中国の不動産市場は、上場企業が抱える投資用不動産だけで約26兆円にのぼります。本来なら、高速道路を何千キロも建設したり、病院や学校を数多く整備できる規模のお金です。しかし、現実にはコンクリートの建物に閉じ込められ、不動産市場の中で眠ってきました。

 2019年の時点で、中国A株市場に上場している企業の約半数、1826社が投資用不動産を保有し、その総額が26兆円に達していました。アパレルやテクノロジー、畜産など業種はさまざまですが、多くの企業が「主業で稼ぐより不動産に頼った方が手っ取り早い」と考えていました。何故なら、赤字が続いても、物件を数戸売るだけで一気に黒字に転換できるからです。実際、ある企業は上場廃止を回避するために8戸の不動産(延べ約2853平米)を売却し、評価額ベースで約31億円。取引が予定どおり進めばさらに、当期純利益を約16億円押し上げられると発表しました。こうした「不動産売却による延命」は決して珍しくありませんでした。

 こうした動きが広がった背景には制度の隙間がありました。かつての購入制限は主に個人を対象にしており、法人による不動産購入はほぼ自由でした。資金さえ用意できれば、会社名義で次々と取得できたのです。2018年前後からは法人購入も規制されましたが、その時点ですでに企業に膨大な在庫が積み上がっていました。現在では市況の冷え込みもあり、売却に動く企業が増えています。ただし、売りたい企業が増えても、買い手は思うように現れません。供給過剰のなかで、かつての「不動産投資グループ」は損を覚悟で手放さざるを得ない場面が増えています。

 個人投資家も同様です。北京市郊外の燕郊は象徴的な例です。2017年前後には一部の物件が1㎡あたり約80万円に達し、多くの人が借金を増やして購入しました。「これからもっと値上がりする」と信じられていたからです。しかし規制強化や金利上昇で市況が反転し、価格は一部で4割以上下落しました。ある住戸は8520万円で購入されましたが、現在は約4700万円にまで下がりました。利息や費用を含めると4000万円以上の損失。毎月の返済が重荷となり、ついにはローンの支払いを停止せざるを得なくなった人も少なくありません。当時の「持っていれば必ず上がる」という楽観論が、いかに危うかったかを物語っています。

 上海でも象徴的な人物がいます。不動産投機家の欧成效氏です。彼は上海外環エリアで20戸規模の物件を保有し、レバレッジを駆使した投資手法で注目を集めました。SNSや講演活動を通じて彼の支持者は広がり、一時は「不動産教祖」とまで呼ばれました。しかし市場が冷えて資金コストが上昇すると、想定した不動産価格の値上がりは続かず、資金繰りの難しさが表面化しました。派手な成功談で注目を浴びた人物ほど、真逆の展開では大きな打撃を受けざるを得ないのです。

 香港でも同様です。香港の投資グループが約36億円規模で高級住宅を「底値で買った」と豪語していました。背景には、当局が住宅取引規制を緩和するのではないかという期待がありました。しかし現実には価格が1年足らずで約2割下落し、数億円規模の含み損を抱えることになりました。国や地域が違っても、所有者が自己使用するということではなければ、期待先行の投資はあっけなく崩れるのです。

 これらの事例は単純な現実を示しています。価格が永遠に上がり続ける市場は存在しません。借金を増やして投資すれば、値上がりすれば利益が膨らみます。しかし、値下がりすれば損失がそのまま跳ね返ってきます。値下がりすれば、企業が売却益で決算を取り繕う事は一時的な事です。個人が「いつかはもっと高く売れる」と信じ、期待して購入しても、経済状況の困難に直面します。

 家は本来、人が暮らすためのものです。短期的な値上がりに賭けるための、万能な収益装置ではありません。市場が冷え、買い手が減り、資金繰りが厳しくなれば、幻想は現実の中で崩れ去ります。企業であれ個人であれ、最後に直面するのは、手元に残る現金と所有者が自己使用するのかという事です。中国政府自身も近年「住宅は投機ではなく、住むためのものだ」と繰り返し強調しています。必要なのは、「住む」という目的を最優先に考え、借入れの前提や価格下落のリスクを冷静に見積もる姿勢だと言えるでしょう。

(翻訳・吉原木子)