、運転手の遺体は高温で炭化していました。現場に残された衝突痕の形状などからも、車両が小米SU7 Ultraである可能性が高いとみられています。
警察の初期調査では、運転手の飲酒およびスピード超過による制御不能が直接の原因とされていますが、世論の関心はすぐに小米SU7の構造的な欠陥に向けられました。同車はリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーを採用しており、高電圧システムが損傷すると熱暴走を起こしやすく、炎が下方向に噴出するため水による消火が困難です。消火には特殊な泡消火剤による冷却と遮断が必要になります。
さらに致命的なのは、完全電動制御の隠し式ドアハンドルの構造です。この設計は12Vの低電圧電源を使用し、マイクロスイッチとLEDで作動する仕組みとなっており、空力性能とデザイン性を重視しています。しかし電源が遮断されるとまったく作動せず、外側からも内側からもドアを開けることができなくなります。分解映像によると、ハンドル内部は2つのスイッチのみで構成され、機械的な予備装置はありません。内部の緊急解除ワイヤーはドアポケット下の赤いカバーの内側に隠されており、身をかがめて2回引っ張らなければ解除できない仕組みです。火災中にこの操作を行うのは現実的に不可能だとされています。
小米のカスタマーセンターは「緊急用ハンドルが設けられている」と説明していますが、停電時に外部から救出する方法については明言していません。自動車専門家によれば、前方右側に搭載された補助バッテリーが衝突によって破壊され、ドアへの電力供給が絶たれたことが脱出不能につながったと分析しています。
こうした問題はアメリカでも注目されており、当局はテスラ車を含む電子式ドアハンドルの安全性を調査中です。「完全隠し型ハンドルの禁止」を求める声も上がっています。今回の成都での悲劇は、中国製EVの安全性に対する不安を改めて浮き彫りにしました。
同様の火災事故は過去にも発生しています。2023年10月にはウズベキスタンの空港倉庫で中国製EV数百台が充電中に連鎖的に発火し、1人が死亡、162人が負傷しました。2024年4月には零跑(リープモーター)製のEVが走行中に突然発火し、バッテリー管理システム(BMS)の欠陥が原因とされました。また、2025年3月には安徽省銅陵市で小米SU7が衝突後にドアが開かず3人が焼死、同年10月9日にも別のSU7が海に転落し、電気系統の停止で運転手が脱出できず死亡しています。
統計によると、中国国内では1日平均8件のEV火災が発生しています。ネット上では「ガソリン車は走り尽くして廃車、電気車は燃え尽きて廃車」という皮肉も広がり、消費者の不安は高まる一方です。
この事故の影響で小米自動車の株価は7.8%下落しました。小米は「全面的に調査に協力する」とコメントしていますが、具体的な改善策は示されていません。事件はSNS上で急速に拡散し、EV安全規制の強化を求める声が広がっています。
バッテリーの熱管理から機械的なバックアップ機構の導入まで、中国のEV業界は今、拡大の裏に潜む安全上の課題を突きつけられています。
成都市公安交通管理局は「最終的な調査結果を速やかに公表する」としています。
あの夜を照らした炎は、一人の命を奪っただけではありません。
それは、電動車時代の安全性に新たな問いを投げかけました。
(翻訳・吉原木子)
