五つ星ホテルが路上で屋台を出し、熱々の惣菜や煮込み料理が道端に並べられます。もともと高級なバンケットホールにしか登場しなかった繊細な料理が、今では街角に進出し、シェフたちは笑顔で通行人に声をかけています。こうした光景を目にした多くの人が「高級レストランはもう生き残れないのか」と嘆いています。

高級レストラン市場の寒波

 2025年5月時点で、上海における1000元(約2万円)以上の高級レストランの数は、2022年と比べて40%も減少し、中国全体の高級レストラン数も3年前と比べて半分に激減しました。中でも打撃を最初に受けたのはミシュランレストランで、次々と閉店に追い込まれています。

 2024年4月、北京市の西洋料理ブランド「TIAGO(ティアゴ)」は、傘下の4ブランド・6店舗すべての営業終了を発表しました。ほぼ同時期に、北京のミシュラン一つ星イタリア料理店「Opera BOMBANA(オペラ・ボンバーナ)」も閉店を発表しました。また、同年5月末には、開業からわずか1年でミシュラン一つ星を獲得した「玉芝蘭(ぎょくしらん)」が、テナントとの契約トラブルを理由に営業を停止し、現在も再開されていません。その直後、上海で「コストパフォーマンス最強」と謳われていたミシュラン二つ星レストラン「喜粤8号(きえつはちごう)」も突然閉店し、オーナーが資金を持ち逃げし、従業員の給料も未払いという噂が広まりました。

 下半期に入っても、閉店のラッシュは止まりません。9月にはミシュラン一つ星の「山河万朶(さんがばんだ)」が営業を終了し、10月末には中華料理の名門「鼎泰豊(ディンタイフォン)」がブランド契約終了に伴い、中国国内の十数店舗を次々と閉鎖しました。2025年3月、8年連続でミシュラン三つ星を獲得していた伝説的レストラン「Ultraviolet(ウルトラバイオレット)」が無期限休業に入りました。同時に、かつて「黒真珠レストラン」の栄誉を受けたフランス料理店「TRB紫禁城(しきんじょう)」や北欧料理店「Refer(リファー)」などの高級店も次々と姿を消しています。

 業界関係者によると、高級レストランの衰退には主に3つの要因があると分析しています。

 第一に、消費の低迷により、若年層の多くが「レストラン映え」を重視しなくなり、コスパ重視の「貧乏人セット」に流れています。

 第二に、「過去最も厳しい禁酒令」の影響で、公務員やビジネス関係者による接待の機会が激減しました。

 第三に、不動産や証券など、高級消費を支えてきた産業が不調となり、接待用の予算が大幅に縮小されました。

「グルメ界のアカデミー賞」の栄枯盛衰

 ミシュランによるレストラン評価制度の起源は1900年にさかのぼります。当時、ミシュラン社は自社製タイヤの普及を目的に無料のドライブガイドを発行し、その中に地図、ガソリンスタンド、宿泊施設、観光情報などの実用的な内容を盛り込みました。これが予想外の人気を博しました。

 1926年には、『ミシュランガイド』では、星印を用いてレストランの品質を評価するようになりました。星1つは「試す価値がある」、星2つは「遠回りしてでも食べに行く価値がある」、星3つは「わざわざそのために旅行する価値がある」とされ、「ミシュラン星付きレストラン」の概念がここに誕生しました。

 ミシュラン評価が広く信頼されているのは、その公平性と権威性にあります。すべての審査員は身元が非公開で、さまざまなバックグラウンドを持つ飲食業界の専門家によって構成されています。審査プロセスは極めて厳格で、ガイドは毎年更新され、最新の変化を反映します。星1〜2つのレストランでも、年間で少なくとも15回以上の再評価が行われ、星3つともなるとさらに厳しくなります。

 例えば、美食の都・広州市でさえ、ミシュラン二つ星レストランはわずか3軒、ミシュラン一つ星でも16軒しか存在しません。

 2008年、香港・マカオ版の初のミシュランガイドが発行され、ミシュランは正式に中国市場へ参入しました。2016年9月、上海ミシュランガイドが発表され、ミシュランが中国で初めて出版したグルメガイドとなりました。

