中国の新エネルギー車メーカーは生き残りに苦しみ、各社が奇策を繰り出しています。先日、有名な自動車ブロガーが暴露したのは、新車発表時に顧客の注文を集めるため、あるいは「上層部を喜ばせるため」に注文データを捏造する行為が横行しているという実態でした。このニュースは業界関係者の共感を呼び、次々と暗部が明らかになっています。

中国国内車企に蔓延する「小口予約1万件超え」の虚偽宣伝

 著名自動車ブロガーの呉佩(ウー・ペイ)は300万人以上のフォロワーを抱えています。彼は最近、微博(ウェイボー)に投稿し、自動車業界全体で「小口予約1万件超え」という虚偽データが蔓延していると指摘しました。多くの自動車メーカーは「上層部を喜ばせる」ため、また「大ヒットの幻想を演出する」ために、新車発表前から広告会社を動員し、虚偽の予約注文を捏造しているのです。しかし数か月後に実際の新車納車が始まると、その虚偽は必ず露見します。

 「小口予約」とは、顧客がある車種の購入を希望する際に、まず数万円(数千元)の予約金を支払う仕組みです。もし購入を取りやめた場合には返金も可能です。この「小口予約」データは市場や投資家に対して商品の人気を示す指標として利用されますが、実際には多くの水増しが含まれています。

 一方で「大口予約」とは、消費者が車両の全ての仕様を確定した上で、メーカーと正式な購入契約を結ぶものです。この契約に基づき、メーカーは生産プロセスを開始し、消費者は高額で通常返金不可の前払金を支払わなければなりません。

 呉佩は、今回明かしたのは特定のブランドや企業を狙ったものではなく、業界全体に広く存在する現象に対する警鐘であると述べました。

 ブロガー「小李車評李建紅(リ・ジエンホン)」もこう語っています。数年前、ある中国国産の新エネルギー車が発売された際、「発売後72時間で注文6万台突破」と宣伝しました。ところが、その車は発売から1年経っても販売台数が6万台に届かず、虚偽が露見すると、そのメーカーはネット上で関連する記事を次々と削除しました。

マーケティングデータ捏造はすでに産業チェーン化

 『都市快報』は業界関係者の話を引用し、このようなデータ捏造がすでに一つの完全な産業チェーンを形成していると報じました。広告会社は数か月前から自動車メーカーのために「小口予約1万件超え」のマーケティングプランを設計します。これには虚偽の注文データを作るだけでなく、「やらせの書き込みネット工作員」を動員してネット上で話題を作り、ユーザーに対して使う営業トークまで事前に用意しているのです。

 自動車専門メディア「差評」の記事によると、ある自動車メーカーの匿名のマーケティング責任者は率直に「これは業界の暗黙のルールである。特に競争力に欠ける新車種はまったく売れないが、それを上層部に悟らせるわけにはいかない」と語りました。

 あるベテランの広報担当者も、自動車メーカーのプロジェクトを請け負う際、もし発表会関連の案件なら、発表会後に一定数の注文が確保されなければ、プロジェクト費用を全額受け取れないと明かしました。

 別のサプライヤー責任者も、自社がメーカー側から「購入意向金(仮予約金)」の割当を課されたと語り、その本質はやはり小口予約に過ぎないと指摘しました。新車の正式発表後、彼一人だけで23件もの予約金を入れさせられたといいます。さらに、多くの自動車メーカーの社員自身も、新車発表時に自腹で「自主的に」一件の予約を入れるよう求められているのです。

 車の空気抵抗値や衝突テスト、航続距離や燃費性能、さらには自動運転機能といった指標が、過度な宣伝に悪用され信用を失った結果、注文数そのものも本来の目安としての価値を完全に失ってしまったのです。

中国車企の虚偽マーケティングは長年存在

 2023年から、中国当局は新エネルギー車メーカーに対する補助金政策を停止しました。そのため多くのメーカーはコストを抑えるため、補助金が終了する前にできるだけ多くの車を製造し、ナンバー登録させ、政府補助金を不正に獲得しようとしました。

 彼らはまず自社の社員やサプライヤーの購入枠を使い、車両を一時的に名義変更して販売済みであるかのように装います。その後、さらに低価格や各種の優遇策で消費者を引き付け、実際に顧客が注文すると、その車両を改めて顧客に名義変更するのです。

 現在では、これが多くの自動車メーカーが用いる一般的な販売戦略となっています。それが「走行距離ゼロの中古車」です。本質的には将来の販売台数を前倒しして数字を飾る行為にすぎず、現時点での見せかけを保つための手段となっているのです。

中国16社の自動車メーカーの利益もトヨタ1社に及ばず

 今年上半期、中国の複数の上場自動車メーカーの財務報告によれば、赤字が広がり、業績の低迷が続いています。蔚来汽車(NIO:ニオ)を含む7社だけで上半期に約3600億円(180億元)の損失を計上し、業界全体の利益率は近年の最低水準にまで落ち込みました。

 中国メディア『第一財経』が9月2日に発表した、A株と香港市場に上場する16の乗用車メーカーの財報分析によると、上半期の業績は二極化が進み、赤字や利益の縮小が主流となっています。16社の純利益合計は約0.81兆円(392億元)でしたが、トヨタ自動車1社の上半期の純利益は1.5兆円に達し、中国16社合計の1.9倍となりました。

新エネルギー車メーカーの欺瞞はマーケティング捏造にとどまらず

 マーケティングデータ捏造の背後には、多くの新エネルギー車メーカーが長期的な赤字に陥り、激しい競争の中で次々と淘汰されているという現実があります。
中国乗用車連合会のデータによれば、2024年1月から5月までの間に、中国自動車市場の値引き規模は2023年通年の9割をすでに超え、新エネルギー車は総じて赤字で販売されている状況です。また、中国自動車流通協会の統計では、2025年第1四半期の自動車業界の平均利益率はわずか3.9%にまで低下し、過去10年間で最低を記録しました。

 業界関係者の共通認識では、過剰生産、需給バランスの崩れ、技術更新の加速、補助金政策の終了、サプライチェーンの圧力など複数の要因が重なり、業界全体の収益力を歴史的な低水準に追い込んでいるということです。

 その結果、生き残った一部のメーカーの間では、部品の手抜き、スマートフォン用チップを車載用チップの代替として使用すること、さらにはマーケティングデータの捏造など、様々な不正が次々と生じています。

 自動車専門メディア「懂車帝(ドンチャーディ)」が2025年3月に行った抜き打ち調査報告によれば、約140万円(7万元)以下の一部の新エネルギー車ではコスト削減のためにエアバッグを廃止し、安価なコントローラーに切り替え、さらにはOTAアップデート機能さえ省かれていました。初期の使用段階では気付きにくいこれらの品質問題は、中長期的には安全性や信頼性のリスクとなる可能性が高いと指摘されています。

 要するに、マーケティング捏造は中国の新エネルギー車メーカーが消費者を欺く最初の手段ではなく、そして最後の手段にもならないと言えるのです。

(翻訳・藍彧)