ここ最近、ますます多くの中国国民が「パスポートを提出するよう求められた」と訴えています。中には香港・マカオ通行証まで含まれるケースもあります。従来、このような規定は主に機密部門や公務員を対象としていましたが、現在では教師、医師、警察、さらには一般の公共部門の職員にまで拡大しています。
反腐敗から「国家安全」へ
ドイツで最も発行部数の多い新聞「南ドイツ新聞」は、中国当局が国際舞台では「開放的な姿勢」を必死に示そうとする一方で、国内では国民と海外とのつながりをますます締め付けていると指摘しました。
当初、出国制限は「反腐敗」を名目としていました。2003年、中国当局は官僚の海外渡航を規制する文書を発表しました。当時は多くの幹部が汚職資金を持ち逃げして国外へ逃亡する事例があったためです。2012年に習近平が就任すると反腐敗運動は全面的に展開され、これまでに約400万人の幹部が処分を受けました。その後、機密部門や公務員の出国は厳しく制限されるようになりました。
しかし、3年間にわたる新型コロナウイルス感染症の封鎖措置の後、中国当局は新たな規定を次々に打ち出し、制限の範囲を拡大しました。現在では、大学教授、医療従事者、小中学校の教師などの職種にまでパスポートの提出が義務付けられ、一部の地域では海外渡航が全面的に禁止されています。表向きの理由は「腐敗防止」と「国家安全の維持」です。「人民日報」は、国内外の人員交流は必ず「党の指導を受けなければならない」と明言しています。
中国がひそかに国境を閉ざす
『南ドイツ新聞』の記事によると、関連規定に基づき人々はパスポートを提出しなければならず、香港・マカオ通行証も対象に含まれています。審査の過程では、出国を申請する人に対して「海外に関係があるか」「いわゆる国外の敵対勢力とつながりがあるか」が問いただされます。渡航中は外国メディアの取材を受けてはならず、事前に申告した旅行ルートを途中で変更することも禁じられています。
近年、中国当局の外国に対する猜疑心(さいぎしん)は一層強まっています。2023年に改訂された強化版『反スパイ法』では、ほぼあらゆる海外関係が疑わしい行為として扱われるようになりました。ある国有企業は職員に「外国人と接触してはならない」と求め、別の企業は海外留学経験のある学生を採用しない方針を取っています。
政府機関や組織のレベルを離れても、一般の中国人にとってパスポートの取得はますます困難になっています。2月に国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が発表した報告書によれば、多くの地域でパスポートを管轄する公安当局が意図的に申請手続きを複雑化しているといいます。申請者は無犯罪記録証明、社会保険の納付証明、安定した収入や預金を示す銀行取引明細、労働契約書など、大量の証明を提出しなければなりません。場合によっては複数の警察署や党支部からの承認が必要とされることもあります。
報告書は、「この時間も労力もかかるパスポート申請手続きは、2002年以前の状況を思い起こさせる。当時、申請者は冗長(じょうちょう)な手続きを経なければならず、政治審査も受けなければならなかった」と指摘しています。
「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は次のように警告しています。
「パスポートを得ることがますます難しくなる中、人々は習近平政権が、かつてごく一部の人しか海外へ旅行できなかった時代に逆戻りしているのではないかと懸念している。このような恣意的(しいてき)で差別的な措置は直ちに中止されるべきである」
ある中国人の若い女性がSNSで動画を投稿し、こう語りました。
「やっとパスポート取れた。2025年に海外に出るのは本当に難しい。今じゃ多くの地域でパスポート自体を発行してない。河北省保定市、江蘇省東海県、青海省、福建省、それに広西自治区なんかも出してくれない。不思議で、なんでなのか全然分からない」
別のブロガーは関連の領収書や証明書を公開し、「青海省でパスポートを取るのは移民手続きより難しい。必要とされる資料があまりに多すぎる」と訴えました。パスポート取得の困難や提出を強いられる状況に加え、人々は出入国の際にもさまざまな問題に直面しています。中にはその場で国外行きを止められるケースもありました。
また別のブロガーによると、現在、国境の出入国管理局には新たな質問項目が多数追加されているといいます。観光であれ、商談であれ、あるいは親族訪問であれ、職員は行程の細部まで詳細に問いただします。通関時には荷物だけでなく、携帯電話の中身まで調べられることがあり、招待状やチャットの記録といったものまで検査対象です。内容に問題があると判断されれば、そのまま出国できなくなる恐れがあります。
あるブロガーは、「出国の際に検問室に閉じ込められ、1時間以上も質問された」と述べ、最後は仕方なく「おとなしく国内にいよう」と語りました。
また海外在住のブロガーは次のように警告しています。
「今の中国から出国する際、税関は必ずスマートフォンをチェックする。スムーズに出国したい中国人は、写真や動画、敏感な情報などをすべてきれいに消しておかないと、その場で拘束される恐れがある」
留学目的であっても繰り返し取り調べを受けます。留学関連のブロガーによれば、日本へ行こうとしたある学生は、出国時に長時間の質問を受けたといいます。
イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」は2024年10月の報道で、中国の国有機関の職員十数名に取材し、また6都市の教育局通告を調査した結果、2023年以降、中国における出国制限が大幅に拡大していることが分かったと伝えました。ますます多くの学校、大学、地方政府、国有企業の一般職員がパスポートを提出するよう求められているのです。一部の教育局は教師に対し「海外で外国の敵対勢力と接触してはならない」と警告しています。
「個人出国旅行管理」と名付けられたパスポート回収措置は、地方政府の役人に誰が出国できるか、その回数や行き先を統制・監視する権限を与えています。
報道によれば、四川省で勤務するある小学校教師は「すべての教師や公共部門の職員がパスポートを提出するよう求められた。もし出国したい場合は教育当局に申請しなければならないが、承認されるとは思えない」と語りました。
湖北省や安徽省の教師たちもパスポートの提出を求められたと証言し、また広東省・江蘇省・河南省の教育関係者もSNS上で「パスポートを強制的に提出させられた」と不満を漏らしています。
記事は、この背景には中国共産党が長年にわたり「学生の忠誠心育成」を最優先とし、教師の政治教育を業務の中心に据えてきた方針があると指摘しました。中国当局は、教師が国外で異なるイデオロギーに触れることを懸念しているのです。
浙江省温州市の瓯海区(おうかいく)教育局が2024年3月に出した指示では、出国する教育関係者は(中国共産党に迫害されている)法輪功やその他の「国外の敵対勢力」と接触してはならず、機密保持規定や反スパイ関連の規則を厳格に遵守することが求められています。
(翻訳・藍彧)
