中国経済は近年困難に直面し、社会的矛盾も一層深まっています。最近公表されたデータは再び世論を揺さぶりました。経済学者の郎咸平(ラン・シェンピン)氏によれば、中国の賃金総額がGDPに占める割合はわずか8%で、世界最下位に位置しています。

 一方、主要7か国(G7)では50~60%、南米は33%、東南アジアは28%、中東は25%、アフリカでさえ20%を上回っています。つまり、中国人が懸命に働いて生み出した富の大部分は、普通の労働者の手には戻っていないということです。

賃金比率は世界最下位 アフリカにも及ばず

 香港の作家、顔純鉤(イェン・チュンカウ)氏は、ソーシャルメディア上でこのデータを引用し、次のように述べました。
 「中国人の賃金総額を国民総生産で割った比率は、世界で最も低い。本当に比較しないと分からないものだね。比較すると驚愕された」

 顔氏はまた、賃金の比率の高低は、その国の富の分配状況を反映していると説明しています。比率が高いということは、制度が比較的合理的であり、国民が経済発展の成果をより多く享受できていることを示しています。逆に比率が低いということは、大部分の富が政府や少数の特権階級に奪われていることを意味します。

 中国は世界第2位の経済大国を名乗り、2024年のGDPは18.74兆ドル(約2650兆円)に達しました。しかし、労働者に分配される割合はわずか8%にすぎません。しかも、この数字は固定収入のある人々だけを対象にしたものであり、数億人規模の出稼ぎ労働者や長期失業者は含まれていないのです。

 さらに皮肉なのは台湾との比較です。2025年の台湾における最低賃金は28590台湾ドル(約6498元、約13万円)となっており、これは北京、上海、広州、深センといった中国の一線都市における最低賃金の2倍以上に相当します。

富はどこへ流れているのか?

 では、中国の労働者が懸命に働いて生み出した富は、一体どこへ流れているのでしょうか。

 顔氏は次のように指摘しています。「中国共産党が政権を掌握以来、あらゆる手段で社会の富を搾取してきた。毛沢東時代には、その富は政治運動や経済への極端な破壊に費やされた。改革開放以降は、幹部の特権化や腐敗の蔓延により、社会の富は次第に権力者個人の懐へと流れ込んだ。近年では、一帯一路による海外へのばらまきや対外拡張、さらに国内では税金や各種の負担金、強制的な社会保険が重くのしかかり、普通の人々はますます耐えがたい重荷を背負わされている」

 いくつかの現実的な事例が、この極端に不公平な富の分配を国民に直感的に示しているのです。

楊蘭蘭の交通事故 「隠れ富豪」の素顔を暴く

 2025年7月27日未明、オーストラリア・シドニーの高級住宅街で発生した高級車同士の衝突事故が、ある謎めいた人物を世間に浮かび上がらせました。その人物とは、23歳の中国系女性、楊蘭蘭(ヤン・ランラン)です。彼女は100万豪ドル(約1億円)相当のティファニーブルーのロールス・ロイス「カリナン」を運転し、メルセデス・ベンツと正面衝突、相手のドライバーに重傷を負わせました。事故後、彼女はいったん車を放置して逃走しましたが、その後付き添いとともに現場へ戻りました。警察の呼気検査では陽性反応が出ましたが、彼女はさらなる検査を拒否し、最終的に保釈されました。

 本来は単なる交通事故にすぎないはずの事件でしたが、彼女の身分が注目を集めました。オーストラリアのメディアは彼女を「記録に存在しない人物」と報じています。会社登記や不動産記録はなく、SNSにも一切姿を見せず、資産はすべてオフショア会社や信託基金を通じて管理されていました。彼女はシドニーの有名な高級住宅地に住み、ガレージには複数の高級スポーツカーが並び、外出時には必ず運転手とボディーガードを伴うものの、公開された痕跡はほとんどありません。

 ネット上では、彼女の背後に中国国有企業の鉄鉱石配分利益団体が絡んでいるとの噂が広まり、また、中国最高指導部の家族と血縁関係があるのではないかと疑う声さえ上がりました。これらの噂は裏付けられてはいませんが、この事件を通して浮かび上がった「隠れ富豪」の存在は、社会に戦慄を与えました。

 あるネットユーザーはこうコメントしています。
 「水面上に姿を現した楊蘭蘭は恐ろしくない。本当に恐ろしいのは、見えないところにいる無数の『ランラン』たちである。彼女たちの富は、おそらくあなたが貧しい原因なのだ」

一般国民の現実 薄給と重い社会保険

 楊蘭蘭の贅沢な生活とは対照的に、中国の一般的な労働者は困窮しています。北京の最低月給はわずか2540元(約5.1万円)、上海は2740元(約5.5万円)、深センは2520元(約5.1万円)、広州は2500元(約5万円)にすぎません。生活費が高騰しているこれら4つの一線都市では、この程度の収入ではかろうじて食いつなぐのが精一杯です。

 さらに国民を憤らせているのは、2025年9月1日から中国当局がすべての企業や個人事業主に「5つの社会保険と1つの住宅積立金」の納付を強制したことです。政策施行後、社会保険を納付していない企業は追納と滞納金の支払いを命じられ、従業員は契約を解除して賠償を求める権利を持つようになりました。

 この政策は、小規模企業の生存を断ち切るような収奪であると同時に、「貧しい者から奪い、富める者を救う」仕組みだと批判されています。すなわち、貧困層が納めた保険料で高所得者層の年金を賄う構図です。

 経済学者の王剣(ワン・ジエン)氏はこう分析しています。「中国の中小企業の利益率はおよそ5%程度である。そこに社会保険の負担が10%増えれば、新制度に従って社保を支払う企業は少なくとも5%の赤字に直面することになる。そのため、多くの小規模企業の経営者はこれは最後の一根の稲草だと吐露している」

 時事評論家の石山(シーシャン)氏は「最も貧しい層、つまり小規模企業や低所得労働者に、高所得の退職者の年金を負担させるのは貧者から奪い富者を救うものである」と指摘しました。

 ソーシャルメディア上では、多くの企業が若い社員を解雇して代わりに退職者を雇い入れる動きが広がっており、「60歳で皿を運ぶ」求人広告まで出ています。さらに拡散されたある動画では、大学を卒業したばかりの女性が実習期間に月給2500元(約5.1万円)を得ているものの、社会保険を差し引くと手取りはわずか700元(約1.4万円)しか残らないのです。

制度の真相

 対比してみればはっきりと分かります。庶民が懸命に働いてもGDPの8%しか分配されません。一方、権力層とその家族は社会の富をむさぼり取るだけでなく、巨額の資金を海外に移し、贅沢の限りを尽くして享受しているのです。

 評論家が指摘するように、中国共産党はかつて「労働者階級を解放する」と掲げて政権を握りました。ところが現実には、その労働者階級こそが深刻な搾取に苦しんでいます。富は庶民の家庭には届かず、際限なく少数の特権階級に集中しているのです。楊蘭蘭の存在は、単なる「隠れ富豪層」の一例にすぎず、その背後には制度的な不公正と腐敗が横たわっています。

 「中国の賃金は世界で最下位」という事実は、単なる冷たい統計数値ではありません。それは現実の縮図であり、労働者と権力者との間に横たわる巨大な格差を示すとともに、富の分配における極端な不公正を浮き彫りにしているのです。

(翻訳・藍彧)