中国経済はいま、大きな岐路に立たされています。不動産市場の崩壊と輸出の急減という二つの危機が同時に進行し、国家の経済基盤そのものが揺らいでいるのです。専門家は、この事態が単なる景気後退にとどまらず、社会階層の構造を根本から変え、中間層の生活基盤を急速に侵食していると警告します。いまや多くの家庭が「未来への安心感」を失い、二十年前の不安定な時代へと逆戻りするのではないかという懸念が広がっています。
不動産バブルの崩壊:北京周辺の住宅価格が9割近く暴落
中国の経済学者・向松祚(シャン・ソンゾー)は「不動産バブルはすでに完全に崩壊した。北京周辺地域の不動産市場の下落幅は悲惨なほどだ」と述べています。
河北省永清県に建設された「国瑞生態城」を例に取ると、2017年の販売開始当初は1平方メートルあたり約460万円(23万元)、1坪に換算すると約1600万円でした。しかし現在では1平方メートルあたり約58万円(2.9万元)、1坪にしてわずか約200万円と、下落幅は90%近くに達しています。税金や仲介手数料を差し引いても、投資家の損失は甚大です。
また、北京市通州区の「十里春風」住宅地では、かつて1平方メートルあたり約760万円(38万元)、1坪にして約2600万円に達していましたが、現在の取引価格は1平方メートルあたり約16万円(8000元)、1坪にしてわずか約55万円にまで下がっています。
向松祚は次のように指摘します。国際的な経験からすれば、住宅価格と所得の比率は6倍から8倍が適正水準であるにもかかわらず、中国の一部都市では2021年以前に20倍から30倍に達しており、すでに一般の人々の負担能力を大幅に超えていたというのです。現在の急激な住宅価格の下落は、長年にわたり積み重なったバブルの自然な調整であるとしています。
中国当局は「値下げ制限令」という政策を打ち出し、デベロッパーに大幅な値下げを禁止しましたが、市場は「価格はあるが取引がない」という形で応じ、裏では割引や抱き合わせ販売が横行しています。
向松祚は「市場の法則には逆らえない。政策は下落の速度を鈍らせることはできても、流れそのものを逆転させることはできない」と強調し、不動産の長期的な下落が地方財政、銀行資産、さらには住民の資産にまで連鎖的な衝撃を与えると警告しました。
貿易の停滞:中国欧州間鉄道の運行停止が輸出困難を加速
不動産の崩壊に加え、中国経済のもう一つの柱である外貿も、断崖から転げ落ちるように急減しています。
経済学者の付鹏(フー・ポン)は次のように分析しています。過去20年間、中国経済は「不動産+外貿」の二輪駆動に依存してきましたが、いまやその両輪が同時に失速しているのです。中国税関総署のデータによれば、2025年8月の対米輸出は前年比で33%も急落しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)向け輸出は増加したものの、その多くは中継貿易にすぎず、最終的な消費市場は依然としてアメリカに集中しています。そのアメリカの需要低迷が、中国の輸出を直接的に引きずり下ろしているのです。
さらに追い打ちをかけたのが、9月12日からの中国と欧州を結ぶ貨物鉄道の全面運行停止です。ポーランド政府は、ロシアによる度重なる領空侵犯やベラルーシとの合同軍事演習に対応するため、緊急措置として国境を封鎖しました。9月25日には一時的に再開されましたが、情勢は依然として不安定で、列車輸送は長期的な不確実性にさらされています。
付鹏は次のように指摘します。ロシア・ウクライナ戦争勃発以来、中国はロシア寄りの立場を取ってきたことで欧州でのイメージを損ない、一部企業の資産凍結や市場からの信頼低下を招いています。今回の中欧列車の停滞は、地政学的リスクが中国の外貿に与える衝撃を改めて浮き彫りにしたのです。
