最近、中国南部や東部で、一般市民が権利を守ろうとする中で衝突に発展する事案が相次ぎ、大きな注目を集めています。ひとつは広西チワン族自治区南寧市邕寧区百済鎮華達村で、風力発電所建設をめぐり村民と防暴警察(暴動鎮圧警察)が激しく対峙した事件です。もうひとつは上海市閔行区七宝鎮にある自動車内装部品企業で、未払い賃金や補償をめぐって労働者が再び集団抗議を行った事案です。場所も業種背景も異なりますが、いずれも経済的圧力と権力との非対称な関係の中で、市民が権利を行使する際に直面する困難、そして有効な救済手段がない状況下での不満と対立を浮き彫りにしています。

 7月24日午前7時ごろ、広西チワン族自治区南寧市邕寧区百済鎮華達村で、数十人の作業員と防暴警察が村の山に入り、風力発電プロジェクトの工事を始めようとしました。村民の李さん(仮名)によれば、地元政府はこれまで村民の同意を得たことがなく、公聴会や公告も行わず事業を開始したといいます。作業員らは伐採用具を持ち込み、木を切る準備をしていました。知らせを受けた十数人の村民が現場に駆けつけ、「なぜ同意もなく工事を行うのか」と問いただし、作業中止を求めました。この口論の中で、高齢の村民が突き飛ばされ、殴られる場面もありました。

 李さんによれば、この事業は二安建設有限公司が請け負い、2024年4月に着工されたもので、村内に11基の風力発電タワーを設置する計画です。そのうち3基は住宅から300メートル以内に位置します。村民は、稼働中の風車が発する低周波音や電磁ノイズが長期的に生活に影響すると懸念し、特に高齢者や子ども、妊婦への健康被害を心配しています。以前、村民は政府と何度も交渉し、当局はこの3基の位置を変更することを口頭で約束しましたが、実際の工事では従来通りの場所で設置が進み、約束は守られませんでした。

 午前から昼にかけて現場に向かう村民が増え、抗議参加者は数十人から百人規模に膨れ上がりました。防暴警察は完全武装で警棒や盾を手に群衆を押し返し、催涙弾を使用して解散を試みました。素手の村民は衝突の中で次々と倒れ、多くが出血しました。最終的に15人が負傷し病院に搬送され、打撲や裂傷などさまざまなけがを負いました。村民は現場で警察に通報しましたが、到着した警察は保護措置を取らず、暴力行為を制止することもありませんでした。

 衝突後、村民は上級政府への陳情を繰り返し試みましたが、その途中で警察に阻まれ、事件は今も実質的に処理されていません。負傷者の治療費を地元政府が負担するかどうかも明らかにされていません。一部の村民は、北京に赴いて中央政府に直接訴えることも検討しています。李さんは、健康や生活への影響に加え、土地収用が公告もされずに行われ、村民の知る権利や参加権を無視していると指摘しました。この不透明な手続きが、住民の不信感と反発をさらに強めています。

 村民はまた、風力発電が再生可能エネルギーである一方、大規模な用地を必要とし、既存の植生破壊や水土流出を引き起こし、地域の生態系バランスを崩す恐れがあると訴えています。道路建設や地形改変は地貌を恒久的に変えてしまう可能性があり、工事廃棄物の堆積は土壌の質を低下させます。さらに、稼働中の風車の回転翼は局地的な気流を変え、鳥類やコウモリに致命的な脅威となるほか、長期的な低周波音は住民の睡眠や精神的健康にも影響を与えるとしています。

 一方、広西での土地収用問題とは異なり、上海市閔行区七宝鎮では、1996年に設立された国有企業「上海国利自動車本革内装有限公司」の労働者が、未払い賃金や補償をめぐって抗議を行いました。同社はかつて上汽フォルクスワーゲン、上汽GM、一汽フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツなどの大手自動車メーカーに部品を供給していましたが、2024年以降は受注減や資金繰り悪化、売掛金の遅延などで深刻な赤字に陥っていました。

 昨年10月、会社は経営難を理由に一部従業員に自主退職を求め、勤続3年以上で労使紛争のない従業員には上海の最低賃金(月額2690元)の3カ月分を補償するとしましたが、この条件は法定基準を大きく下回り、多くの労働者が拒否しました。2024年11月21日には、数百人の労働者が滬淞公路で道路を封鎖し、交通が麻痺しました。作業服姿の労働者たちは横断幕を掲げてスローガンを叫びましたが、まもなく多数の警察によって強制排除され、多くが連行されました。複数の労働者は、最低賃金すら数カ月遅延し、生産がない時でも出勤を強いられ、不出勤は欠勤扱い、支給は基本給のみで、それすらも遅延していたと証言しました。

 2025年8月9日には、労働者たちが再び工場前に集まり、解雇や未払いに対する正当な補償と賃金支払いを求めました。現場映像には、数十人の労働者が門前に集まり、10人以上の保安員が「人間の壁」を作って阻止し、複数の警察官が周囲で警戒する様子が映っていました。ある労働者は「会社は補償を出さず、警察が来ても無駄だ。本当に横暴だ」と語り、会社が労働契約法に違反していると非難しました。記者が会社の人事部に複数回電話しましたが、応答はありませんでした。

 労働者によれば、国利公司は「合意退職」や「自発的退職」という形式で法定の経済補償を回避し、「署名しなければ給与を精算しない」と脅すこともあったといいます。深センの労働権利擁護活動家・王氏は、このような事例は製造業の国有企業では珍しくなく、特に受注減の時期に顕著だと指摘します。地方の労働監督部門は執行力が弱く、時には企業寄りの対応をとり、労働者の権利擁護を妨げることさえあります。労働者が集団抗議を行えば「騒擾」と見なされ、行政拘留や実刑判決を受けることもあります。

 昨年11月の抗議後、街道弁事処や警察は主導的立場の労働者を呼び出し、「まず人を引かせてから話し合う」と求めましたが、実際には補償案は履行されませんでした。一部の労働者は低額補償で退職を余儀なくされ、残った従業員も不公正な対応に耐えるしかありませんでした。朱さんは「警察は会社の正常運営を守るために来ているだけで、私たちのために公正を守るわけではない」と話し、長引く賃金遅延と不合理な補償に耐えられず、今回の抗議に踏み切ったと語りました。

 広西での土地収用への反対も、上海での未払い賃金抗議も、現下の経済環境において市民が権力や資本に対抗して権利を守ることの脆弱さを示しています。法的保護や公正な執行が欠けているため、対立は適切に解決されず、衝突と抑圧が繰り返される中で社会的信頼は損なわれています。この状況が続けば、同様の集団抗議は今後も繰り返される可能性が高いといえます。

(翻訳・吉原木子)