史上最強の「美容術」は心を修めること.
(絵:fuyin/看中国)

 年齢を重ねるにつれ、鏡を見るたびに、「あれ?何で私がこんなふうになったんだろう?」と、ついそんな思いが頭をもたげます。昔は顔が綺麗だったはずのに、今では自分で自分がわからなくなるほど顔にシワが増え、肌にツヤもなくなったと感じることがあるでしょう?30、40歳を過ぎると、自分の容貌に焦りを覚える人は多いものです。

 一方で、周りに実年齢より若く見える人もいます。肌は引き締まっていて、血色もよく、微笑むと少年少女のように若々しく見えて、思わず視線が引き寄せられてしまいます。これは「仙薬」でも飲んだのでしょうか?それとも、人に知られていないお手入れの秘訣があるのでしょうか?

古代中国人の答え「相は心より生じる」

 中国語に「相由心生(相は心より生じる)」という言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。その深い意味をご存じでしょうか?

 「相は心より生じる」とは、人の心が顔に現れるという意味です。日頃の考えからライフスタイル、そして、心構え、習慣や気性までもが、少しずつその人の顔、眉間や目尻に静かに刻み、跡を残していくのです。

 「人の容姿を見る前に、まずその人の声を聞け。人の声を聞く前に、まずその人の行いを観察せよ。人の行いを観察する前に、まずその人の心を窺え(註)」という興味深い一節があります。人を判断するなら、外見よりもまず言葉を、言葉よりもまず行動を、行動よりもまずその人の心を見るべきだ、という意味です。外見はただの結果にすぎず、心こそがその源です。心にどんな種をまくかによって、顔にどんな花が咲くかが定まるものです。

 「相は心より生じる」というと、昔より伝えられてきた「人生訓」のように思われるかもしれませんが、しかし、実際はそうではありません。ここでは、唐王朝期の二人の実話を通して、「心」がどのように「相」を変え、「相」がどのように人の運命に転機をもたらしたのかを見てみましょう。

裴度の逆転人生 乞食の相から宰相の相へ

 まず、裴度(はい・ど)の話を見てみましょう。彼は大いに出世し、唐の四代の皇帝の傍に仕えて宰相まで務めましたが、若い頃は非常に貧しかったのです。

 ある日、裴度は道端で一行禅師に出会いました。この禅師はただの僧侶ではなく、当時「人の将来を見通せる」と名高い相師でした。禅師は裴度の顔を見ると、ため息をついて、「君の人相は……、視線がさまよい、唇に血色もなく、これはまさに路上で飢え死ぬにする相だ」と言いました。彼は裴度に、「より多くの善行を積み、心を修めれば、運命に転機が訪れるかもしれない」と念を押しました。

 数日後、裴度は香山寺を訪れる時、偶然、ある婦人の落とした玉の帯を拾いました。彼はそれを着服せず、遠くに住む婦人のところに行き、返してあげました。実は、この玉の帯は婦人が父親の命を救うために身代金として用意したものでした。裴度の無私の行いは、婦人とその父親、二人もの命を救いました。

 ほどなくして、裴度は再び一行禅師に出会いました。禅師は目を輝かせ、「君の人相が変わったのではないか!」と驚いて言いました。裴度の目が透き通り、顔が明るくて生気に満ちていました。禅師は裴度の肩を軽くたたき、「七尺の身体は七寸の顔に及ばず、七寸の顔は三寸の鼻に及ばず、三寸の鼻は一点の心に及ばず」と言いました。その意味は、あなたの背がどれほど高くてたくましくても、顔立ちがどれほど整っていても、本当に運命を決めるのは、あなたの心だということです。

 その後のことは歴史にも記されています。裴度は大いに出世し、宰相・将軍まで昇進し、その名は広く知れ渡りました。彼の息子たちも立身出世(りっしんしゅっせ)を遂げました。

裴章の悲劇的な人生 心が壊れたら相は壊れる

 しかし、誰もがそれほど恵まれているわけではありません。もう一人の人物・裴章(はい・しょう)を見てみましょう。彼は名門の家に生まれ、幼い頃から「天庭(額)は広く、地閣(顎)は丸くて豊満」という、富貴になる顔つきを備えていました。彼の父親は修行者で、名僧の曇照法師と親しくしていました。法師は初めて裴章を見た時、「この子は、将来きっと前途洋々だろう」と言いました。

 ほどなくして裴章は嫁を迎え、地方官になり、すべてが順風満帆に見えました。

 しかし数年後、曇照法師は再び彼に出会った時、顔を曇らせ、「どうしてこのような顔になったのかね?」と言いました。彼の天庭は落ちくぼみ、地閣はとがってしまい、さらには手のひらには黒い気が渦巻いていたのです。これはただ年を取ったのではなく、大きな災いが起こる兆候でした。

 法師はその場で、「ここ数年、何かやましいことをしたのではないか」と尋ねました。

 最初は否定しようとした裴章は、葛藤の末、「太原で官職にあった頃、妻に隠れてある女性と密通した」と認めました。

 法師はため息をつき、「はぁ…君は本来、深い福徳を備えていたが、自らそれを損なってしまったんだ。徳が衰えれば相は崩れ、行いが乱れれば寿命が縮む」と言いました。

 やがて法師の言ったとおりとなり、裴章は風呂場で殺され、命を落としました。

これはただの昔話ではない

 この二つの話はいずれも唐王朝期の出来事で、昔の中国人が伝え聞いた話にすぎないと思われるかもしれません。しかし、現代科学も、人の顔は心や身体の状態を映し出す「表れ」であることを証明しています。

 漢方医学の考え方では、「内にあるものは必ず外に現れる」といいます。人の気血、五臓六腑、神経系統はすべて顔と密接に関わっています。いつも朗らかで、善良な人なら、自然と笑顔があふれ、血色も良く、顔が輝きます。逆に、他人を憎んだり、貪欲で嫉妬深かったりする人は、顔が黒ずみ、視線が定まらず、口角も下がりがちで、当然、周囲から歓迎されにくくなります。

 そういうわけで、「心」こそが本当のメイクアップアーティストであり、整形医師でも言えるでしょう。心のあり方により、顔も次第に変わります。顔は鏡のようなもので、心はその元です。美しくなりたい、運勢を変えたいと思うなら、まずは心を修めることから始めましょう。運勢や人間関係を良くしたい場合も、線香を焚いて仏に拝む必要がなく、整形手術で顔を変える必要もありません。必要なのは、人に誠実に向き合う「真」、常に善意をもって物事にあたる「善」、他人の過ちを寛容に受け止める「忍」なのです。

 あなたが本当に「真・善・忍」の三文字を心に刻み、日々実践すれば、あなたは自然と顔が輝き、愛らしくなり、そして、周りの人にも親しまれ、運命も変わっていくでしょう。そんなときに鏡に映った自分を見れば、あなたも微笑まずにはいられないはずです。

註:

中国語原文:未相人之相,先聽人之聲;未聽人之聲,先察人之行;未察人之行,先觀人之心。

(文・陳静/翻訳・心静)