中国経済の低迷が続き、不動産市場は全面的に冷え込み、消費も著しく落ち込んでいます。その影響は各産業に広がり、安徽省蚌埠市(ぼうふし)大郢村(だいえいそん)も例外ではありません。貨物輸送で知られるこの「トラック運転手の村」は、今まさに転換を迫られています。
中国の経済メディア『経済観察報』が8月9日に伝えたところによると、大郢村は運送業界では名の知れた集落で、戸籍人口は約3200人。そのうち1600人以上が出稼ぎに出ており、半数近くが貨物輸送に従事しています。主な輸送先は江蘇省や浙江省、上海から広東省にかけてで、輸送品目は鋼材が中心です。
55歳のベテラン運転手・沈為加(シェン・ウェイジア)さんは、年間の走行距離が地球の赤道を3周するほどに及びます。1年のうち自宅にいられるのは1か月にも満たず、春節の時期になってようやく帰省できるといいます。
かつて貨物輸送業は、大郢村を地域で最も早く豊かにした産業でした。しかし近年、運賃は下落の一途をたどり、貨物の奪い合いも激化。沈彪(シェン・ビャオ)さんによれば、2017年に上海から広東まで鋼材を運んだ際の運賃は1トン当たり約400元(人民元)でしたが、2025年には200元余りにまで下がり、ほぼ半減しました。貨物量の減少と競争の激化により、月の往復回数もかつての5~6回から約3回に減っています。貨主の間では「この価格で断っても、やる運転手はいくらでもいる」という言葉が広まり、業界全体で過当競争が一層進行しています。
収入を維持するため、運転手はより多くの注文を受け、遠方まで走らざるを得ません。夫婦で交代運転するケースも増えました。10年前は月に2万元を稼ぐこともあり、沈さん夫妻は時には外食やホテル宿泊も楽しめましたが、今ではサービスエリアで体を拭く程度です。5年前までは高い利益を背景に、月6000~8000元を支払って別の運転手を雇い交代運転が可能でしたが、現在は月の利益が約1万元まで減少し、追加雇用が難しくなりました。「運転中は、妻が横で見ていないと居眠りしてしまうほど疲れてしまう」と沈さんは語ります。
運賃は下がっても、農業と比べれば依然として「高収入」とみなされ、子どもが親の跡を継ぐ家庭もあります。しかし沈さんの妻は「どんなことがあっても、子どもにはこの仕事をさせたくない」と強調します。これは村の多くのドライバー家庭に共通する思いです。村では経済作物の集団栽培など、新たな収入源の模索も始まっています。
全国的に見ても、貨物運転手の状況は厳しさを増しています。中国物流与購買連合会が7月11日に発表した『2025年貨物運転手就業状況調査報告』によると、運転手の年齢構成は高齢化が進み、36~55歳が全体の84.38%を占め、そのうち46~55歳が42.08%に達しました。月収は5000~8000元が中心です。同時に発表された『同城貨物運転手健康報告』では、腰痛(36%)、頸椎痛(31%)、胃腸疾患(23%)など、この職業特有の健康被害が浮き彫りになりました。
今年3月1日、一部の運転手が運賃引き上げや運行環境の改善を求めてストライキを試みましたが、参加は限られ、大規模な動きには至りませんでした。広東省仏山市の運転手・趙赫(仮名)さんは「1日ストライキをすればその分収入がなくなる。そんなことをできる人はいない」と話します。河南省開封市の運転手・李浩(仮名)さんも、ストライキに参加したのは宅配や物流、大型車両の運転手が中心で、ローン返済を抱える個人事業主とは利害が異なると指摘します。
経済低迷や工場の稼働停止で貨物量が減る一方、失業者が貨物業界に流入し競争が激化しています。さらに「貨拉拉(フオララ)」や「運満満(ユンマンマン)」といった配車プラットフォームが価格競争に拍車をかけています。趙さんは「以前は100キロで450元だった運賃が、今では170元まで下がった」と言い、李さんも「昔は人脈や交渉力で高運賃を維持でき、帰りは空車でも採算が取れたが、情報の透明化で1キロ5元まで下落し、大型車が小型車の案件を奪うこともある」と語ります。こうしたプラットフォームの「値引き交渉案件」や「相乗り案件」により、貨主は低価格で契約できる一方、運転手の利益は削られ続けています。深圳市の運転手・陳龍(仮名)さんによれば、多くのバン型車両の運転手が廃業に追い込まれており、中国物流与購買連合会の統計では、貨物運転手の数は6年前の3000万人超から約1600万人にまで減少しました。
過当競争だけでなく、高額な罰金や取り締まりも運転手を追い詰めています。2024年12月、河南省鄭州市で高架道路走行中に取り締まりを受けた運転手が逃走の末、橋から飛び降り死亡する事件がありました。2021年4月には河北省泊頭市の運転手・金徳強(ジン・ドーチャン)さんが超過検査で2000元の罰金を科され、農薬を服用して自殺。2024年にも貨物車内で首を吊る事件が発生しています。
過労や過酷な勤務による突然死も相次ぎます。今年2月、内モンゴル自治区の運転手・劉俊平(リウ・ジュンピン)さんは浙江省竜遊での配送後、帰りの案件がなく車内で休んでいたところ、翌日死亡しているのが発見されました。昨年11月には江蘇省徐州市の運転手・劉磊(リウ・レイ)さんが配送途中、高速道路のサービスエリアで亡くなっています。動画投稿アプリ「抖音」では、1か月の間に十数人の貨物運転手が業務中に命を落としたとの報告もありました。
米国在住の上海出身企業家・胡力任(フ・リーレン)氏は論壇『菁英論壇』で、「貨物運転手は最も強く圧迫を受けている職業群の一つだ。業務範囲が広域に及ぶため、公路、運輸、公安、司法といったあらゆる部門が、彼らをまるで『屠殺待ちの子羊』のように扱っている」と指摘しています。
(翻訳・吉原木子)