 ミシュランの星を獲得したレストランは、瞬く間に「ネット映えスポット」として話題になりました。当時、唯一の三つ星レストランだった「唐閣(タンコート)」には予約の電話が殺到し、その他の星付きレストランや推薦店も一斉に値上げされました。ミシュランレストランは高額な料金で知られ、1人当たりの平均消費額は軽く1000元(約2万円)を超えます。新興の中間層は列をなして訪れ、まるで料理やワインの香りだけでなく、「洗練されたライフスタイル」の空気までもがそこにあるかのようでした。

 その後数年間で、ミシュランは北京、広州市、成都市などにも相次いで進出し、ミシュランを象徴とする高級レストランの数も急増しました。美団(びだん)が発表した『精緻飲食レポート』によると、2023年には精緻系レストランの店舗数が6835軒に達しました。「ミシュランレストランに行く」という行為は、単に食事をするということではなく、一種のステータスやライフスタイルを示すラベルのような存在になっていたのです。

「名士の晩餐会」から「給与未払いの閉店」へ

 しかし、こうした高級レストランの輝きも今や過去のものになりつつあります。

 2024年4月、北京の「Opera BOMBANA(オペラ・ボンバーナ)」が営業を停止したことは、多くのネットユーザーの間で話題となりました。このレストランは、ミシュラン三つ星を獲得した名シェフ、ウンベルト・ボンバーナが手掛けた店で、店内はマリリン・モンローをテーマに装飾され、看板料理のトリュフ入り牛ヒレやフォアグラのソテーなどは、1人当たりの平均消費額が1000元(約2万円)を超えるものでした。

 この店はかつて、北京の芸能人や企業家たちに接待の場として最も好まれていました。しかし最終的に、経営悪化により「お客様へのお知らせ」という形で閉店が告げられ、静かに幕を下ろしました。

 一方で、TIAGO(ティアゴ)はより突然でした。前夜までは通常営業していたにもかかわらず、翌日には跡形もなく人がいなくなっていました。事前に購入したプリペイドカードの払い戻しはできず、従業員の給料も未払い、仕入先への支払いも滞り、ショッピングモールからは重大な契約違反として提訴される事態となり、世論を騒がせました。

 あるネットユーザーは、ミシュランレストランをこう揶揄しています。「大きな皿、少ない量、ソースをちょこっと、草を1本、暗い照明、静かに食べなきゃいけない、値段は高くてお腹は満たされない」。このような風刺は、高級料理と一般庶民の間に横たわるギャップを如実に表しています。

「貧乏人セット」はミシュランを救えない

 市場の冷え込みに直面し、多くのミシュランレストランはプライドを捨て、価格を引き下げる戦略に出ました。

 「Opera」は、テイクアウトやベーカリー販売を始め、18元(約360円)から198元(約4000円)のパンや焼き菓子を売り出し、レストラン・ウィークでは最安398元(約8000円)のランチセットを提供しました。「TIAGO」は68元(約1400円)の団体向けランチを発売し、「新栄記(しんえいき)」は398元のコースを導入、「莱美露滋(ライメイルーズ)」は価格を下げた上に、コーヒーや炭酸水を無料で提供、平均単価4400元(約9万円)だった「EHB」は、コース価格を3分の1に引き下げました。

 しかし、これらの施策も衰退の流れを食い止めることはできませんでした。

 今や、美しい食器や面倒なマナー、華やかなインテリアはステータスの象徴ではなくなりつつあります。消費者が求めているのは、味、量、そして価格のバランスです。ある飲食業界のアナリストはこう語っています。

 「美味しくて安い、それこそが飲食業界の永遠のサバイバル法則である」

 ミシュランレストランの集団消滅は、単なるビジネスの現象ではなく、消費者の価値観そのものが大きく変化していることの象徴でもあります。高級料理の黄金時代はすでに終焉を迎え、代わりに、より身近で本来の味に立ち返った飲食スタイルが、再び人々の心をつかみ始めているのです。

(翻訳・藍彧)