9月3日に予定されている大規模なパレードを前に、北京市内でいわゆる「トイレ革命」と呼ばれる現象がSNS上で大きな注目を集めています。

 最近、海外SNS「X」に投稿された複数の写真には、市内の公衆トイレのドアや壁に政権批判の落書きがびっしりと書き込まれている様子が映されています。そこには「中共はもう滅ぶべきだ」、「百年の奴隷制を終わらせろ」、「独裁者は退陣せよ」、「中国に民主と法治を」など強い言葉が並び、習近平主席やパレードそのものを直接批判するものも見られます。

 北京市内では、東城区・西城区・朝陽区など中心部の公衆トイレを利用する為に、「実名登録利用制度」が導入されたとの情報もネット上で拡散されています。利用者がトイレに入る際、WeChat(ウィーチャット/微信・ウェイシン)やAlipay(アリペイ/支付宝・ジーフーバオ)で、QRコードを読み取らなければならないという内容です。ただし、現時点で当局の正式な発表はなく、信ぴょう性は確認されていません。過去には2017年、天壇公園でトイレットペーパーの浪費防止を目的に「顔認証式トイレットペーパー自販機」が設置された例はありました。しかし、顔認証のみであり、今回のように入室時の身元確認を求める措置は行われていませんでした。また、北京市の地下鉄でもコロナ禍の時期に一部で切符を購入する際に、実名登録制度が試行されました。しかし、その効果や運用については市民から多くの疑問の声が上がっていました。

 こうした状況に対し、ネット上では皮肉交じりのコメントが相次いでいます。「習近平の13年間で唯一の成果は公衆トイレの建設だ」、「いずれトイレに監視カメラを設置するだろう」、といった書き込みが見られます。

 「トイレ革命」という言葉には過去の経緯があります。2018年に中国で劣悪なワクチン事件が発覚し、多くの子どもが被害を受けたことをきっかけに、市民の怒りが一気に高まりました。言論統制が厳しいなか、一部の人々は北京市や南京市、杭州市、上海市などの小児病院や大学の公衆トイレの個室の壁に「共産党を倒せ」「中共を打倒せよ」といったスローガンを書き込むようになりました。

 当時、上海の人権活動家・季孝龍(ジ・シャオロン)氏は「民主主義者は積極的にトイレ革命に参加しよう」と呼びかけ、大学や病院など公共施設のトイレにマーカーで次のようなスローガンを書くよう訴えたからです。

 「国民は重い病気すら治療できないのに、習近平は国外に狂ったように金をばらまき、憲法を変えて皇帝気取りだ。この苦しみは一体いつ終わるのか!共産党を打倒せよ。民衆に政治を返せ、国民の苦しみを終わらせろ。習核心を倒し、文革への道を拒否せよ。」

 しかし、こうしたトイレ革命活動は当局によって速やかに取り締まられ、関与した人々は拘束され、起訴されました。それでも市民の間では断続的に続けられてきました。

 トイレ革命の背景には、2018年以降も、習近平政権のゼロコロナ政策や権力集中に反発する動きが各地で続けられている事が上げられます。2022年1月には深圳・羅湖区での街頭抗議、同年10月には北京・四通橋での横断幕事件、2022年11月から12月にかけての全国規模の「白紙運動」、2023年には北京の国家体育場(鳥の巣)近くの塔の上で外国の旗を掲げ、民主と自由を訴えるビラを撒いた女性の姿も確認されました。いずれも当局によって徹底的に封じられ、国内メディアでは一切報道されませんでした。しかし、SNS上には記録として残され、人々の記憶に刻まれています。

 浙江省杭州市でも今年、飲用水の悪臭問題(いわゆる「汚水問題」)が市民の怒りを呼びました。水道水から糞のような臭いがするという苦情が相次ぎ、SNS上で「飲用不可」との声が広がりました。最終的に当局の調査で、藻類の嫌気性分解による硫化物が原因とされ、関係者の処分や水道料金の減免措置が取られました。しかし、この様な事に対して、情報統制の厳しさから、市民が自由に意見を表明できる場は限られています。一部ネットユーザーは、当局の過剰な統制を風刺し、「杭州市の住民1500万人を監視する為には、仮に1万か所の公衆トイレがあり、各トイレに10個の個室があった場合、すべてに警察官を配置するには10万人が必要だ」と書き込みました。

 この様に、厳しい情報統制の中で、発信する為の残された場所として、北京や杭州の「トイレ」という身近な空間が、市民の不満や皮肉、抵抗の象徴となっています。壁に書かれた言葉はすぐに消されるかもしれません。しかし、そこに込められた感情や叫びは静かに、確実に社会の深層に広がり続けています。

(翻訳・吉原木子)