「世界の意識形態は開放から保守へと向かい、逆グローバル化の傾向はますます鮮明になっている」と彼は警告し、もしトランプ大統領の関税政策が再び強化されれば、中国の輸出余地はさらに狭まるだろうと述べました。
内需の低迷:冷え込む消費者マインドが経済を下押し
外需が低迷する一方で、内需もバトンを受け取ることができません。付鹏は、不動産崩壊が直接的に消費意欲を押し下げていると分析します。2025年の新規住宅ローンは年間で約17兆円(8000億元)から約19兆円(9000億元)にとどまる見込みで、現在の経済規模に換算すれば2008年を下回る水準です。住宅価格は高止まりし、販売は低迷、供給と需要の深刻な不均衡が続いています。
彼は内需の疲弊の根源は2012年にさかのぼると指摘します。長年にわたる高いレバレッジと資産バブルが住民の消費力を前倒しで食いつぶし、さらにコロナ禍の影響が中低所得層の収入見通しを直撃しました。先の見えない将来を前に、人々は「できるだけお金を使わず、とにかく生き延びる」ことを選び、消費者マインドは底を打っています。
中国当局は最近、「消費刺激」や「内需拡大」などの政策で局面を立て直そうと試み、2026年の全国人民代表大会・全国政治協商会議(両会)前に本格的な景気回復への転換を計画しています。しかし複数の学者は、短期的に再び不動産に依存して成長をけん引する可能性は極めて低いと見ています。向松祚は「在庫整理とレバレッジ解消の過程は、一世代にわたって続く可能性がある」と警鐘を鳴らしました。
社会階層の再編:経済は1999年へ逆戻りか
北米在住の時事評論家・文昭(ウェン・ジャオ)は、社会構造の観点から警告を発しています。彼は、現在の貸出増加率、所得水準、消費者マインドをもとに推測すると、中国経済は1999年の状態に戻る可能性があると指摘します。1999年といえば、住宅の市場化改革が始まったばかりで都市の中間層はまだ形成されておらず、国有企業の改革によって大量の失業者が生まれ、社会階層が大きく揺れ動いた時期でした。
現在の状況も当時と似ています。収入見通しの悪化、就職の困難、都市の中間層が再び貧困へと逆戻りするリスクが迫っています。ただし異なるのは、1999年の人々は将来に楽観的だったのに対し、現在は高い債務負担と失われた信頼感によって、社会全体の雰囲気が一層重苦しくなっている点です。
文昭は次のように指摘します。中国当局は情報統制やデータ操作で「見せかけの安定」を維持しているが、ひとたび統制が緩めば、日本の1990年代の不動産崩壊の悲劇が中国で再現される恐れがあるのです。日本では1991年から2002年にかけて地価が平均50%下落しましたが、中国の一部都市ではすでにその水準に迫る下落が見られています。政策による下支えが失敗すれば、住宅価格はさらに暴落する可能性があります。
信頼回復の道:刺激よりも改革が重要
この困難に直面し、多くの専門家は「改革と信頼の再構築こそが危機脱出の唯一の道」と訴えています。
付鹏は、中国当局は国民の所得見通しを改善し、教育や医療の負担を軽減して消費の潜在力を解き放つべきだと提言します。同時に、産業構造を最適化し、高付加価値産業を育成して、新しい世代の消費志向に適応することが必要だとしています。
向松祚は、不動産市場の調整は市場原理を尊重すべきであり、政策の焦点は「リスクの緩和」に置くべきであって「強引な市場の下支え」ではないと主張します。
文昭は、土地財政、デベロッパーの高速回転モデル、銀行の担保依存という「鉄の三角形」の利益構造を打破することが、信用を再建するためのカギであると強調しました。
不動産の崩壊から外貿の停滞、消費者マインドの崩壊から社会階層の再編まで、中国経済はいま重大な転換点に立たされています。将来の出口は、短期的な刺激策にあるのではなく、むしろ構造的な問題に真正面から取り組み、市場の信頼と制度的な公正を再構築することにあるのかもしれません。
(翻訳・藍彧)
