最近、南シナ海のスカボロー礁周辺で、中国海警局の艦艇と中国海軍の艦艇が衝突するという極めて異例な「自損」事故が発生し、国際的な注目を集めています。8月11日、中国海警3104号艦はフィリピン海警の巡視船「スルアン」(MRRV-4406)を高速で追跡していた際、中国海軍の052D型ミサイル駆逐艦「桂林」(艦番号164)と衝突しました。この事故で3104号艦は艦首部分が大破し航行不能となり、一方の「スルアン」は損傷を受けませんでした。
フィリピン沿岸警備隊は12日、マニラ港15番埠頭で「スルアン」の表彰式を行い、沿岸警備隊司令官ロニー・ギル・L・ガバン上将がその行動を称賛しました。「スルアン」の乗務員は事故の当事者であると同時に、衝突を直接目撃した重要な証人でもあります。
フィリピン海警が公開した映像によると、3104号艦は放水しながら高速で「スルアン」を追跡していました。同時に「桂林」も現場に急行していました。「スルアン」は2隻の中国船が迫る中、急旋回して「桂林」の艦首を回り込みました。しかし3104号艦は回避できず、「桂林」の左舷前方に衝突しました。現場には大きな衝撃音が響きました。
映像では、衝突後の3104号艦の艦首が主砲付近まで陥没・損壊している様子や、「桂林」の左舷前方に複数の凹みや擦過痕が残っている様子が確認できます。フィリピン海警のジェイ・タリエリア報道官は、衝突により3104号艦が「適航能力を喪失した」と説明しています。
フィリピン政府はこの映像を公開し、中国船によるスカボロー礁付近での「危険な行動と違法な妨害」に強い懸念を表明しました。フィリピン側によると、当時3隻のフィリピン船が地元漁民に燃料や氷を届けていたところ、多数の中国船に阻止・包囲され、その最中に「桂林」が3104号艦の進路に割り込んだ結果、中国艦同士が激しく衝突したということです。さらにフィリピン側は、「桂林」の狙いは「スルアン」に衝突させることだったと主張しています。
これに対して、フィリピン軍参謀総長ロメオ・ブラウナー氏は「明らかな挑発行為だ」と中国側を批判しました。米国のメアリーケイ・カールソン駐フィリピン大使も中国側の行動を「無謀だ」と非難し、事故発生中も冷静さを保ちながら中国側に医療・救助支援を申し出たフィリピン海警を称賛しました。しかし中国側はこの申し出に応じませんでした。
一方、北京当局は自国艦艇同士の衝突を認めず、「違法侵入したフィリピン船を追い払った」と主張しています。スカボロー礁はフィリピンのルソン島から約140海里に位置し、2016年の国際仲裁裁判所の裁定ではフィリピンの排他的経済水域に含まれるとされています。しかし、2012年以来、中国が海警船を常駐させ実効支配を続けています。今回の「自損」事故は南シナ海で初めて確認されたケースとされ、中国軍のイメージに大きな打撃を与えた可能性があります。
国際的な軍事専門家も相次いで分析を行っています。米スタンフォード大学「SeaLight」計画のレイ・パウエル氏は、もし駆逐艦がフィリピンの小型海警船に衝突していれば、死傷者や沈没の可能性が高く、その場合フィリピンは米比相互防衛条約に基づき「武力攻撃」と見なす可能性があったと指摘しました。米海軍元大佐カール・シュースター氏は、「中国側はフィリピン船を両側から挟み込み、水砲を至近距離で撃ち込む意図だった。しかし、協調不足と技術的ミスにより自損した。」分析しました。英ロンドン大学キングス・カレッジのレッシオ・パタラーノ教授は、この行動を「非専門的で極めて危険である」と批判し、シンガポールのコリン・コー氏も「高性能な軍艦を海警の任務に投入するのは行き過ぎだ」と述べました。
台湾海軍陸戦隊元教官でレイセオン社の元コンサルタントである彭杰燊氏は、映像分析の結果として、3104号艦が「スルアン」に接近中、「桂林」が両者の間に高速で割り込み衝突が発生したと説明しました。3104号艦は艦首を失い戦闘力を喪失し、「桂林」も左舷が損傷し、艦首下のソナーや内部システムが影響を受けた可能性があると指摘しました。
彭氏はさらに、中国軍艦が共同任務で指揮・統制・通信・情報(C4ISR)といった能力を発揮できず、基本的な通信・協調すら欠いた結果、300トン級のフィリピン巡視艇に「小が大を制す」形で振り切られたと批判しました。その結果、フィリピン側が凱旋し勲章授与という展開になったと述べました。衝突後も「スルアン」が医療・救助支援を申し出たものの、中国側は応じず、むしろ「桂林」が追撃を続けたとして、中国軍が現場要員の命を軽視していると非難しました。
フィリピン海軍で南シナ海を担当するロイ・トリニダッド報道官は、中国が南シナ海の戦略海域で「違法・威圧・好戦的・欺瞞的」な行動を続ける限り、今後、同様の事件が再び起こる可能性があると警告しました。彭氏はまた、台湾海軍に対し、退役艦の改造や船体強化による「反衝突能力」の整備を急ぐべきだと提案しました。
(翻訳・吉原木子)
