生活雑貨ブランド日本の「無印良品」が展開する「良品計画」が、中国で大きな挫折に直面しています。
日本の「無印良品」の専門小売企業「良品計画」は、中国のタオルやベッドカバーなど「第24類」に属する商品が、すでに現地企業に商標登録されていたため、中国において「無印良品」の名称を使うことができなくなりました。ここでいう「第24類」とは、国際商標分類における繊維製品の区分を指し、毛布、寝具、カーテン、テーブルクロスなど家庭用繊維製品が含まれます。つまり「無印良品」が得意とするタオルや寝具類がすべてこの範疇に入っており、ブランドの根幹に直結する領域で商標を失ったことになります。
最近、中国最高人民法院が「良品計画」の第24類商標権を取り戻すための再審請求を退け、「良品計画」の敗訴が確定しました。この結果により、日本の本家ブランドが現地企業との長年にわたる法廷闘争に最終的に敗北したことが明らかとなり、国際的にも大きな注目を集めています。
この判決により、影響を受けた「無印良品」は中国本土各地で撤退や閉店を余儀なくされています。すでに北京や上海、蘇州、煙台といった大都市をはじめ、地方都市でも閉店の知らせが相次いでいます。北京の三里屯世茂工三店や上海の浦江歓楽頌店は長年営業を続けた旗艦店でしたが、閉店を決定。在庫一掃セールでは多くの商品が大幅値引きされ、買い物客が殺到しました。蘇州泰華店や煙台振華商厦店も同様に営業終了を発表し、さらに済南や武漢などでも撤退が進んでいます。
「良品計画」によると、「無印良品」の第24類の商標は2000年の時点ですでに北京綿田紡績品有限公司に登録されていました。同社は日本の「無印良品」より早く「無印良品」商標を中国で確保しており、その後の訴訟でも優位に立ちました。良品計画は2019年に中国国家知識産権局に対して商標無効の申し立てを行いましたが却下され、2020年に行政訴訟を提起、2021年の一審・2023年の二審でも敗訴。2024年7月の最高人民法院による再審請求も棄却され、長年にわたる商標争いに終止符が打たれました。結果として、良品計画は第24類商品については「無印良品」を使えず、「MUJI」という英字商標に切り替えて展開する方針を余儀なくされています。
「無印良品」は1980年に誕生しました。理念は「しるしのない良い品」であり、過剰な装飾やブランド主義を排し、シンプルで快適、かつ低価格な商品を提供することを目指しました。当時の日本市場では華美な商品が主流だったため、「無印」という姿勢に「良品」という価値を与えたブランド戦略は革新的であり、その後の国内外での支持に繋がりました。
1990年代以降は海外展開を本格化させ、現在では世界30以上の国と地域に拠点を持ち、店舗数は1000を超えます。取り扱う商品は衣料品や家具、食品など多岐にわたり、7,000種類以上に上ります。日本発のライフスタイルブランドとして、独自の地位を築いてきました。
日本の「良品計画」が中国市場に本格参入したのは2005年ですが、その時点で繊維製品分野の商標はすでに中国企業に押さえられていました。2018年末には北京綿田側の「無印良品 natural mill」との間での商標争いが注目され、中国の裁判所は北京側の権利を認める判決を下しました。ネット上では「日本の正規ブランドが中国の模倣品に敗れた」と揶揄する声が広がり、日本国内でも大きな話題となりました。
今回の敗訴により「第24類」では「MUJI」しか使えなくなったものの、良品計画側は「すでにMUJI商標で販売している商品も多いため、売上への直接的な影響は限定的だ」と説明しています。しかし、長年「無印良品」という名称に親しんできた中国の消費者の間では混乱や不満も見られ、ブランドイメージの維持が課題となっています。実際、閉店セールには大勢の人が詰めかけ、SNS上では「青春の終わり」といった声や「MUJIでは違和感がある」との投稿が拡散し、消費者心理の複雑さを映し出しました。
さらに、中国市場における競争環境も無印良品にとって厳しさを増しています。名創優品(MINISO)をはじめとするローカルブランドは、無印良品と類似したシンプルなデザインの商品を、より低価格で大量に提供し、若年層を中心に支持を広げています。こうした「低価格・大量供給」の戦略は、シンプルなデザインや実用性を重視する点で無印良品と重なる部分が多く、結果的に消費者層の一部を奪う形になっています。
今後、良品計画が中国市場で存在感を維持するためには、単に「MUJI」ブランドの継続使用だけでなく、デザインや品質面での差別化をいかに打ち出すかが重要となります。また、越境EC(電子商取引)の普及により、日本国内で販売される無印良品の商品を直接購入する中国消費者も増えており、中国市場内での販売戦略をどう再構築するかが問われています。
一方で、この事例は「無印良品」に限られた話ではありません。近年、中国市場で事業を縮小・撤退する日本企業は相次いでいます。三菱自動車は2023年に中国での生産を停止し、合弁会社・広汽三菱を解散。2025年には瀋陽航天三菱のエンジン事業からも完全撤退しました。スズキも2018年に長安汽車との合弁を解消し、中国の乗用車市場から退いています。
製造業ではキヤノンが2022年に珠海のカメラ工場を閉鎖、ニコンも2017年に無錫のデジタルカメラ工場を閉鎖しました。小売業でもイトーヨーカ堂が成都での店舗を閉じ、イオンも北京や深圳で一部の店舗を撤退させるなど、日本の小売ブランドの拡大は思うように進んでいません。
また、商標や知的財産権をめぐる争いも各社が直面する課題です。ユニクロはかつて中国企業から商標侵害で訴えられましたが、2019年に最高人民法院の再審判決で勝訴し、ようやく決着しました。花王やキッコーマンも模倣品対策や権利保護に長年取り組み、中国市場でのブランド維持に多大なコストをかけています。
こうした事例が示すのは、国際的に知名度のあるブランドであっても、中国市場では必ずしも優位に立てないという現実です。法律制度の複雑さ、消費市場の二極化、模倣ブランドの台頭、競争環境の激化など、さまざまな要因が絡み合い、ブランド戦略の成否を左右しています。今回の「良品計画」の敗訴と閉店は、日本企業が中国市場で直面する複雑な現実を象徴する出来事だと言えるでしょう。
(翻訳・吉原木子)
