近ごろ、中国のFDI(外国直接投資)純流出額が過去最高を記録し、国際的な注目を集めています。中国政府は外資を引き留めようと「外資安定化」行動計画を打ち出しましたが、米中貿易戦争の激化、経営環境の悪化、政治環境の引き締まりといった要因が重なり、外資の回流見通しは依然として暗い状況です。

中国FDI純流出が過去最高に 資金流出が加速

 また、新華社通信の報道によると、2024年の中国における実際の外資導入額は8262.5億元(約17兆円)となり、前年と比べて27%減少したと伝えられています。

 中国国家外貨管理局のデータによると、2024年第4四半期における国際的な資本移動を示す「資本・金融収支」は、1807億ドル(約27兆円)の赤字となり、年間では4416億ドル(約66兆円)の赤字でした。これは資金が中国から流出していることを示し、その規模は2023年より2倍以上拡大しています。

 ブルームバーグの報道によると、2024年の中国のFDI純流出額は1680億ドル(約25兆円)に達し、1990年の統計開始以来、最高水準を記録しました。同時に、中国企業による対外投資総額は1730億ドル(約26兆円)に上り、企業が資金を海外へ移転させる動きが加速していることを示しています。一部の報道では、米中貿易戦争が再燃すれば、中国の資本流出額はさらに増加する可能性があると分析されています。

 ここ2年間、中国は新型コロナウイルス感染症の封鎖解除後の経済転換が期待通りに進まず、内需が低迷しました。また、ロシアのウクライナへの侵攻がヨーロッパ経済を冷え込ませ、それが中国の輸出貿易に間接的な打撃を与えるなど、外資が中国への投資意欲を失う要因となっています。

 外資撤退が深刻化する中、中国国務院(他国における内閣に相当する)は今年2月に会議を開き、「2025年外資安定化行動計画」を審議・承認しました。中国当局は、「より実効性のある具体的な措置を講じ、既存の外資を安定させ、新たな投資を拡大する」と強調し、外資系企業が産業の高度化や雇用、輸出の促進に果たす重要な役割を強調しました。しかし、効果はほとんど見られていません。

 台湾の致理科技大学の張弘遠(ちょうこうえん)准教授は今年初めに、米メディア「ボイス・オブ・アメリカ」の取材で、「なぜ2025年になってようやく中国当局が一連の民間経済振興や市場開放策で外資を呼び戻そうとしているのか、その最大の理由は、米国との『トランプ2.0関税戦争』への備えである。関税戦争による景気後退や外資の大規模流出に備えて、積極的に投資を呼び込んでいる」と指摘しました。

 張弘遠氏は、たとえ消費者向けサービス業であっても、外資企業が不公平な扱いを受ける可能性があると指摘しています。例えば、今年、中国映画『哪吒2』と米国ハリウッド映画『キャプテン・アメリカ4』が同時期に公開された際、一部の映画館は、『キャプテン・アメリカ4』の上映回数を意図的に減らしたり、不人気な時間帯に割り当てたりして、国産映画を優遇する動きがあるとの噂が出ています。

外資撤退の波 基準低下と市場の混乱を招く懸念

 中国の経済系ブロガー「忐忑的可乐饼(タンテゥーダ・コロッケ)」は、「あなたが目にする有名ブランドが列をなして中国を離れている。しかも、その撤退は計画的かつ段階的に進められている」と述べています。

 同ブロガーは、テクノロジー企業が地政学的な要因や技術競争の影響で撤退するのは理解できるが、スターバックスやマクドナルドのような純粋な消費ブランドも撤退しているのは疑問だと指摘します。

 その理由として、中国企業の競争力が強化されたためではなく、中国国内市場の「激しい競争」が制御不能になっていることを挙げています。例えばコーヒー市場を例に挙げ、消費者はもはやスターバックスの品質や風味に価値を感じず、瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)の9.9元(約200円)の低価格や、蜜雪氷城(ミーシュエー・ビンチェン、通称ミーシュー)、フードデリバリーの「餓了么(ウーラマ)」などのプラットフォームのクーポンによる超低価格、さらには無料コーヒーに流れているといいます。味や効果が同じなら「どれを飲んでも目が覚める」からです。

 このように「品質ではなく、価格や効果だけを追求する」競争は、外資系ブランドにとって収益確保を難しくします。同ブロガーは、この悪性競争を「中国企業が身から出た錆(自分の行いが報いとなって災いが起こること)、その結果、外国企業を追い出している」と表現し、この激しい競争が変わらなければ、さらに多くの外資系消費ブランドが撤退すると予測しています。

 外資撤退について、一部の世論は「愛国主義」の旗を高く掲げ、これは中国本土企業の勝利だとみなしています。

 しかし、同ブロガーは「そのような論調はあまり理性的ではない」と述べています。彼は、外資が中国に進出した際に持ち込んだ先進的な技術、生産基準、食品安全基準をもたらし、中国経済の発展において積極的な役割を果たしてきたと強調しました。

 また、最も懸念しているのは、これらの外資系企業が撤退することで、中国の関連業界の基準、特に食品安全基準が低下する可能性があることであり、「これこそが私たちが最も警戒すべき事態である」と指摘しました。

外資企業の戦略見直しが相次ぐ

 以下の企業は、今年に入ってから中国での事業撤退、または大規模な縮小が確認された外資企業です。
·  三菱自動車は、現地生産を終了し、中国市場から撤退しました。主に販売台数の減少により、中国国内ブランドとの競争が困難になったためです。
·  TOTOは、上海と北京の工場2カ所を閉鎖し、市場変化に対応して戦略を見直しました。
·  IBMは中国での事業規模を継続的に縮小し、一部研究開発センターを閉鎖するとの報もあり、グローバル戦略の調整を反映しています。
·  MicrosoftとAmazonは、中国におけるAI研究開発チームを大幅に縮小しました。これはグローバルなリソース配分や市場競争が背景にあります。
·  上汽フォルクスワーゲンは、南京市の工場閉鎖を発表し、合弁自動車メーカーが中国市場で直面する圧力を示しています。
·  IKEA、パナソニック、キヤノンは、数年前から中国国内の工場を閉鎖し、サプライチェーンを東南アジアに移転または本国に戻す動きを進めています。

政策上の差別 外資企業の事業展開スペースを圧迫

 オーストラリアのモナシュ大学の史鶴凌(シー・ハーリン)教授は、今年初めに米メディア「ボイス・オブ・アメリカ」とのインタビューで、中国政府の一貫したやり方として、外資系企業が中国に進出した後に、その技術や経営ノウハウをすべて吸収し、その後は中国国内企業が外資を置き換えると指摘しました。例えば、近年急速成長する新興の電気自動車(EV)産業がその典型例だといいます。

 史教授は次のように述べています。
 『製造業の一般分野においては、中国国内企業がすでに外国系企業を代替できるようになっている。サービス業においては、実際のところ中国は依然として外資系企業に多くの参入障壁を設けている。さらにハイテク分野では技術輸出規制の対象となっており、外資が中国に流入する可能性はほとんどない。このため、外資の純流出傾向はかなり長い期間続く可能性が高い』

(翻訳・藍彧)