新型コロナウイルスのパンデミック以降、中国経済は低迷を続け、消費と雇用の両方が大きな圧力にさらされています。中国政府は相次いで消費刺激のための特別政策を打ち出していますが、その効果は限定的です。多くの家庭は住宅ローンを返済しながら日常生活を維持しなければならず、借金に頼らざるを得ません。
中国を専門とする調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの推計によれば、2024年だけで中国の個人ローンの滞納者数は2500万人から3400万人に上るとされています。このような背景のもと、多くの人にとってネット融資が最後の選択肢となっていますが、高金利によってさらに多くの国民が借金地獄に陥っています。
「リスクローン」利用者数は8300万人に達する可能性も
中国のネット融資プラットフォームは審査基準が低く、融資スピードも速いため、信用監督体制が十分に整っていないことも相まって、多くの人が「借金で借金を返す」悪循環に陥っています。長期失業者にとっては、ネット融資がほぼ唯一の生活手段となっているのが現状です。
ティックトックやクアイショウ、小紅書(シャオホンシュ、RED)といったSNSには、自らの「返済日常」を記録する人々が数多く現れており、彼らはストレスを発散すると同時に、心理的な慰めを求めています。ガベカル・ドラゴノミクスのデータによると、延滞しているがまだ正式な債務不履行には至っていないローンを含めると、リスクのある借り手は6100万人から8300万人に達し、15歳以上人口の5〜7%を占める可能性があるといいます。
BBC中国語版が9日に報じたところによると、この現象の背景には、金融サービスプラットフォームが利用者の借金に対する心理的な負担を徐々に弱め、融資のハードルを下げることで消費を刺激している実態があります。この戦略は、中国当局が推進する消費拡大と内需拡大の政策方針とちょうど一致しているのです。
ネット融資プラットフォームは玉石混交
現在、融資プラットフォームは大きく三つのカテゴリーに分類できます。大型融資プラットフォームには、アリババの「花唄(ファーベイ)」や京東(ジンドン)の「白条(バイティアオ)」があり、クレジットカードに近い仕組みで、審査が厳しく拘束力も強いのが特徴です。中型プラットフォームには「拍拍貸(パイパイダイ)」のようなインターネット系貸付機関があり、比較的ハードルは低めです。小規模融資は、規模の小さいプラットフォームや、場合によっては闇金すら含まれます。
銀行や大手プラットフォームとの競争のため、中小の融資プラットフォームは「低リスク」「即時融資」「返済のプレッシャーなし」といった広告文句で利用者を引きつけ、資金は短時間で口座に振り込まれる仕組みです。しかし一度振り込まれてしまうと返金はできず、利用者は強制的な分割払い条項を受け入れざるを得ず、プラットフォーム側の利益を保証する仕組みになっています。
また、ネット融資の金利は一般に銀行融資よりも高額です。頻繁にネット融資を利用する王さんはこう語っています。「京東やアリババのプラットフォームから約20万円(1万元)を借りると、最終的には約22万円(約1.1万元)を返済しなければならない。中小プラットフォームから借りれば、返済額は約26万円(1.3万元)に達することもある」
今年4月に「財新資料」が報じた高利貸しの事例では、山東大学経済学部の姜樹方(ジャン・シューファン)教授が「京東金融」の「金条」プラットフォームで融資を申請した際、誤って年利24%の「拍拍貸・予備資金」を選択してしまい、即座に約216万円(10.8万元)が振り込まれました。姜教授はすぐに完済をしましたが、元本を返済した上で利息約6.5万円(3240元)を支払う必要があり、これは日利3%、年利1080%に相当します。
返済不能に陥る借金者
中国の大手証券会社に勤務するある関係者はBBC中国語にこう説明しました。「現在の中小融資プラットフォームには有効な信用監督システムがなく、借金を返済せずに延滞しても、社会信用資格者リストに載ることはない。借り手に住宅や自動車の購入予定がなければ、実質的な制裁措置はほとんど存在しない。だからプラットフォームは最初から貸した全額を回収するつもりはない。回収できなければ、債権を資産としてまとめて他の機関に売却する。これが不良資産処理ビジネスである。暴力的な取り立てを行うかどうかは、債権を引き受けた第三者の判断次第だ」
「自由財経」の報道によると、2024年、中国における住宅ローンは家計ローン総額の65%を占めており、その大半は国有銀行が融資しています。社会的対立の激化を避けるため、銀行は回収時に比較的穏やかな態度を取っています。しかし、オンライン融資プラットフォームの取り立てはより強硬で、多くの借金者を苦しめています。
目を引く派手な広告
BBC中国語の取材に応じた複数の金融関係者は「拍拍貸」の名を挙げました。同社のウェブサイトのトップページ半分を占めているのは、中国の重量挙げ国家チームの宣伝写真です。公開情報によれば、拍拍貸は2024年に重量挙げ国家チームと提携しただけでなく、「人民日報」などの官製メディアとも協力しています。
すでに2021年の段階で、中国メディアは繰り返し、数万人のユーザーが「拍拍貸」の高金利、暴力的な取り立て、個人情報漏洩について苦情を訴え、多くの官製メディアからも「悪名高いネット融資プラットフォーム」と名指しで批判されていました。しかし今日に至っても、同社は依然として国家のスポーツチームから公式のお墨付きを得ているのです。
近年、ネット融資の広告はほぼ至るところに存在します。たとえば、当局が「青少年に優しいサイト」と定義する動画サイトBilibili(ビリビリ)の場合、小口融資広告がトップページの目立つ位置に頻繁に表示されます。広告のスローガンには「約60万~100万円(3万~5万元)の小銭なら、もう人に頼る必要はない」と書かれているのです。
「青少年に優しいサイト」は本来、前向きで健全なコンテンツを提供し、広告に対しても特別な審査基準を設けるべきです。そのため、利用者はより安心して広告を受け入れてがちです。国家統計局のデータによると、2024年の中国国民の一人当たり可処分所得はわずか約80万円(4万元)に過ぎません。にもかかわらず「約60万~100万円」が「小銭」と表現されることで、借金に対する警戒心が明らかに弱められてしまいます。「人に頼らなくていい」というキャッチコピーは、借金希望者の人間関係上の弱点を的確に突いており、広告の誘惑性を高めています。
融資はますます簡単に
王さんによれば、彼が利用している9つの融資プラットフォームでは、名前、年齢、住所、顔認証さえあれば融資が可能で、厳格な信用審査はほとんど行われないといいます。
かつて融資機関で働いていた楊さんは、BBC中国語にこう語りました。「とにかく融資が早いと感じさせるのが重要だった。それが当時の業務の重点だった。借り手に借金のハードルがほとんどないと感じさせ、心理的負担を可能な限り減らすことが目的だった。融資実行の時間を数十秒に短縮する必要があった。いくら借りるか、分割払いの回数、リスク管理などは、ビッグデータ、人工知能、量的リスク技術で裏から支えられていた。情報化の時代では、その人がどれだけ稼ぎ、どの程度の返済能力があるかは、一対一で確認しなくても分かるのだ」
ネット融資が普及するにつれ、債務リスクも積み重なっています。今後これが大規模な社会問題を引き起こすかどうかは、なお注視すべき点だといえます。
(翻訳・藍彧)
