iPhone17の発表が間近に迫り、世界中のアップルファンが新機種の登場を待ち望むなか、中国ではまったく別の「熱狂」が広がっていました。それは労働者の大移動ともいえる採用ラッシュです。

 8月末から9月初めにかけて、フォックスコンは中国各地の工場で大規模な採用活動を繰り広げました。iPhone17シリーズの正式発表まで残り2週間を切り、アップルのサプライチェーン全体が一気に緊張した歯車のように回り出したのです。フォックスコンの募集情報が出ると、大勢の求職者が一斉に押し寄せました。深せん市と鄭州市の主要拠点では、8月末の時点ですでに年間採用のピークを迎えていましたが、それでも門前は人であふれ続けました。

 鄭州工場では、広い敷地の門前に応募者が列をなし、深セン龍華園区でも同じ光景が見られました。正門前では大型バスが次々と到着し、乗ってきた求職者を下ろすとすぐに折り返していきました。行列は絶えず続き、入場を待つ人々の表情には、期待と不安が入り混じっていました。

 職業紹介業者によると、今年8月の深セン龍華園区の時給は約560円(28元)に達し、月収にすると約12万円(6000元)を超えたといいます。この額は農村部や三線都市出身の労働者にとって非常に魅力的であり、短期間でも大きな収入を得られるチャンスとして映ったのです。

 一方、鄭州市ではさらに熾烈でした。従業員の証言によれば、港区の工場だけでも採用ピーク時には約20万人もの人々が殺到したといいます。しかし、その多くは臨時工としての採用であり、正式な社員としての地位もなければ、社会保険や福利厚生を受けることもできません。企業は生産サイクルの波に合わせ、人件費を抑える形で労働力を確保していますが、その負担とリスクはすべて末端の労働者に転嫁されているのです。

採用熱の裏に潜む「構造的失業」

 工場の門前に人々があふれ、表面的には繁栄の光景が広がっているように見えます。しかしその賑わいの背後には、中国の雇用市場に長年積み重なってきた深刻な構造的問題が隠されているのです。

 河南省安陽(あんよう)市出身の李強(り・きょう)さんは、自動車部品工場を解雇されたあと、各地を転々としながら職を探してきました。フードデリバリーやネット配信を経験し、建設現場でレンガを運んだこともあります。今回フォックスコンに来たのは、繁忙期に少しでも稼ごうとする試みでした。彼は「3か月間働いて、給与と帰郷手当を合わせれば旧正月は何とか過ごせる」と語りました。

 一方、湖南省衡陽(こうよう)市出身の劉梅(りゅう・ばい)さんは異なる境遇にあります。彼女は地元にあるフォックスコン傘下の鴻富錦(こうふきん)精密工業で6年間にわたり機械オペレーターを務めてきましたが、8月末に「9月末で工場を閉鎖する」との通知を受け取りました。会社は従業員に対し二つの選択肢を提示しました。ひとつは、本人の希望に応じて武漢市や深セン市、恵州市などの他工場へ優先的に配置転換すること。もうひとつは、異動を望まない場合には生産状況に応じて労働契約を順次終了し、法律に基づいた経済補償金を支払うというものです。劉梅さんは「会社は深セン市や武漢市に行けと言うけれど、子どもがまだ学校に通っているのに、どうやって離れられるだろうか」と胸の内を明かしました。

 この衡陽工場は2012年に設立され、最盛期には年間生産額が約4000億円(200億元)を超え、従業員3万人を抱えていました。突然の閉鎖は地域の雇用市場に深刻な打撃を与え、中国で進む産業移転が労働者に直撃している現実を改めて浮き彫りにしたのです。

サプライチェーンの緊張と生産移転

 iPhone17の発売日が近づくなか、深セン市の華強北(かきょうほく)市場はすでに盛り上がりを見せています。正式発表前にもかかわらず、iPhone17用のスマホケースが早くも店頭に並びました。こうした周辺商品の迅速な動きからも、アップル新製品が登場するたびにサプライチェーン全体が高速で回転し始めることがわかります。しかし同時に、市場環境の不安定さや外部政策の圧力によって、この産業網の安定性が大きな試練にさらされているのです。

 フォックスコンは最近、インド工場からおよそ300人の中国人技術者を再び呼び戻しました。報道によれば、理由は現地のインフラ不足や熟練労働者の協力効率が低いといった問題にあるとされます。これはフォックスコンが依然として中国の人材に依存していることを意味しますが、その依存関係が今後も持続可能かどうかは不透明です。また、湖南省衡陽工場の閉鎖は、中国中部地域がかつて持っていた製造業としての優位性が徐々に失われつつあることを示しています。

 経済学者の王氏は、衡陽工場閉鎖の背景について次のように指摘しました。「主な原因は、電子消費市場全体の飽和と、アップルのサプライチェーン再編である。中国のコスト優位は縮小しており、東南アジア諸国が積極的に優遇政策を打ち出しているため、より魅力的な選択肢となっている」。この変化はフォックスコンにとっては戦略的な調整といえるかもしれませんが、一般の労働者にとっては、突然の人生の転機であり、もはや自分ではコントロールできない現実なのです。

臨時雇用では雇用不安は解消できず

 ある若いフォックスコンの女性労働者はこう語りました。「私たちは臨時工にすぎない。仕事が終わればすぐに追い出される」。彼女は鄭州、昆山(こんざん)、成都など複数の工場で働いた経験があり、各地の状況に詳しいといいます。こうした臨時工の多くは職業紹介業者を通じて採用され、ときには「入職サービス料」を支払わされることすらありました。彼女は、かつて業績が達成できず予定より早く解雇され、その際に解雇手当も受け取れなかった経験を振り返りました。

 このように、保障がなく責任関係も不明確な雇用形態は、中国製造業においてすでに常態化しています。短期的には企業にとってリスクや人件費を削減できる利点がありますが、長期的に見れば産業全体の労働力の安定性や技術の蓄積を損なうことになります。中南財経政法大学の元講師である王氏は、中国の製造業における人材保護制度の設計には依然として大きな空白があると指摘しました。彼は「労働法は臨時雇用について実質的な規定を欠いており、このような労働者は合理的な保護を得にくい」と語ります。

 湖南省邵陽(しょうよう)市の人権活動家である徐氏はこう指摘しました。「かつて外資系企業は数百万世帯の生活を支えてきた。しかし近年、中国当局が国有企業を強く支援する一方で、外資や民間企業の生存空間を狭めている。その結果、多くの外資工場が中国を離れ、労働者は失業後に適切な職を見つけることが極めて困難になっている」

アップルの光環の下にいる普通の人々

 アップルの新製品発表は、毎回まるでテクノロジー業界の祭典のように華やかに演出されます。しかし、そのまばゆい光の背後には、深夜まで残業を続ける労働者の顔があります。彼らは荒れた手で、1つひとつの小さな部品を組み立て、世界を魅了するハイテク製品を完成させているのです。

 技術は進歩しても、労働者が抱える不安はなくなっていません。いつの日か「中国製造」を語るとき、効率や受注量といった数字だけでなく、人間の価値や尊厳についても考えられるようになることが望まれます。

 iPhone17をめぐる華やかな光景の背後には、実際には重く厳しいサプライチェーンの現実が隠されています。それは単に一台のスマートフォンが誕生するまでの軌跡ではなく、数え切れないほどの労働者の生活の縮図でもあるのです。

(翻訳・藍彧)