近年、中国では突然倒れる人や急性心筋梗塞、心臓発作による突然死の事例が相次いで報じられています。2025年に入ってからはその傾向が一段と顕著になり、長期休暇やそれ以前の数か月の間に、中高年層だけでなく若い世代にも同様の出来事が続き、社会の関心を呼んでいます。

 10月2日午後1時ごろ、北京市豊台駅の地下出口付近で男性乗客が突然倒れ、周囲の人々が急いで救急車を呼び、病院へ搬送しました。北京市内メディアによりますと、男性は心臓発作を起こしたとみられています。同じ日の夜11時ごろには、浙江省人民病院で50代の女性が突然胸の痛みと息苦しさを訴え、心電図などの検査の結果、急性心筋梗塞と診断されました。女性は迅速な処置を受け、一命をとりとめたということです。

 同日、広東省でも同様の事例が報告されています。南方都市報によりますと、沈海高速道路を走行中の男性が突然吐血し、意識がもうろうとした状態で同乗者が必死に救助を求めました。顔面が蒼白になり呼吸困難の状態が続いたものの、病院での治療により一命を取り留めました。一方、江門市蓬江区白沙街道では、59歳の公務員が勤務中に突然倒れ、救急搬送されましたが、帰らぬ人となりました。亡くなったのは白沙街道鳳潮社区の指導担当者で、同僚たちは「まじめで仕事熱心な方だった」と話しています。

 また、浙江省杭州市では旅行中の女性が突然心停止に陥る出来事もありました。湖北省の「極目新聞」によりますと、この女性は16時間に及ぶ長距離列車の移動後、運動中に呼吸困難を訴えて倒れたということです。病院ではECMO(体外式膜型人工肺)による救命処置が行われ、医師団は「急性肺塞栓症」と診断しました。浙江省人民病院によれば、連休期間中の4日間で急性心筋梗塞の患者を8人搬送・治療しており、主任医師は「今年の休暇期間は例年より明らかに心疾患の緊急搬送が多く、朝から昼まで手術が途切れなかった」と述べています。

 中高年層だけでなく、若い世代の突然死も増加傾向にあります。3月には山西省長治市で25歳の女性、いわゆる「世紀ベビー」と呼ばれた千千さんが心源性の突然死で亡くなり、地元の衛生当局が調査を実施しました。9月6日には重慶市の移通学院の学生が寮内で突然倒れ、救急搬送されましたが、救命には至りませんでした。6月には江西省撫州市の大学で21歳の男子学生が、浙江省嘉興市では26歳の幼稚園教諭が睡眠中に亡くなるなど、若い命が相次いで失われています。これらはいずれも現地大学やメディアにより確認され、SNS上では「00後(2000年代生まれ)」の突然死をめぐる議論が一時トレンド入りしました。

 公式統計もこの傾向を裏付けています。中国国家心血管病センターの年次報告によりますと、心血管疾患の患者数はすでに3億3千万人を超えるとされ、中国人の死因の第1位となっています。急性心筋梗塞による年間入院患者はおよそ122万人、院内死亡率は約4%前後と報告されています。また、発症年齢の若年化が進んでおり、過労や長時間労働、睡眠不足、食生活の乱れなどが主な危険因子として指摘されています。

 専門家によれば、こうした突然死の多くは「全くの予兆なし」ではなく、長期的な疲労や精神的ストレス、基礎疾患の見落としなどが複雑に絡み合った結果だといいます。科技日報の取材に応じた心臓専門医は、「多くの若年患者は倒れる前に軽い胸の圧迫感や動悸などの症状がありましたが、忙しさや油断から受診を先延ばしにしてしまうケースが多い」と指摘しました。特に休暇期間中は、長距離移動や生活リズムの乱れ、暴飲暴食、睡眠不足などが重なり、心血管への負担が急激に高まる傾向があるとしています。

 浙江大学医学院附属第二病院の周光居医師は、「長距離移動後に息切れや胸の違和感、脚の腫れなどがある場合、肺塞栓症のサインである可能性が高い」と警告しています。「16時間列車に座り続けた後に倒れた女性のようなケースは決して例外ではなく、近年は旅行後の血栓症が増加している」と話しました。央広網の健康コラムでも、大学生が体育大会や体力測定中に突然倒れる事例が紹介され、心源性突然死はもはや高齢者だけの問題ではないと警鐘を鳴らしています。専門家たちは、大学入学時の健康診断に心電図や心エコー検査を取り入れ、リスクを早期に把握する必要があると訴えています。

 一方で、倒れた人を救えない要因として、一般市民の応急処置に関する知識不足も指摘されています。中国の公共施設に設置されているAED(自動体外式除細動器)の普及率はいまだ低く、目の前で倒れた人に対して4分以内に心肺蘇生や電気ショックを行えるケースは極めて少ないのが現状です。欧米では「黄金の4分間」が命を救う鍵とされており、北京市や上海市、深圳市などではAED設置を義務化する条例が制定されていますが、実際の普及には時間を要しているのが実情です。医療関係者は、「CPR(心肺蘇生)とAEDの使い方を市民教育の一環として広めることが急務だ」と呼びかけています。

 今年報じられた多くの事例を見ると、突然倒れた人々の中には高齢者だけでなく、働き盛りの世代や学生も少なくありません。旅先で病に倒れる人、職場で過労により倒れる人、そして何の前触れもなく命を落とす若者たち――。そうした悲劇の連鎖は、中国社会全体の健康問題を改めて浮き彫りにしています。心血管専門医は、「社会のペースが加速する中で、心臓への負担は確実に増している」とし、「健康教育や生活習慣の見直し、そして応急体制の整備を同時に進めなければ、同じ悲劇が繰り返される」と警告しました。専門家たちは、日常的に心電図や血圧、血糖などの検査を受け、規則正しい生活を心がけること、そして長時間のデスクワークや移動の際にはこまめに体を動かすことの重要性を強調しています。

 2025年に相次いだこれらの出来事は、偶然の重なりではなく、長年放置されてきた社会的健康リスクが表面化したものともいえます。ある医師はこう語ります。 「これは突然起きた危機ではありません。長い年月をかけて静かに進行してきた問題が、ようやく目に見える形で噴き出したのです。今日倒れたのは、特別な誰かではなく、明日の私たちかもしれません」と。

(翻訳・吉原木子)