米ニューヨーク連邦地裁は19日、合成麻薬「フェンタニル」の原料をナッツやドッグフードに偽装して輸入したとして、中国の化学メーカー元幹部に拘禁25年の実刑判決を言い渡した。フェンタニルは米国で深刻な社会問題を引き起こしており、今回の事例は上流サプライヤーを直接断ち切る試みとして注目されている。

 実刑判決を受けたのは、湖北省・武漢市の化学メーカー「精奥生物科技(Hubei Amarvel Biotech)」元幹部の王慶周(Qingzhou Wang)被告だ。すでに実刑判決を下された同社幹部の陳依依(Yiyi Chen)被告と共に、フェンタニルの前駆体となる化学物質を米国へ違法に輸出した他、資金洗浄にも関与した罪に問われていた。

 本件では米麻薬取締局(DEA)が200キロの前駆体化学物質を押収しており、これは55キロのフェンタニルを合成するのに十分な量だ。日本の税関が発表した報告書によると、米国で流通・乱用されているのはカルフェンタニルと呼ばれる物質で、致死量はわずか2mgとなっている。すなわち、両被告が輸送した前駆体は約2500万人を死に至らせる恐れがあるということだ。

化学メーカー「精奥生物科技」元幹部の王慶周(米国麻薬取締局より)

 事件の発端は、2023年初頭、米麻薬取締局(DEA)の潜入捜査官がメキシコの販売業者を装い、2名と接触したことだった。被告らは快く前駆体の供給を承諾し、「100%の隠密輸送」を保証した。そして、化学物質をナッツやドッグフード、エンジンオイルに偽装し、200キロの前駆体を米国へ輸送することに成功した。その後、DEAの潜入捜査官がフィジーで「商談」を装った会合をセッティングし、会場に現れた2人はそのまま逮捕され、米国へ身柄を引き渡された。

 検察側は、両被告がフェンタニルの致死性を承知しながらも大規模に販売し、全く反省の態度を示さず、再犯の危険性があると強調した。王被告に対し、少なくとも240ヶ月、すなわち20年の刑期を求刑した。

 マーケティングマネージャーの陳依依被告は8月に15年の実刑判決を言い渡された。裁判官は、彼女が化学物質がフェンタニルに加工されることを「十分承知していた」にもかかわらず、法廷で虚偽の陳述を行ったと強調した。今回の判決は、米国が違法薬物の上流サプライヤーを摘発する上で重要な判例になると考えられている。

 米連邦捜査局のカシュ・パテル長官は、フェンタニルを標的とした法執行が末端取引から上流サプライヤーへと拡大していると強調した。これまで米国で逮捕された麻薬密売組織の首謀者は、主にメキシコの麻薬カルテルや仲介業者だったが、今回の事案は「根源」に直撃し、中国の化学企業幹部を法的に処罰した。

 

2019年の各地域から米国への違法フェンタニルの流入(Drug Enforcement Administration, Public domain, via Wikimedia Commons)

 米国はこれまで何度もフェンタニル前駆体の問題について中国当局に圧力をかけてきた。中国当局は輸出管理を強化したと主張しているものの、一部の中国企業は依然として麻薬組織に供給を続けている。中国の業界関係者によると、地方政府は利益と産業依存から、実際には意図的に放置することが多いという。米麻薬取締局(DEA)の2025年版『全国薬物脅威評価』でも、一部の中国サプライヤーが規制対象となっている前駆体の国外供給において「慎重になりつつある」と指摘されているが、グレーな流通経路は依然として完全に断ち切られていない。

(翻訳編集・王自勤)