長江流域では毎年7月と8月が洪水対策の重要な時期ですが、今年は降水量が平年を大きく下回っています。
中国水利部長江水利委員会がこのほど、今年の7月下旬から8月上旬にかけて、長江流域は「干ばつと洪水が同時に発生し、干ばつのほうが深刻である」という特徴を示しているとする通知を発表しました。「洞庭湖(どうていこ)」と「鄱陽湖(はようこ)」の水位は引き続き低下しており、干ばつ対策と水供給の確保に非常に大きな圧力がかかっているとされています。
長江流域では5万以上のダムが乱立した
中国の「澎湃新聞(ほうはいしんぶん)」の報道によると、7月18日時点で長江中下流域の主要な観測所における水位は、過去の同時期の平均値よりも3~4メートル低く、中下流域の河川および湖沼の貯水量も明らかに少ない状態が続いています。流域全体の降水および流入水量は依然として少雨傾向にあります。
長江委員会防災局の調査員である陳新国(ちん・しんこく)氏は、中国のメディアに対して、「長江中下流域は梅雨明け後、降水量が少なく、長江および洞庭湖・鄱陽湖の水位が持続的に下がっている」と述べました。すでに中下流域の主要な観測所においては、干ばつ警戒水位が設定されており、水位がこの警戒ラインを下回ると、沿線の都市における水利用が深刻な影響を受ける可能性があるとのことです。
長江委員会が発表した情報によると、7月中旬には長江上流にあるダム群で約120億立方メートルの干ばつ対策用貯水が確保されていました。このうち、三峡ダムには80~90億立方メートル、金沙江中流のダム群に約10億立方メートル、金沙江下流のダム群に約20億立方メートル、さらに岷江(びんこう)・嘉陵江(かりょうこう)・烏江(うこう)の各ダム群にも一定の貯水があるといいます。
「自然の保水力が弱まり、災害が頻発する」と建設作業員が証言
三峡ダムの建設に参加した経験を持ち、「陸宇(りく・う)」という仮名で取材に応じた建設作業員は、大紀元に対し以下のように述べました。
「中共(中国共産党)が何をするにも、一斉にやるやり方だ。三峡ダムを建設した目的は発電だと言っていたが、実際には長江流域に5万以上ものダムを作った。その多くは現地の資源を使って、山の木を無計画に伐採し、地表の植生を深刻に破壊している。そのせいで自然の保水能力が弱くなり、大雨が降ればすぐに山滑りや山津波が発生する。雨が多いときにはダムが放流し、下流住民が洪水被害を受ける。逆に干ばつのときにはダムが放水しないので、長江下流域の水位が下がり、湖もほぼ干上がってしまう」
「今年の干ばつはとくに深刻だ。中共は『干ばつ用の水は十分確保している』などと言っているが、いまや国民も賢くなり、政府の発言はすべて逆に理解されるようになっている。多くの国民が自ら水を買って備蓄しているが、それでどれだけ備えられるというのか。結局、中共は自分たちの過ちを国民に負わせているだけだ」
干ばつがもたらす長江流域への影響
「洪水のときは一面が水で覆われ、干ばつのときは一本の細い流れしか残らない」――これは「長江の腎臓」と呼ばれる鄱陽湖特有の風景であり、長江の季節的な水量変動の縮図でもあります。中国最大の河川である長江は、豊富な水量を誇る一方で、季節による変動も非常に顕著です。
長江水文局のデータによると、2024年8月以降、長江流域の多くの地域で降水量が平年を大きく下回り、8月からは洪水から干ばつへの急激な変化が生じ、中下流域の水位は急速に低下しました。
水利部門はこの異常な変化をいち早く察知し、中下流域における低水位予測を強化しました。10日ごとに6つの省・市に対して水位の予測を通報し、水不足や長江河口への海水遡上(かいすいそじょう)といったリスクに備えるよう警告しています。
2024年8月に干ばつの兆しが現れた後、水利当局は長江の主要な制御ダム群に対して、早めの貯水や貯水量の拡大を指示し、洪水期終了時点での最大貯水量は875億立方メートルに達しました。
2024年12月以降は、中下流地域の水利用需要に対応するため、三峡ダムからの放水量を日々調整し、その結果、中下流域の主要な河道の水位は平均0.4〜1.5メートル上昇しました。これにより、沿岸の主要な浄水場の取水条件が確保され、荊州(けいしゅう)や武漢などの都市における水供給への影響は回避されました。
データによれば、2025年1月23日時点で、長江上流の制御性ダム群から中下流域に対して供給された水量は累計117億立方メートルで、日平均では約2.2億立方メートルの放水が行われています。さらに約500億立方メートルの貯水が残されており、この放水ペースを維持すれば、およそ7か月間の供給が可能と見込まれています。
長江で進む異常気象 雨季に干ばつが頻発
長江委員会の専門家によると、近年は洪水期に逆に干ばつが発生する現象が繰り返し見られていますが、これが長期的な傾向であるかどうかは判断できないとしています。
また、現在も長江中下流域および洞庭湖・鄱陽湖の水位は引き続き低下しており、上流の水庫が持つ干ばつ用の貯水と中流域の水庫群による共同運用によって、かろうじて流域の水供給の安全性が確保されている状況です。
長江水文局予報センター副主任の李玉栄(り・ぎょくえい)氏は取材に対し、「近年、華北や東北では記録的な大雨が発生する一方で、長江流域では洪水期に干ばつが起きる現象が見られる。特に2022年には、流域全体で深刻な水枯れが発生した」と述べました。
2022年、長江流域では7月から10月までの累積降雨量が1961年以降の同時期として最少となり、各地で深刻な干ばつ被害が発生しました。
同年8月18日、長江鄂州(がくしゅう)市の水位が157年ぶりの最低値を記録し、長江の中に700年の歴史を持つ「万里長江第一閣」こと観音閣(かんのんかく)の礁石の土台が露出しました。
鄂州市の文物部門が公表した資料によると、観音閣は元代の1345年に建立され、「一亭三殿二楼(東屋一棟、殿堂三棟、楼閣二棟)」から構成され、総面積は300平方メートル以上に及びます。その内部構造は緻密で、江南地域の民間建築の特色を色濃く持ち、儒教・仏教・道教の三つの文化を融合した名建築とされています。
2022年9月6日には、鄱陽湖水文・水資源モニタリングセンターが「干ばつ青色警報」を発令しました。雨量不足と長江本流の水位低下の影響で、鄱陽湖の水位は持続的に下がり、6日午前8時には星子観測所での水位が7.99メートルとなり、極端な干ばつ期に突入したと発表されました。これは、2019年11月30日に記録された鄱陽湖の最も早い極端渇水期入りの記録を更新したもので、85日も前倒しされたことになります。
2023年1月31日には、長江の水位が引き続き低下する中、重慶市の南浜路(なんぴんろ)沿いの河川敷に巨大な岩石彫刻が姿を現しました。泳ぐ姿の母親と、その周囲にいる11人の子どもたちを表したもので、この石像は仮に「長江・母の子守唄」という名称が与えられました。全長は63.87メートルで、これは長江の全長6,387キロメートルにちなんでいます。母親は長江そのものを、11人の子どもは長江流域に位置する11の省・市を象徴しているとのことです。
(翻訳・藍彧)
