3Dプリンターで作った心臓は「思考」できるのか?.
「3D Bioprinting Solutions」というロシアの会社が開発した3Dプリンター(АндрейИльин, CC0, via Wikimedia Commons)

 アメリカの科学者がバイオ3Dプリンターで正常に機能する心臓弁膜の作製に成功し、人工心臓移植分野に大きな発展をもたらしました。しかし、人間の心臓には思考や記憶の機能が備わっていると言われますが、3Dプリンターで作った心臓にも「思考」という機能があるのでしょうか?

 『サイエンス(Science)』誌2019年8月2日号に掲載された論文によると、アメリカのカーネギーメロン大学の科学者が、コラーゲンを「バイオインク」として用い、同大学が開発した画期的技術「FRESH (freeform reversible embedding of suspended hydrogels)」などと組み合わせ、バイオ3Dプリンターで機能できる心臓弁膜を作ることに成功しました。

 研究者たちは、磁気共鳴画像(MRI)でスキャンした患者の心臓データをもとに、心臓弁膜と心筋組織の一部などを再現したモデルをプリントしました。さらに、体内の周期的な圧力と血流速度を再現する実験装置内で、心筋組織の同調した脈動や心臓弁膜の開閉が確認され、作製されたモデルが正常に機能することが明らかになりました。これにより心臓全体のプリントを目指すための基盤を構築されました。研究者たちは、この技術は将来的に、機能を失った心臓や肝臓などの障害臓器の修復に最も有望に活用できると考えています。

 

 古代中国の医学(漢方医学とも)や道家の修煉文化において、「心」は非常に興味深い存在です。私たちは日常生活の中で「心の中で考える」という表現をよく使いますが、これは心が大脳と同じように思考機能を持っていることを示しています。また、『黄帝内経』には「心は元神の居所である①」と記されています。ここでいう「元神」とは、西洋でいう「魂」に当たり、すなわち生命の中核をなすものです。

 『列子・湯問篇』には、二千五百年前の戦国時代、名医・扁鵲が公扈と斉嬰という二人の病を治すために、互いの心臓を入れ替えたという逸話が記されています。快癒した二人はそれぞれ自分の家に戻りましたが、互いの妻は「夫ではない」として役所に訴え出ました。なぜなら、公扈が齊嬰の家に、齊嬰が公扈の家に帰ってしまったからです。最終的に、扁鵲が事情を説明したことで、ようやく事は収まりました。

 これは「元神」が「心」についていく典型的な例です。扁鵲は公扈と斉嬰の二人に心臓を入れ替える術を施しましたが、心臓に元神が宿っているため、体は変わっていなくても、その元神は相手のものになってしまいました。体を支配しているのは元神ですから、相手の家を自分の家だと思ってしまったのです。

 

 多くの人は、扁鵲の物語は「神話」に過ぎず、信じがたいと思うでしょう。心臓移植技術の進歩により、今「心臓を入れ替える術」はもはや医学の難題ではなくなりました。ところが、不思議なことに、多くの心臓移植手術を受けた患者に見られた術後の変化が、扁鵲の物語の真実性を裏付けているようにも思われます。

 2008年、アメリカに住む69歳のグラハムさんは、銃で自ら命を絶ちました。この出来事はすぐに注目を集めました。というのも、12年前にグラハムさんは心臓移植手術を受けており、その心臓を提供したドナーも、同様に銃で自殺したカトーさんという33歳の若い男性でした。術後まもなく、グラハムさんはカトーさんの未亡人と出会い、二人は恋に落ちて結婚しました。それから12年後、グラハムさんはカトーさんの心臓を宿したまま、カトーさんと同じ道をたどりました。

 2008年、63歳のシェリダンさんは、重度の心臓病を患い、アメリカ・ニューヨーク市のマウントサイナイ病院(Mount Sinai Hospital)で心臓移植手術を受けました。手術は非常に成功しましたが、信じられないようなことが起こりました。移植手術を受ける前、シェリダンさんは絵画を学んだことがなく、その腕前も幼稚園児ほどでした。しかし、手術後は突然絵を描くことが好きになり、画力も上達し、作品の多くがより高い芸術性を備えるようになりました。医療スタッフが心臓ドナーの情報を調べたところ、驚くべきことに、シェリダンさんに心臓を提供したドナーは、ある交通事故で亡くなったアマチュアの芸術家でした。

 アメリカにある7歳の少女が重い心臓病を患い、心臓移植を受けました。ドナーは殺人事件で残酷に殺害された10歳の少女でした。術後間もなく、少女はしきりに自分が殺される夢を見るようになりました。事件の詳細や、犯人の顔が夢の中にはっきりと現れていました。彼女が提供した情報が手掛かりとなり、警察は10歳少女を殺害した犯人を逮捕しました。

 医師たちを困惑させるこのような例は、まだ数多くあります。西洋医学では、人間の臓器は生命を維持するためにそれぞれの役割を果たしているにすぎず、どの臓器を入れ替えても、その人の本質は変わらないと考えられています。

 アメリカのアリゾナ大学の著名な心理学教授ゲイリー・シュワルツ氏は、20年以上にわたって行ってきた調査と研究結果から、人間の心臓にはある種の「思考と記憶能力」が存在し、これが心臓移植を受けた患者の多くが心臓ドナーの性格を「受け継いだ」原因であると発見しました。彼の研究結果は、古代中国医学の「心に元神が宿る」という理論と一致しているのです。

 

 中国では、「心に想うことが叶う」という意味の四字熟語「心想事成(しんそうじせい)」があります。3Dプリンターで作った心臓を人間に移植したら、その「心に想う」感覚がまた感じ取ることができるのでしょうか?

註:

①中国語原文:藏所藏:心藏神,肺藏魄,肝藏魂,脾藏意,腎藏志,是謂五藏所藏。(『黃帝內經・素問<宣明五氣>』より)

(文・青蓮/翻訳・心静)