「アジア最長」とされる登山用エスカレーター——江西省上饒市の霊山景区に設置された観光客用エスカレーターは、政府の借入金で建設資金がすべて賄われ総投資額は約26.3億円に達しました。しかし、この事業は世論の強い批判を招き、試運転開始からわずか1週間で運行停止が発表されました。8月31日には、「江西上饒霊山に山全体を覆うエスカレーターが設置された」というニュースがSNSで大きな話題となりました。
中国メディアの報道によれば、霊山の登山エスカレーター事業は数年前から上饒市広信区政府の業務報告に盛り込まれていました。具体的な計画も何度も修正されてきました。最終的に決定された案は「かなり大胆」とされ、全長684メートル、標高差267.5メートル、5基の自動エスカレーター、エスカレーター1基当たり3区間の歩道を含めて構成されています。総投資額は約26.3億円に上り、観光客が「体力を使わずに登山できるようにする」ことが建設目的の一つとされました。
資料によると、江西上饒霊山は標高1000〜1400メートルに位置し、最高峰の天梯峰は1496メートルに達します。険しい地形と奇岩の景色で知られ、徒歩で山の頂上に登るには3〜4時間を要します。今回のエスカレーターは景区の南東部に設置され、「雲頂天梯」と名付けられました。7月25日に試運転を開始し、奇岩絶壁の間を貫くこの1基のエスカレーターは東台峰の山頂まで直通します。全体が3区間の歩道を含めて10段階に分けられて設置されています。その高さは約88階建てのビルに相当し、片道の所要時間は20分以上に及びます。今年7月には、乗客が撮影した動画がSNSに投稿され、大きな注目を集めました。
近年、中国の名山では直通エレベーターや登山用エスカレーターの建設が一種の流行となっています。浙江省の神仙居、杭州の淳安天屿山、南京の牛首山など、すでに多くの景区が同様の設備を導入し、観光客に公開しています。しかし、このような「楽な登山」が利便性を高める一方で、自然景観の破壊や公共財政への圧迫といった懸念も広がっています。中国メディアは、こうした事例は観光開発における同質化を示すものであり、不動産不況で余剰となったエレベーター企業の事業が景区で運用されている結果だと指摘しています。さらに、この種の事業は建設コストが莫大なだけでなく、維持管理費も高額であり、投資回収には長い年月を要します。そのため、経済効果には疑問が残ります。すでに一部の景区では、登山客を強制的にエスカレーターに誘導するため従来の登山道を閉鎖し、利用者に高額な運賃を負担させる例も見られています。霊山の場合、特に注目を集めたのは資金の出所です。上饒霊山旅游発展有限公司が公開した入札書によれば、この事業の資金はすべて政府の借入金に依存しています。同社は2002年に設立され、上饒市広信区の国有資産監督管理弁公室が全額出資する企業です。
広信区が発表した2023年および2024年の「重点建設プロジェクト計画」にも、「霊山国家級風景名勝区観光インフラおよび公共サービス施設整備事業」が繰り返し明記されており、登山エレベーター、道路、施設、を含む霊山全体の総投資額は、およそ204億円の長期計画が立てられました。実際に、途中経過である2023年末までに投じられた額は、およそ24億円に達しました。また、2024年度分として、計画段階で予定された投資額はおよそ62億円とされていました。入札公告と契約書には「自己調達資金および特別債券資金」と明記されていた内、2023年末時点で実際に準備された自己資金はゼロで、支出のすべてが特別債券によって賄われていました。つまり、この事業は完全に借金に依存して建設されたことになります。
この事実が明らかになると、中国のネット上では批判的なコメントが相次ぎました。「自分の金じゃないから大盤振る舞いするのだ」「まず地方債を返済すべきだ」「屋外の歩道橋エレベーターなんて数年で使えなくなる」「建設しなければ利益が得られないからだ。いずれ万里の長城まで改造されかねない」といった辛辣な意見が殺到しました。
こうした議論の高まりを受け、上饒霊山景区は8月13日、「試運転を終えたため、保守点検、関連施設の整備を理由に、即日より通行を停止する。再開時期については改めて通知する」との公告を発表しました。
(翻訳・吉原木子)
