かつて「海浜の楽園」と呼ばれた山東省の青島市は、いま前例のない不況と静まり返った街並みに直面しています。人であふれていた繁華街は閑散とし、狂乱を極めた不動産市場から、住宅ローンを返せずに追い詰められる家庭まで、この都市は寒風にさらされながら衰退の一途をたどっています。住宅価格の崩壊、雇用の凍結。この危機が奪ったのは財産だけではなく、無数の家庭の希望と尊厳です。市民の心は、いまや崩れ落ちつつあります。
ブロガー「内幕分享員」が投稿した映像は、青島の現状を生々しく映し出しています。高層ビルが立ち並ぶ街で、1階の店舗の多くはシャッターを下ろし、通り全体が空っぽです。入口の看板はほこりにまみれ、まるで都市の衰退をあざ笑うかのようです。街の不動産仲介店は軒並み閉鎖され、かつての広告看板も色あせた布切れとなり、風に揺れています。その光景はゴーストタウンを連想させます。
商業エリアに足を踏み入れると、その冷え込みはさらに鮮明です。10軒のうち営業している店はわずかで、客はほとんどいません。店員はスマートフォンを無気力にいじるばかり。食事時の飲食店でさえ客はまばらで、料理を運ぶ店主の目には隠しきれない寂しさがにじみます。青島を代表する海鮮市場ですら異様な静けさに包まれています。かつての呼び込みや値段交渉の声は消え、店主たちはプラスチック椅子に腰掛けたまま、ぼんやりと時を過ごすばかりです。蟹やアワビが何十斤も並んでいても、丸一日経っても売れない。ある店主は嘆きます。「青島の人たちにはもうお金がない。誰が海鮮なんて買いに来るのか。」
夜の青島はさらに衝撃的です。かつてネオンが輝き、灯りが絶えなかった繁華街は、今や広範囲で真っ暗になり、ところどころにわずかな光が残るだけ。高値で購入された商店も完全に空き家と化し、ガラスはほこりに覆われ、中は空っぽです。市中心部のショッピングモールでさえ半分の店舗しか営業しておらず、客よりも店員のほうが多い有様です。あるフロアは照明が落とされ、廃墟の倉庫のようになっています。
オフィスビルも大量の空室が広がり、エレベーターの扉が開いても足音ひとつ響きません。投資家は資金を失い、小規模事業者は廃業して逃げ、若者はスーツケースを抱えて都市を後にします。残されるのは、荒廃と静けさばかりです。
不動産市場の崩壊は、市民の怒りをも引き出しています。中国全体の住宅市場が下落するなか、青島も例外ではありません。「内幕分享員」は「5年前には『投資の楽園』と宣伝されていたが、今では多くの人にとって一生の悪夢になっている」と語ります。当時500万元で購入した住宅は今や100万元ほどの価値しかなく、1年売りに出しても買い手は現れません。必死でローンを背負った家庭は、夫婦ともに失業し、家は売れず、ローンも返せず、絶望の中で立ち尽くしています。
2020年に黄島区の秀蘭禧源山で150万元の物件を購入した女性は、わずか数年で40〜50万元の損失を抱えました。同じマンションの住民からは「せいぜい100万元でしか売れない」と言われ、彼女は憤慨しています。別の市民は「青島の住宅価格がさらに下がれば、多くの家庭が崩壊する。中古住宅の売り出し件数は17万件を超え、全国でもトップ10に入っている」と不安を口にします。
中国社会には「家があってこそ家庭がある」「家がなければ結婚できない」「家がなければ子どもを学校に通わせられない」といった言葉が長く根付いてきました。これらは世代を縛り、多くの若者をローン地獄に追い込みました。ある女性は怒りを込めて語ります。「この三つの言葉は一つひとつが人を追い詰めた。特に最後の一言が、多くの人にとって耐えられなかった。でも今になってわかる、全部が人をだます言葉だったんです。」そして問いかけます。「あなたはどの言葉に追い詰められて家を買いましたか?」
仲介業者も苦しい胸の内を明かしています。「最近、多くの物件を見ましたが、あっという間に数十万元も値下がりしている。精装修(内装付き物件)のオーナーが半額で売りに出すこともある。青島では少なくとも4分の1の家庭が破産寸前で、負債は頭金をはるかに超えている。裁判所の競売案件も急増し、さばききれないほどです。」
ある仲介業者は、顧客が店で泣き崩れた出来事を語りました。1平米あたり1.3万元で購入し、首付40万元を払い、数十万元のローンを返済してきたものの、銀行にはまだ69万元の債務が残っている。その家の市場価格はせいぜい50万元。「売ればさらに19万元を失う」と絶望し、涙を流しました。仲介業者は「こうしたケースは非常に多い。2019年以降にローンを組んだ人で、前倒し返済していない人は、今やほとんどが債務超過かその瀬戸際にいる」と打ち明けます。
彼らは口をそろえて警告します。「住宅価格がさらに下がれば、一度“車”に乗ってしまった人は、ドアが溶接されたように逃げられない。オーナーの負債はますます膨らみ、穴は大きくなる一方だ。」
青島で16年間仲介業に携わってきたブロガー「青島伝奇聊房」も、市北区では2年前に200万元以上で売られていた百平米超の高層マンションが、今では半額近くに落ち込んでいると指摘します。特に値下がりが激しいのは高級住宅地の嶗山(ラオシャン)地区です。海沿いの豪華な物件はかつて1億元で売られていましたが、今では4000万元、あるいは2000万元まで下げても買い手がつきません。
「かつて不動産で巨富を得た人々は、今や投資の墓場に埋もれている。売れば売るほど安くなり、ローンは絞首縄のように人々を締め付ける」と「内幕分享員」は総括します。物件を仲介サイトに載せても内見すらなく、オーナーは「白菜価格で売ります」と朋友圈に書き込むしかない。しかし返ってくるのは沈黙だけです。
「青島の不動産崩壊が奪ったのは財産だけではない。家庭の希望と尊厳そのものを奪ったのです。」ある夫婦はこう嘆きます。「家は今や紙くず同然。売れもせず、捨てもできず、それでも毎月ローンに首を絞められている。」
さらに恐ろしいのは、不況が不動産にとどまらないことです。企業の倒産ラッシュ、リストラの波が押し寄せ、雇用市場は完全に凍り付いています。若者が工場の門前に並んでも、提示される時給は11〜12元、月収は3000元に届きません。ホワイトカラーも仕事を失い、デリバリーや宅配に転じていますが、この業界も人であふれ、バイクがずらりと並び、注文を待っています。「今は配達する人のほうが、頼む人より多いんですよ」と苦笑する声も聞かれます。
「都市の崩壊を最も直接的に示すのは、人心の崩壊です」と「内幕分享員」は指摘します。市民は街を離れ、子どもを実家に戻し、自らは出稼ぎに行く。地下鉄は閑散とし、バス停も人影がまばらです。かつて海浜の楽園と呼ばれた青島は、現実の寒風に一歩一歩むしばまれ、繁栄から荒廃へと転落しています。
(編集・翻訳/吉原木子)
