7月初旬に広東省およびマカオで初めてチクングニア熱の感染例が報告されて以来、1か月足らずで累計感染者数は6900人に達しました。広東省各地で新たな感染地域が相次いで確認される中、仏山市市では7月29日、突発的な公衆衛生事件に対する緊急対応を発令し、全市を対象にチクングニアウイルスのPCRスクリーニングを実施すると発表しました。これを受けて、市民の間で強い懸念と白熱した議論を巻き起こしています。
仏山市が第Ⅲ級緊急対応を発動 全市で蚊の駆除とPCR検査を実施
7月29日夜、広東省党委員会の黄坤明(こう・こんめい)書記は会議で、「省内の感染症例報告数は依然として高止まりしており、防疫体制は極めて厳しい状況にある」と述べました。
同日夜、広東省仏山市政府は第Ⅲ級(レベル3)の公衆衛生緊急対応を開始すると発表しました。第Ⅲ級の対応は「中規模の突発公衆衛生事案」に適用されるものです。
防疫措置として、佛山および周辺地域ではすでにさまざまな蚊の駆除対策が講じられています。たとえば、すべての住民が毎日午後6時に一斉に蚊取り線香を焚くよう指示されており、防疫スタッフは屋外で殺虫薬を噴霧しています。下水道の出入り口には防虫ネットが設置され、水辺には蚊の幼虫を食べる「蚊取り魚」5000匹が放流されました。また、重点エリアではドローンによる空撮を行い、衛生上のリスク地点を特定しています。
一部の地域では、防疫措置が事実上の強制力を伴っています。仏山市の張槎(ちょうさ)行政区では、住民が蚊の駆除に協力しなかったり、防蚊対策が不十分であったりした場合、区の福利厚生を停止し、配当金の支給を一時見合わせると規定されています。また、防疫に非協力的な賃借人や家主に対しては、電力の供給を停止する措置が取られる可能性もあるとしています。
一方、順徳区の楽從鎮(らくじゅうちん)では、住民に対して7月29日から31日までの3日間、チクングニアウイルスのPCR検査を無料で実施するとの通知が順次届けられています。仏山市衛生健康局の陳愛貞(ちん・あいてい)局長によれば、市内では新たに35か所の病院がPCR検査を実施可能となっており、陽性者は入院治療を受ける必要があり、治療期間はおよそ7日間とされています。
防疫措置が「ゼロコロナ政策の記憶」を呼び起こす
公式の発表によれば、今回の感染者はすべて軽症であり、重症者や死亡例は確認されていません。また、現時点では人から人への感染を示す証拠もないとしています。
しかし、仏山市で実施されている厳格な防疫措置に、多くの市民が「どこかで見たような光景だ」と感じています。PCR検査の実施、公共空間での消毒作業、都市間移動の制限といった場面が、新型コロナ流行時のロックダウンを思い起こさせるためです。
ネット上に出回っている動画では、広東省各地で再びPCR検査が始まり、市民が採血検査のために列をなしている様子や、防疫担当者が街頭で消毒液を散布している様子が映し出されています。一部のネットユーザーは「この対応を見る限り、人から人への感染があるのでは」と疑念を抱き、別の人は「極端なロックダウンがまた始まった。次は『大白(防疫スタッフ)』が街頭で取り締まることになるのか」と皮肉を述べています。
市民の中にはすでに都市間の移動に支障を感じている人もいます。あるネットユーザーは「家族が仏山市の身分証を持って深セン市へ旅行に行こうとしたら、複数のホテルから宿泊を拒否された」と投稿しました。また別の人は「自宅近くで、防疫スタッフが地面全体に消毒液を噴霧しているのを目撃した」と述べています。
珠江デルタ地域では、病院を受診した子どもが発熱していたため、デング熱検査を強制的に追加され、100元(約2100円)以上の費用を請求されたという声も寄せられています。また、珠海市の高新区では「仏山市から来た人の居住歴を把握する統計表」が配布され、関係者の調査が始まっています。
PCR検査や蚊の駆除、都市間の移動制限といった施策が次々と導入されたことで、仏山市全体に緊張感が漂いはじめています。多くの人にとって、これは単なる公衆衛生の問題ではなく、3年前の封鎖を思い出させる社会的ショックとなっています。高圧的な防疫措置が日常生活に大きな影響を及ぼすことで、SNS上では不安や不満の声が日増しに高まっています。
あるネットユーザーは「検査や消毒そのものではなく、たった一枚の通知で都市全体の生活が止まる。その強引なやり方が一番受け入れがたい」と述べています。別のコメントでは「万全を期すという大義名分のもと、無数の人の暮らしが簡単に犠牲にされる。その無力感が一番つらい」と指摘されています。
疑惑の「蚊の工場」 感染源への関心集まる
突如発生した今回の感染拡大に対して、国民の関心は感染源に向かっています。7月26日、SNS「X」でユーザー「タオミャオ先生(淘喵先生)」は、仏山市やその周辺で発生しているチクングニア熱がデング熱と症状が似ていると指摘しました。
新型コロナの発生地である武漢市にコロナウイルスの研究所が存在するのと同様、今回のチクングニア熱が広がっている仏山市の近隣にも「世界最大の蚊の工場」があることから、感染源との関係を疑う声が高まっています。
2024年4月にネット上で出回った微博(ウェイボー)の投稿によれば、中山大学が運営するこの工場では、毎年3億6000万匹もの「ボルバキア」という細菌を保有する蚊を生産し、人口密集地域に放出しているとされます。投稿では、「公式は人体への無害性を謳っているが、蚊に与えている血液がウイルスや細菌に感染している可能性もあるのでは」と疑問が呈されています。
2024年10月の香港メディアの報道によれば、広州市黄埔区(こうほく)峡石村(きょうせきそん)では毎週30万匹以上のボルバキア菌を保有する雄性のヒトスジシマカが放出されています。これらの雄蚊は、自然界の雌蚊と交配することで卵が孵化しないようにし、蚊の個体数を減らすという「蚊対策」が、同地では7年前から導入されています。これにより、当地ではデング熱の発症例が出ていないと報じられています。
こうした生物的防除手法が一部地域で成果を上げているとはいえ、今回のような感染拡大の中で国民の不信感は根強く残っています。「蚊の宅配便」の存在を連想し、誰かが蚊を大量生産・購入しているのではないかと疑い、それが流行の蔓延と関連しているのではないかと推測する人もいます。
(翻訳・藍彧)
