中国当局が9月3日に実施する大規模軍事パレードを目前に控え、北京はすでに神経を尖らせすぎているような緊張状態に包まれています。街全体がまるで敵襲に備えているかのようで、天安門広場周辺は数メートルごとに警備員が立ち、地下鉄車両内ではほぼすべての出入口に警官と警備犬が配置されています。表向きには「閲兵の安全確保」とされていますが、多くの市民やネットユーザーからは、こうした過剰な警備こそ当局の焦りや不安の表れだと受け止められています。

 ネット上で拡散された映像には、乗客が少ない車内で、各ドアの脇の座席に必ず警官が犬を連れて座っている様子が映っていました。あるユーザーは「まさに過剰反応、ちょっとした物音にも怯えているようだ」と皮肉り、別のユーザーは「横になっている犬は正式な役割を持つのに、隣に座っている人間はどうだか分からない。まるで犬の方が職業意識が高い」と揶揄しました。また「独裁政権の脆さは一目瞭然だ。崩壊は時間の問題」「最大の敵は一体誰なのか?閲兵をするだけでここまで怯えるとは」といった声も上がりました。

 8月25日、地下鉄10号線には大量の兵士が現れ、無表情のまま車内に静かに座っていました。乗客の一人はネットに「威武には見えず、恐怖を感じた」と書き込みました。「党直属の警備部隊はますますロボットのようだ」「銃を持って地下鉄にまで入ってきた。次は実弾を込めるつもりか」といったコメントも寄せられています。

 一方で、北京市内の公共トイレでは別の意味で当局を緊張させる出来事が起きています。Xプラットフォームに投稿された動画には、「中共は滅ぶべきだ」「独裁者は退陣せよ」「中国に民主と法治を」といった落書きが公衆トイレの扉に書き込まれている様子が映っていました。当局はこれに過敏に反応し、一部ではトイレ利用者に「実名登録」を求める事態に発展しました。市民の間では、これを「トイレ革命」と揶揄する声が広がっています。

 その一方で、中共官媒は大々的に閲兵式を宣伝しています。閲兵式はおよそ70分間にわたり、空中護旗梯隊、徒步方隊、戦旗方隊、装備方隊、空中梯隊の順で45個の部隊が通過する計画です。

 北京市政府は通告を発し、8月29日から9月3日まで、大興、順義、房山、平谷、懐柔、密雲、延慶の7区を「禁空区域」と定め、ドローン、凧、風船、コングミン灯など飛行に影響を与える可能性のある物体の放出を禁止しました。天安門広場も9月1日から3日まで閉鎖され、4日以降に再開される予定です。

 しかし、市民の間に誇りの空気はなく、むしろ批判の声が渦巻いています。ネット上では「閲兵は結局、国民の税金を浪費する政治ショーだ」との意見が広がり、「病院に行く金すらない人がいるのに、天文学的な費用をかけて見せ物をするのか」という怒りが共有されています。議論の中心には「労民傷財」という言葉が頻繁に登場し、人々の不満を象徴しています。さらに、一部の海外報道では「閲兵総指揮官の人選を巡って一時不透明な状況があった」とも伝えられ、政権内部の権力闘争を示唆する声もあります。「場面が華やかであればあるほど、政権の不安の裏返しだ」との分析も見られます。

 また、北京市は「訪民(陳情者)」の上京を徹底的に防ぐため、河北省の大学で臨時の補助警察を募集しました。日給150元、食事と宿泊付きで、仕事内容は訪民の拘束や監視です。役割分担は細かく、写真撮影を担当する者や電柱を見張る者、男女別の保安要員まで揃えられています。8月22日からすでに勤務が始まり、15日間継続すると告知されています。

 市民によれば、長安街沿線の建物では天然ガスの供給が停止され、住民は配布された弁当を食べさせられています。道路に面した住戸は窓を開けることが禁じられ、刃物や工具、さらには自動車の燃料まで一斉に登録・管理されています。外来者の宿泊は禁止され、派出所や居委会は24時間体制で巡回しています。ある市民は「まさに草木皆兵だ」と語りました。

 公共交通機関でも、訪民の摘発が相次いでいます。8月26日、山西省の訪民・楊歳全氏は西安から北京に向かう高速鉄道に乗車しましたが、高碑店を過ぎた時点で尾行され、北京・豊台駅に到着したところで警察に拘束されました。8月24日夜、別の訪民は飛行機で北京に到着しましたが、首都空港で足止めされ、翌日未明まで「まだ空港を出られない」とSNSに投稿しました。

 さらに高速鉄道の車内では、3〜4人の男が女性訪民を力づくで引きずり出そうとし、女性が泣き叫ぶ様子が撮影されました。周囲の乗客が止めようとしましたが、「撮影するな、関係ないだろう」と威嚇されました。この映像は権利擁護グループで拡散され、「普段は問題を解決せず、節目になると狂ったように摘発する」「これは違法拘禁だ」といった怒りの声を呼びましたが、すぐに削除されました。

 他にも例は後を絶ちません。8月23日、重慶市南岸区の訪民・姜家余氏は北京南駅で身分証を確認された際、警察に連行され、久敬荘の救済センターに収容されました。湖北省の訪民・田斉華氏は河南省を通過中に拘束され、武漢に連れ戻された後15日間拘留されました。遼寧省の訪民・姜家文氏は北京へ向かう途中、丹東市の警察に拘束され、ホテルで24時間監視されています。彼は「9月3日を過ぎないと解放されないだろうが、それでも自由には戻れない」と語りました。湖北省潜江市の元銀行職員・伍立娟氏も高速鉄道で北京に向かいましたが、許昌駅で降ろされ、自宅に戻された後も玄関前に監視員が立ち、電柱には監視カメラまで設置され、完全に自由を奪われています。

 こうした状況は皮肉な光景を生み出しています。一方で華々しい閲兵式が準備される一方、もう一方では無数の市民が自由を奪われています。ネットユーザーは「国威や軍威を示しているようで、実際は恐怖と猜疑の上に成り立っている」と嘆き、「彼らが恐れているのは外敵ではなく、自国の民衆だ」と鋭く指摘しました。

 結局のところ、閲兵式は始まる前から北京を重苦しい空気に包み込んでいます。極端な警備体制と過剰な取り締まり、そして人々の不満や怒りが交錯し、華やかな式典は「労民傷財(国民を苦しめ税金を浪費すること)」の政治ショーとしての性格を一層際立たせています。短期的には政権の威信を演出できるかもしれませんが、長期的には人々との信頼をさらに損なうだけだと言わざるを得ません。

(翻訳・吉原木子)