中国経済の急激な悪化により、国民の生活はますます厳しさを増し、官民の対立も一層深まっています。人々の民主や自由への渇望は日に日に強まりつつあります。こうした中、最近、江蘇省蘇州市で「反中国共産党スローガン」を背負った男性が公然と中国人民に選挙権を要求し、世論の注目を集めました。

中国国民は選挙権を必要としている

 8月9日、蘇州市にある大型ショッピングモール万象城(ワンシャンチェン)の「費大厨の唐辛子炒め肉」というレストラン前に、ヘルメットをかぶった外見から配達員と思われる男性が、白いボードを背負って立っていました。そこには「権力はその源にしか責任を持たない。中国国民は選挙権を必要としている」と書かれていました。この一文は中国の政治体制の核心問題を直接突くもので、多くの通行人が足を止め、写真を撮りました。

 この様子を撮影した写真や動画はすぐに海外のSNS「X」やYouTubeに投稿され、ネットユーザーからは「配達員も目覚めた」「勇気ある市民が増えてきた」「最近、国民の意識の目覚めが早い。これは良いことだ」「中国人の中には覚醒している人が非常に多い。行動で示す人もいれば、沈黙で示す人もいる」といったコメントが寄せられました。

 中には、この行動は「人民の力が独裁者を倒すことができる」ことを示しているとの意見や、「民主と自由を返せ」との呼びかけもありました。また、台湾のネットユーザーからは「台湾国民は中国国民の選挙権を支持する」との声も寄せられました。

 しかし一方で、彼の身の安全を心配する声も多く、「これはとても危険だ。監視されにくい場所で表現すべきだ」「彼は一生に一度しかない言論の自由を使い切ってしまった」とのコメントもありました。また、「この言葉は短いが非常に重い。公共の場にこれを残すには大きな勇気が必要であり、同時に巨大なリスクも伴う」と感嘆する人もいました。

四通橋の勇士彭立発

 多くのネットユーザーは、この蘇州市の男性を「北京四通橋の勇士」彭立発(ほうりつはつ)と重ね合わせています。2022年10月13日、彭立発は北京の四通橋において、「PCR検査は要らない、食事が欲しい。ロックダウンは要らない、自由が欲しい。嘘は要らない、尊厳が欲しい。文化大革命は要らない、改革が欲しい。指導者(習近平氏)は要らない、選挙が欲しい。奴隷になりたくない、国民になりたい。学校と職場でストライキを行い、独裁者で国賊の習近平を罷免せよ」といった複数の抗議横断幕を掲げました。

 その後、彼は警察に逮捕され、行方不明となりました。情報筋によれば、「挑発行為罪」と「放火罪」などで9年の懲役刑を言い渡され、現在も秘密裏に拘束されているといいます。

 彭立発の行動は、中国現代の抗議運動史における象徴的事件とされています。その理由は中国共産党に対して直接挑戦した勇気だけでなく、中国共産党の偽善と専制を暴いた点にもあります。彼の主張は、中国の核心的な問題である個人の権利と集団主義の長期的な対立、経済発展と政治改革欠如の矛盾を突いていました。

 彭立発は、多くの沈黙する人々の代弁者と見なされ、その抗議は「自由・民主・尊厳」への追求は高圧的な統治によっても消えることはない、ということを人々に思い出させました。

 ネットユーザーからは「四通橋の横断幕は民意の堰を切った。反抗はますます増えている。こうした自己犠牲は決して無意味ではない。彼らこそ小さな火種である」との声が上がりました。

人権弁護士丁家喜氏の要求

 人権派弁護士の丁家喜(てい・かき)は、かつて北京航空工業総公司のエンジニアを務め、北京市の「十大知的財産権弁護士」に選ばれた経歴を持ちます。2010年以降、「随伴する移住子女の現地受験」など教育の平等化を求める活動を推進しました。

 2012年、彼は許志永(きょ・しえい)らと連名で中央指導部に公開書簡を提出し、官僚の財産公開を呼びかけました。2013年4月、丁家喜は中国当局により「違法集会」の容疑で刑事拘留され、2014年に「集団で公共秩序を乱した罪」で有罪判決を受け、懲役3年半の刑を言い渡されました。2016年に刑期を終えたものの、2019年に再び逮捕されます。

 事件の発端は2019年12月、福建省アモイ市で中国の複数の弁護士や民主化運動家が集会を行ったことで、その後、中国公安は福建省、山東省、北京市、河北省、四川省、浙江省など各地で参加者を一斉に拘束しました。

 ラジオ・フリー・アジアによると、2023年4月、丁家喜は中国当局により「国家政権転覆罪」で懲役12年、政治的権利の剥奪3年の判決を受けました。

 また、維権網(人権擁護ネット)の報道では、彼は勾留中に73日間の連続睡眠剥奪、8日間の「虎の椅子(足を縛り板で締め上げる拷問器具)」に座らされ、6か月間騒音や24時間の照明照射などの虐待を受けたとされています。

成都市の高架橋に掲げられた横断幕

 同様の抗議は中国各地で繰り返されています。2024年4月15日、四川省成都市の茶店子バスターミナル外にある高架橋に、白地に赤文字で次の3本の横断幕が掲げられました。

 「政治体制の改革がなければ民族の復興はない」

 「人民は権力が制約を受けない政党を必要としない」

 「中国は誰かに方向を指し示される必要はない、民主こそが方向だ」

 この事件は中南海を震撼させ、習近平の関心を引き、案件は中央規律検査委員会と国家安全部の秘密警察が共同で捜査することになったとされます。

 海外在住の元内モンゴル自治区政府官員である杜文(と・ぶん)によれば、この横断幕を掲げた勇士は梅世林(ばい・せいりん)という人物で、現在は消息不明であり、拘束されている可能性が高いといいます。

 杜文は「中国共産党政権は表向きは強硬だが、実際には極度に脆弱で恐怖に駆られている。民間のあらゆる独立思考を恐れており、その支配は嘘と暴力の上に築かれている。国民を敵と見なし、表面的な安定を維持するためにあらゆる強権的手段を用いる」と述べています。

 また「中国共産党は口を封じることはできても、記憶を封じることはできない。身体を拘束することはできても、真理を拘束することはできない。中国共産党の体制全体は邪悪な構造であり、人間性・真理・自由に反する権力の仕組みだ」とも語りました。

 杜氏はまた、世界中に向けて彭立発や梅世林のために声を上げ、これらの英雄の安否に注目するよう呼びかけました。「我々は真実を語り続け、嘘に同調せず、信仰と良知を守り、互いに団結し支え合わなければならない」と訴えました。

 ネットユーザーからも次のようなコメントが寄せられています。
 「梅世林に敬意を!」
 「これらの勇士は中国人の良心と勇気だ」
 「これらの名前を記憶しよう――丁家喜、彭立発、梅世林」
 「勇士を救えるなら、何とか救おう!」

 中国近代史において、このような抗議は繰り返し起きてきました。そのたびに社会の覚醒と進歩を促してきました。これらの勇士たちは往々にして大きな代償を払ってきましたが、その名前と行動は歴史に深く刻まれ続けるでしょう。

(翻訳・藍彧)