9月3日午前、中国当局は北京・天安門広場で大規模な閲兵式を実施しました。いわゆる「九三閲兵」と呼ばれる今回の式典には、多くの退任指導者や党の元老が姿を見せましたが、胡錦涛氏など一部の重要人物は欠席し、習近平国家主席自身の健康状態に対する懸念も広がりました。政権内部の権力闘争や社会での抗議の動きとも重なり、この閲兵式は単なる軍事パレードにとどまらず、中国政治の不安定さを象徴する場となったとみられます。
出席者の顔ぶれにも注目が集まりました。中国中央テレビの映像では、李瑞環氏、温家宝氏、賈慶林氏、張徳江氏、兪正声氏、栗戦書氏、汪洋氏、李嵐清氏、曾慶紅氏、呉官正氏、李長春氏、賀国強氏、劉雲山氏、王岐山氏、張高麗氏らが確認されました。一方、胡錦涛氏、朱鎔基氏、宋平氏、羅幹氏らは姿を見せませんでした。特に胡錦涛氏は序列上きわめて重要な元老であり、2022年の第20回党大会閉幕式で強制退場させられた場面が記憶に新しいだけに、今回の不在は波紋を呼びました。朱鎔基氏は97歳と高齢で、公の場に現れたのは2018年の清華大学経営学院顧問委員会が最後とされています。
習近平氏は部隊の閲兵に先立ち演説を行いましたが、その様子は過去と比べて明らかに精彩を欠いていました。映像では声に力がなく、表情も重苦しく、歩行の際には足を引きずるような動作が見られました。
米国在住の評論家・唐靖遠氏は、2015年の閲兵と比べて今回の習氏は健康状態が大きく悪化していると指摘しました。首の左側に繰り返し痙攣が確認され、脳卒中の後遺症に典型的な症状が見られると述べました。閲兵車に乗る際には目を開けるのも困難で、肌の色も黒ずんで見えたことから、深刻な健康問題を抱えている可能性があると分析しました。
SNS「X」でも同様の議論が広がっています。習氏が天安門城楼で頭部を制御できず震わせる映像がネット上で出回っています。元上海の企業家・胡力任氏も「以前に流出した病歴報告と一致しており、頭部の持続的な震えはパーキンソン病の典型症状だ。すでに薬物では制御困難な段階に達している可能性がある」と指摘しました。
2015年当時の習氏が自信に満ちた約12〜13分・3000字の強硬な演説を行ったのに対し、今回は1000字に満たず外交的な内容にとどまったことも対照的でした。
今回の閲兵では総指揮官の人事も異例でした。本来は北京を管轄する中部戦区の司令員が務める慣例ですが、今回は中部戦区空軍司令官の韓勝延氏が担当しました。韓氏は1963年生まれ、河北省張家口出身の空軍中将で、2018年から中部戦区空軍を率いています。通常であれば王強・中部戦区司令員が就任するはずですが、王氏は欠席しました。
唐靖遠氏は「王強は二十大直前に昇進した典型的な習派の将軍であるにもかかわらず、八一建軍節の国防部招待会にも出席せず、今回も姿を見せなかった。拘束または調査を受けている可能性がある」と分析しました。総指揮官ポストの「格下げ」は、閲兵式自体の格の低下を示すものだとも受け止められています。
習近平政権下では、彼の信任を受けた軍高官のうち少なくとも14人が摘発・失脚しました。現在の中央軍事委員会は主席の習近平、副主席の張又侠氏、委員の張昇民氏と劉振立氏の4人だけで構成されており、李尚福氏、苗華氏、何衛東氏の3人はいずれも失脚しています。委員の空席率は毛沢東時代以来の高さであり、軍内部での権力闘争の激しさを物語っています。独立評論家・杜政氏は台湾《上報》で「今回の閲兵は政治的パフォーマンスにすぎず、軍の華やかな演出の背後では熾烈な権力闘争が展開されている」と指摘しました。
一方、当日の警備はかつてないほど厳格でした。《ETtoday》によれば、記者は午前3時半にメディアセンターに集合し、幾重もの安検を経て現場入りしました。配布された朝食袋には牛乳やパン、ソーセージ、ゆで卵などが入っていましたが、すべて封印が施され、再検査を受けなければ開封できませんでした。口紅や眉ペンなど「印を残す可能性のある物品」も禁止されました。CNNのシモーネ・マッカーシー記者は「食料や飲料の持ち込みは一切禁止で、複数回の安検を通らなければ座席に着けない」と伝えました。NBCのジャニス・フレイヤー記者も「学校は休校となり、交通は遮断され、天安門周辺の住民は外出すら許されず、窓から覗くことも禁じられた」と報告。香港《星島日報》は、ベテラン記者が「これほど細かい安検は初めてだ」と漏らしたと伝えています。
こうした政権の不安定さは社会の動きにも反映されています。8月7日、雲南省昆明市ではある男性が「習近平退陣」と書かれた横断幕を掲げました。8月29日夜には重慶大学城の高層ビル外壁に「共産党の暴政を覆せ」「自由は恩恵ではなく奪い返すものだ」といった巨大スローガンが投影され、50分以上続きました。さらに8月31日には北京の掲示板に「総書記退陣」と題した大字報(中国で壁に貼り出される大きなビラのこと)が張り出され、三つの具体的要求が記されました。これらの動きは「四通橋事件」の延長線上にあると見なされています。
総じて今回の「九三閲兵」は、中国共産党が「軍事力と団結」を誇示する場であると同時に、政権の脆弱さと内部亀裂を鮮明にした出来事でした。習近平氏は国際社会からの圧力と国内での抗議の高まりの中で、健康面と権力基盤の双方に揺らぎを抱えています。軍内部での人事混乱や失脚が相次ぎ、社会の反発も収束する気配はありません。華やかな演出の裏側で、中国共産党体制が抱える深刻な問題が隠しきれなくなっていることを、今回の閲兵式は象徴的に示したといえるでしょう。
(翻訳・吉原木子)
