「新車のメルセデス・ベンツが一括払いで約357万円(17万元)だ。補助金を受ければ約315万円(15万元余り)で買える。これは中国製のベンツだが、輸入ベンツも今では約440万円(21万元)に値下がりしている。補助金を使えば約360万~380万円(18万~19万元)で買えるのだ」

 「成都国際モーターショーはどうかしているのか?アウディA6が約525万円(25万元)で買えるなんて。しかも今なら成都地区の割引補助約6000円(300元)、国家補助約31万円(1.5万元)、省級補助約27万円(1.3万元)、さらにティックトック専用ファン補助約4万円(2000元)まで付くのだ」

 「私はこの車のオーナーだ。比亜迪の車のオーナーだが、この車は納車してからわずか7日ほどで、ナンバー登録もしていないのに燃えてしまった。車全体が炎上したのだ」

 最近、中国の自動車市場から衝撃的なニュースが伝わってきました。成都国際モーターショーでは、アウディ、メルセデス・ベンツ、BMWといった高級ブランドの価格が次々と「白菜価格」にまで落ち込みました。新型ベンツCクラスは車両本体価格わずか約400万円(19万元)、アウディA4はなんと約350万円(17万元)で販売されています。それにもかかわらず、販売状況は依然として惨憺たるものです。

 あるブロガーは、BMW、ベンツ、アウディといった高級ブランドがすでに神格化の座から転落したと指摘しています。販売員によれば、ベンツCクラスの最低価格は一括払いでもローンでも約525万~550万円(25万~26万元)で、さらに値引き可能とのことです。アウディA4は分割払いで約350万円(17万元)、Q5のエントリーモデルは約460万円(22万元余り)、BMW 3シリーズは落とし込み価格で約530万~550万円(25万~26万元)で、ローンと一括払いの差はほとんどありません。

 バルク供給業者のZcar社は「原因は単純です。中国の自動車台数はすでに需要をはるかに超えているのです」と述べました。調査によれば、大多数のディーラーが赤字状態にあり、在庫は深刻に積み上がっているにもかかわらず、自動車メーカーは依然として融資に依存して工場を拡張しています。

 合弁車の7月販売は軒並み下落しました。ホンダは35%急落、BMWは約1万台減少、アウディは1万台以上減少、メルセデス・ベンツは40%暴落しました。7月の高級車小売台数はわずか約17万台で、前月比29%の減少です。

 問題の根源は中国政府の政策方針にあります。過去10年以上にわたり、中国政府は新エネルギー車を大規模に補助し、各地で低価格で土地を提供し、工場を乱立させました。その結果、2024年の生産能力は5500万台に達し、市場需要のほぼ2倍となりました。過剰生産が直接的に苛烈な価格競争を引き起こしたのです。

 中国自動車流通協会の調査によれば、黒字を維持できているディーラーはわずか3割であり、大多数は販売価格がコストより20%低い状況です。一部のディーラーは赤字覚悟で投げ売りを行い、新車を「走行距離ゼロキロの中古車」として市場に流し込むケースもあります。さらに数万台規模の新車が「自動車墓場」に放置され、その光景は目を覆うばかりです。

 「昆明市のある山中には、売れ残った新車がなんと1万台以上も停められていて、その山全体が隙間なく車で埋め尽くされていた。これでは今後5年以内に新車どころか、中古車まで全部が紙くず同然になるだろう」

 このような背景の下、世界最大の電気自動車メーカーである比亜迪(BYD)の苦境はより象徴的です。5月以降、同社の国内納車台数は前年比10%減少し、これまでの成長神話が崩壊しました。8月の決算報告では、純利益が過去3年間で初めて四半期ベースで減少し、その下落幅は30%に達しました。株価はそれを受けて8%下落し、1日で約9000億円(約60億ドル)が蒸発しました。わずか4か月間で比亜迪の時価総額は約6.8兆円(約450億ドル)も失われたのです。

 さらに大きな衝撃を呼んだのは、「投資の神様」と称されるウォーレン・バフェットが、保有していた比亜迪(BYD)の株式をすべて売却し、17年にわたる投資を完全に終わらせたことです。バフェットが会長兼CEOを務めるバークシャー・ハサウェイ側もこの情報を確認しましたが、比亜迪側はまだ反応を示していません。市場関係者の間では、この動きは国際的な投資家たちが比亜迪の将来に不安を抱いていることを反映しているとの見方が広がっています。

 関係者によると、比亜迪は2025年の販売目標を当初の550万台から460万台に引き下げたとされています。核心的な問題は政策の変化にあります。中国政府からの政策支援が大幅に縮小した後、メーカーは価格競争に頼らざるを得なくなりました。2023年にはこの戦略で比亜迪が市場を席巻しましたが、現在では政府による規制が強まり、過度な値下げが制限されるようになり、メーカーが頼みにしていた競争優位性がむしろ削がれているのです。さらに深刻なのは資金繰りの問題です。規制により、自動車メーカーは60日以内にサプライヤーへ代金を支払うことが義務付けられていますが、比亜迪はこれまで平均して275日もの長い支払い猶予を取っていました。そのため資金チェーンが一気に逼迫しました。海外市場は成長をもたらしているものの、欧米では規制策が検討されており、輸出戦略の前途は暗い状況です。

 比亜迪の歩みは興味深いものです。1995年に電池工場として出発し、2003年に自動車業界へ参入、2016年にはブランドを再構築し、政府の補助金を追い風に新エネルギー車市場で頂点に立ちました。しかし現在、同社はかつてない挑戦に直面しています。業界全体もまた鋭い矛盾を抱えています。政府は雇用と税収を守りたい一方で、メーカーは利益と生存を確保しなければならず、この両者の調和は極めて困難です。

 さらに追い打ちをかけているのが、比亜迪の市場での評判の悪化です。ある整備士が暴露したところによれば、比亜迪秦Plusを修理する際、コンプレッサーに異常な化学反応が起き、白煙を噴き続けたといいます。「長年修理をしてきたが、こんなコンプレッサーは初めて見た」と語りました。

 消費者からの苦情も後を絶ちません。「約400万円(20数万元)で買った比亜迪の車が、2年も経たないうちに、たった1つの夏でハンドルの表面がはがれてしまった。この品質、本当に笑うしかないだろう」

 さらにあるオーナーは、やむなくこう訴えました。「比亜迪の車は絶対に買ってはいけない。なぜなら、いつどこであなたを人里離れた場所に放り出すかわからないからだ。今、車の電池残量はすでに20%しかなく、観光地の地面はとても冷えていて、気温はほぼ0度、周囲には誰もいない。私は今どうすればいいのか全くわからない」

 市場崩壊から評判の下落に至るまで、比亜迪と中国自動車産業全体はいま十字路に立たされています。今後は健全な競争に進むのか、それとも激しい競争の悪循環にさらに深くはまり込むのか。その答えは一企業の運命にとどまらず、中国経済全体の安定にも影響を及ぼします。

 「補助金に支えられた繁栄」から「過剰生産による危機」へ、中国の自動車産業はいま大きな調整期を迎えています。比亜迪の苦境はその縮図にすぎず、高級ブランドの崩壊はむしろ警鐘といえます。産業の高度化と市場原理の間でいかにバランスを取るかが、この世界最大の自動車市場の未来を決定づけるのです。

(翻訳・藍彧)