今年の夏、中国中部の河南省は、1961年以来、最も深刻な高温と干ばつに見舞われました。省内の多くの地域では数十日間にわたり有効な降水がなく、地表がひび割れ、作物の収穫量は大幅に減少しました。一部では全滅するなど、農業に深刻な影響が出ています。
中国気象局によると、今年7月の河南省全体の平均気温は30.5℃に達し、平年を3.2℃上回り、過去最高を記録しました。一方、降水量は79.5ミリにとどまり、平年の半分以下にまで落ち込んでいます。
こうした異常気象の影響で、河南省内の観測地点のうち55%以上が「重度干ばつ」またはそれ以上のレベルに分類され、とりわけ駐馬店市、周口市、漯河市などで被害が深刻化しています。
8月4日には、干ばつの深刻さを伝える複数の動画がSNS上で拡散されました。駐馬店市のある農民は「すでに4回灌漑したが、水が足りずピーナッツの栽培を諦めた」と話しています。「2か月間雨が降っておらず、地面が硬くなりスコップも刺さらない」と述べ、高齢の農民も「何十年生きてきて、こんな状況は初めてだ」と語っています。
この農民の話によれば、自宅近くの畑では20ムー(約1.3ヘクタール)あまりのトウモロコシを育てており、茎は2メートル以上に成長しているものの、実は小さく、十分に育っていないといいます。ピーナッツも実がつかず、収穫を断念したとのことです。「茎は家畜の飼料にするしかない。1ムーあたり500元(約1万円)の損失で、以前は1ムーから1000斤(約500キロ)収穫できたが、今年は200斤が精一杯だ。今から雨が降っても、もう間に合わない」と語っています。
また別の映像では、農地の土壌を手に取ると、砂のようにパラパラと崩れ、水分がまったく感じられない様子が映されており、保水力が失われている実態が明らかになっています。
開封市の杞県に住む張さん(60代)は、家族が出稼ぎに出ているため、妻と二人で生活しています。毎日午前3時から4時の間に起床し、水ポンプとホースを持って村内の井戸に向かい、順番を待って灌漑作業を行っているといいます。「各家庭で水が必要なため、皆が交代で井戸を使っている」と話しています。
日中の気温が40℃近くに達する中、張さん夫妻は腕や顔をトウモロコシの葉で傷つけないよう、長袖と帽子を着用しながら数時間にわたって作業を続けています。「今はちょうどトウモロコシの穂が出る時期だ。このまま高温が続けば収穫に大きな影響が出る」と懸念を示しています。
周口市の淮陽区で100ムー以上のトウモロコシを育てる孫さんも、「井戸水だけが頼りで、1日1回水をやっているが、土に浸透しない。背丈も伸びず、穂も小さいままだ」と現状を語っています。
また別の農民・張さんは、50~60ムーの畑を管理していますが、「1日に灌漑できるのは3ムー程度だ。全体に水を行き渡らせるには半月以上かかる」と話しています。しかも、1か月でポンプにかかる電気代は2000元(約4万円)を超えており、「それでも土は乾いたままで、水がしみ込まない」と頭を抱えています。
こうした被害は局地的なものではなく、省内各地に広がっています。例えば、駐馬店市の遂平県では、1か月以上まとまった雨が降らず、6万ムーのトウモロコシ畑が干ばつの影響を受け、そのうち約1.6万ムー分は葉が枯れて黄色く変色するなど、深刻な状況が続いています。
河南省農業農村庁によると、駐馬店市では163万ムーの農地が干ばつの影響を受け、うち39.8万ムーが特に深刻な状態にあるとしています。省政府は、黄河からの取水強化や貯水池の活用による灌漑能力の向上に向けた取り組みを進めており、すでに秋の作物技術指導18チームと干ばつ対策9チームを現地に派遣しています。
7月25日と29日には、周口市と商丘市で干ばつに関する警報が発令されました。さらに8月4日には、華北、南部、黄淮、江漢などの広い範囲で35~39℃の高温が予測されました。陝西省南部や四川盆地では40℃を超える地点も確認されました。
8月6日から7日にかけては、一部で雷雨を伴う一時的な降雨が予想されていますが、降水の分布には偏りがあり、黄河以南の一部地域では集中豪雨となる可能性もあります。長期間の干ばつにより地表の透水性が低下しており、短時間の強雨が都市型の浸水被害や土砂災害につながるリスクも指摘されています。専門家は「干ばつから一転して洪水への警戒が必要だ。」と呼びかけています。
このような厳しい環境の中、河南省の農民たちは灼熱の太陽の下で灌漑作業を続け、収穫への希望をつなぎとめています。しかし、気候変動の影響が強まる中で、個々の努力だけでは限界があり、農業インフラの整備や、自然災害に対する強い農業政策の構築が急務となっています。
(翻訳・吉原木子)
