日本の小売大手イオングループは9月、北京に残された最後の大型ショッピングモール「イオンモール北京豊台ショッピングセンター」の営業を正式に終了しました。これは単なる一つの商業ブランドの幕引きにとどまらず、一世代の消費や生活にまつわる集団的な記憶をも同時に持ち去った出来事でした。
最近、ある北京のブロガーが閉店間近のショッピングモールを訪れ、ピークの時間帯にもかかわらず閑散とした最後の姿を記録しました。
週末のピーク時間帯でも「空城」状態
9月6日夕方、本来なら商業エリアが最も賑わうはずのピークの時間帯に、ブロガー「忐忑的可乐饼(タンテゥーダ・コロッケ)」の目の前に広がっていたのは異様なほど静まり返ったイオンモールの光景でした。
彼が撮影した動画には、モール正面入口付近のカフェがすでに閉店している様子が映っています。館内に入ると、彼は「これは週末の夜なのに、ほとんど人がいない」と語りました。同ブロガーは、イオンと共に出店していた多くの有名ブランド、たとえば日本の家具小売大手「ニトリ」や、中国の雑貨チェーン「The Green Party(ザ・グリーンパーティー)」などがすでに撤退していることを指摘しました。これは、テナントが主力店であるイオンに大きく依存していたことを示しています。主力店が撤退すれば、人の流れも失われ、従来のビジネス環境も大きく変わってしまうのです。
ニトリは中国国内に複数の店舗を展開していましたが、「忐忑的可乐饼」によれば、イオンモール内では広大な売り場面積を有していたものの、近年は中国で相次いで閉店しており、今後は中国市場から撤退する可能性もあるとのことです。
8月初旬、「イオンモール北京豊台ショッピングセンター」は、2025年9月30日をもって正式に営業を終了すると発表しました。10月以降は新たな運営会社が引き継ぎ、「鑫嘉匯(しんかえ)ショッピングセンター」と名称を変更して再出発する予定です。
「豊台ショッピングセンター」はイオングループにとって北京で最後のモールでした。中国メディアによれば、その撤退は北京の一世代にとって、消費と生活を共有した記憶をも同時に消し去るものであり、イオンという商業ブランドが北京から完全に姿を消した象徴的な出来事だと伝えられています。
核心エリアの衰退と消費力の低下
同ブロガーによれば、訪れたのは買い物のピークの時間帯でしたが、館内の客はごくわずかでした。
彼は「当初は多くの店舗が残って新しい運営会社と契約を締結するだろうと思っていた。しかし実際は大半が閉店してしまった」と語りました。これは、新しい運営主体である「鑫嘉匯(しんかえ)ショッピングセンター」がテナント誘致において大きな困難を抱えていることを示しています。現在の経済状況を踏まえると、商業施設に新たな店を呼び込み、収益を上げるのは極めて難しいとの見方を示しました。
彼はまた「イオングループは実力があり、その存在だけで小売業者を引きつける力があった。イオンが撤退した後では、新しい運営会社がテナントを集めるのは非常に難しい。利益を出すのはもっと難しい。外資が撤退した後、それは次に続く企業にとって挑戦であって、決して好機ではない」と指摘しました。
彼のカメラが捉えたのは閉ざされた店舗の数々でした。モール最上階の飲食店街を歩くと、土曜日の夕食のピークの時間帯にもかかわらず、食事をしている客はほとんどいませんでした。
彼は「モール最上階の商業エリアが、土曜夜7時42分にこの有様だ。おそらく北京全体の多くのモールも同じ状況だろう。鑫嘉匯ショッピングセンターのテナント誘致は本当に前途多難だ」と嘆きました。
また、イオングループの「撤退告知」と国内企業の「引き継ぎ宣言」とを比較しました。日本企業の告知はより率直で「読みやすい」と感じた一方で、国内企業の告知は現実を過度に美化し「継続経営」をうたっていたといいます。しかし実際には多くの店舗がすでに閉店していました。
モールを出て周囲を見渡した彼は「出ていける店はほとんど出てしまった」と述べ、「空っぽ」という言葉で現状を表現しました。
では、なぜこうした状況が起きたのでしょうか。彼は、モールの衰退と周辺住民の消費力低下は、近隣にある「豊台科学院(中国軍軍事科学院軍事医学研究院)」の衰退と深く関係していると分析しました。
2020年以前は豊台科学院の職員がイオンモール周辺の住宅を借りる主要な入居者層であり、収入は安定して消費力も高かったといいます。新型コロナウイルスの流行前には住宅は比較的容易に貸し出せ、家賃も高値で推移していました。しかし、パンデミック後は豊台科学院の職員に貸し出されていた住宅が借り手のつかない状態となり、家賃も大幅に下落してしまったのです。
イオンはアジアで戦略転換か
イオングループが中国市場に進出したのは1996年、広州天河城に初の総合百貨店「吉之島(ジスコ)」を開店したのが始まりでした。そこから中国市場への本格的な展開が始まります。
イオンは中国で、総合スーパー、食品スーパー、ショッピングモールの3つの業態を軸に拡大しました。総合スーパーが「イオンスーパー」、ショッピングモールが「イオンモール」にあたります。これらの店舗は全国各地に広がり、特に人口が集中する北京・天津・河北地域や、経済発展が進んでいる江蘇省、湖北省、浙江省、広東省などに多く出店してきました。
しかし2017年以降、中国で新規開店した店舗のうち、総合スーパーの割合は年々減少しています。加えて、中国での事業は8年連続で赤字に陥っており、近年は閉店のニュースが相次いでいます。
北京豊台イオンモールに入っていたイオンスーパーも、今年5月16日に正式に営業を終了しました。かつては北京の朝陽大悦城や昌平イオン国際モールにも店舗を構えていましたが、それぞれ2022年10月と2023年5月に閉店しています。
北京市場に限らず、広州市、武漢市、深セン市などでもイオンスーパーの閉店が相次いでいます。今年2月には、深センの「宝安センター店」が13年の営業を経て閉店し、同市でのイオン店舗は2店にまで減少しました。また、武漢市の「イオンスーパー凱徳・西城店」も2024年8月20日に閉店しました。
一方で、ベトナム市場での成長は目覚ましいものがあります。ベトナムの経済が急速に成長していることを背景に、イオングループの売上高は大きく伸び、昨年第4四半期は前年同期比30.1%増、通年でも20.1%増となりました。特に衣料品部門の伸びが顕著で、26.9%の増加を記録しています。
このように、中国市場からの段階的な撤退と、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国への進出強化は、イオングループがアジアで進める戦略転換の一環である可能性が高いと見られています。
(翻訳・藍彧)
