江蘇省揚州市経済技術開発区の法院が、阿里資産オークションサイトに思わぬ出品を掲載しました。競売にかけられたのは3歳のトラ柄の猫で、9月3日午前10時から500元で入札が始まるという告知でした。このニュースは公開直後から大きな話題を呼びました。
一見すると奇妙な出来事ですが、決して例外ではありません。2017年には江蘇省張家港市の法院が12匹のペット猫をまとめて競売にかけ、そのうち11匹が落札されました。同じ時期、蘇州市太倉市の法院でも5匹の猫が競売にかけられています。いずれも飼い主が信用不良者リストに登録され、返済不能となった結果、最終的に「ペットまでも資産」として清算の対象になった事例でした。こうした出来事は、司法執行の冷徹さだけでなく、経済的困難に直面した家庭生活の脆さを浮き彫りにしています。
なぜ猫が競売リストに並ぶのか。その背景には中国経済の現状があります。2025年に入っても経済は低迷から抜け出せず、国家統計局のデータによれば、今年上半期の国内総生産(GDP)は前年同期比5.3%増でした。しかし市場では、この成長率が維持されると見る声は少なく、ゴールドマン・サックスなどは下半期の成長率を第3四半期4.5%、第4四半期4.0%程度まで減速すると予測しています。
こうしたマクロ指標の変化は、街の生活に直結しています。商店街は閑散とし、就業機会は乏しく、住宅価格も下落を続けています。「お金を稼ぎにくくなった」と語る人は多く、経済減速の影響は家計に重くのしかかっています。
雇用環境の悪化は特に深刻です。公式発表によれば、2025年7月の全国都市部調査失業率は5.2%に上昇し、前月から悪化しました。数字だけを見れば大きくはないように見えますが、若年層にしわ寄せが集中しています。米誌『フォーチュン』は8月の記事で、中国のZ世代が「仮想就業」や「寝そべり勤務」といった現象に直面していると伝えました。実際には働いていないのに職場にいるふりをする若者もおり、失業と過酷な労働環境のはざまで苦しんでいます。このような不安定な収入状況の中で住宅ローンや自動車ローンを抱えた若い世帯は、一度失業や収入減に直面すると急速に返済不能に陥ってしまいます。
さらに住宅市場の低迷が状況を悪化させています。ロイター通信によると、2025年5月には複数のアナリストが中国の住宅価格見通しを下方修正し、年間で約5%の下落を予測しました。7月には住宅投資が前年同月比で11%減少し、数か月連続で低下しています。かつて中国家庭にとって最大の資産だった不動産は、いまや重荷になっています。
上海市のあるネットユーザーはSNSで「奉賢区で240万元をかけて購入した自宅が、わずか2年で100万元も値下がりし、資産価値が半減した」と投稿しました。このような資産価値の急落により、住宅ローンを抱えた多くの家庭が耐えきれず、住宅を手放す事例が相次ぎ、裁判所による差し押さえと競売に直結しています。不動産大手の恒大集団が上場廃止に追い込まれ、負債総額が3,000億ドルに達したことも業界全体の不安定さを一層広げ、消費者心理を冷え込ませています。
こうした経済状況のもと、司法オークションは人々の目に触れる機会が急増しています。かつて競売といえば高級車や豪邸、商業資産が中心でしたが、近年ではペットや家具、家電といった日用品まで頻繁に出品されるようになりました。家庭がもはや大きな資産で債務を返済できず、裁判所が現金化できる物品を片端から差し押さえざるを得なくなっている現実を示しています。
ペットを競売にかけるという出来事は異様に映りますが、借金に追い詰められた現状を考えれば避けられない結果ともいえます。債務者にとってペットは家族であり心の支えですが、裁判所や債権者にとってはわずか500元に換算できる「財産」にすぎないのです。
この現象は二つの問題を浮き彫りにしています。第一に、家庭のリスク耐性が大きく低下している点です。高度成長期には、収入増や住宅価格の上昇を背景に家を売却したり借入を増やすことで困難をしのぐことが可能でした。しかし現在は、収入減少と資産下落が同時進行し、いったん債務に陥ると挽回の余地がほとんど残されていません。第二に、社会保障と司法執行の間に横たわる断層です。裁判所は法に基づき迅速に執行する権限を持ちますが、債務者がペットしか持たない場合、その冷徹さが際立ちます。社会的救済や債務緩和策が十分に整っていないため、家庭はただ見守るしかなく、最後の心の支えすら失ってしまうのです。
実際、同様の事例は各地で繰り返し報じられています。「犬で債務を清算」「鳥を競売」といった公告が出された地域もあります。競売額はごくわずかで債務返済にはほとんど貢献しませんが、当事者にとっては精神的な打撃が大きく、社会に荒涼とした印象を残しています。経済危機が社会の最下層にまで及ぶとき、人々が失うのは物質的な財産だけでなく、精神的な拠り所でもあるのです。
政府もこうした問題を認識しています。国務院や地方政府は近年、消費拡大や雇用安定に向けた対策を相次いで打ち出しています。今年8月18日の国務院全体会議では李強総理が「国内消費の潜在力を引き出し、サービス業を発展させ、住宅市場の安定を確固たるものにするための措置を講じるべきだ」と述べました。また、雇用の安定や民生の保障、社会の安定性を高めることの重要性も指摘しました。しかし、こうした政策が個々の家庭に届くまでには時間がかかり、すでにローンを滞納した人や失業に直面した人々には効果がほとんど実感できていないのが実情です。
今回の猫の競売は、ひとつの家庭の出来事にとどまりません。経済減速によって多くの家庭が債務の泥沼にはまり、不動産という従来の資産防御システムは崩れ、社会保障も十分に機能していません。その結果、司法執行の現場では冷酷な光景が繰り返されています。このニュースは、経済統計の背後にある「人々の暮らし」を直視させます。GDP成長率が5.3%から4.5%に下がるといった数字の変化は、単なる百分比ではなく、数百万の家庭が仕事や住居、さらには心の支えを失う現実を意味しているのです。
この猫の競売は一見すると小さなニュースに見えます。しかし、その背後に映し出されるのは決して小さくない社会の困難です。経済減速は抽象的な数字ではなく、普通の人々の肩に重くのしかかる現実そのものなのです。住宅価格の下落、ローン滞納の拡大、若者の失業、そしてペットの競売――これらをつなぎ合わせた姿こそ、2025年の中国経済が抱える最も痛ましい一面にほかなりません。
(翻訳・吉原木子)
