山西省稷山県(しょくさんけん)が昨年23カ所の公衆トイレを建設しました。しかし、完成して以来一度も開放されていません。現地スタッフによれば、地元住民はいまだに屋外の簡易トイレを使用しているとのことです。

中国当局が推進する「トイレ革命」

 近年、中国共産党(以下、中共)の習近平(しゅうきんぺい)総書記が提唱する「トイレ革命」に呼応し、山西省運城市(うんじょうし)稷山県政府は2023年から2024年にかけて、総額230万2800元(約4600万円)を投入し、農村部に23カ所の公衆トイレを新設しました。これらの施設は、設計面では清潔で設備も整っているとされていますが、完成後は大半が常時施錠されたまま使用されず、村の行事や上級幹部の視察時のみ一時的に開放されるにとどまり、ネット上では「展示用の建物」と揶揄され、批判が広がっています。

 2025年7月20日、中央テレビ局(CCTV)の経済調査番組が特集報道を行いました。記者が同県の榆次鎮(ゆうじちん)内の複数の村を訪ねたところ、多くの村で新設された「高規格トイレ」の扉は閉ざされたままで、すぐ隣にある古い簡易トイレがいまだに使われており、悪臭が立ちこめていました。

 中でも「モデル村」および「未来型農村建設試点」として指定されている吉家庄村(きっかそうそん)では、率先して新しいトイレを活用すべきはずですが、現地を訪れた記者が見たのは、やはり施錠されたままの扉でした。村の委員会の職員は「内部の設備は正常に整っており、すでに使える状態ではある」と語る一方で、「日常的な清掃や維持管理が面倒なので、普段は開けていない」と明かしました。記者が使用可能かどうか尋ねると、職員は「使ってもいいが、自分で掃除してから出てください」と返答しました。

 別の村幹部はさらにこう説明しました。「村民のマナーが悪く、用を足した後に水を流さない、便器を洗わない、トイレットペーパーをあちこちに投げ捨てるなどして、しょっちゅう詰まる」とのことです。

 そのため、維持コストを削減するために、通常はトイレを閉鎖し、行事や上級幹部の視察時のみ「タイミングを見て開放する」方針なのです。西里村(せいりそん)、白池村(はくちそん)、賈峪村(かゆくそん)、邢家庄村(けいかしょうそん)など、他の村でも同様に、新設されたトイレが「ただの飾り」となっています。

政策と現実の乖離

 2021年3月、中共の全国人民代表大会で、ある農村代表が習近平氏の面前で「習主席のトイレ革命は素晴らしい」と称賛し、習氏が困ったように笑みを浮かべる場面が話題となりました。

 その「トイレ革命」を本格的に実行に移すため、中共当局は2021年に「農村生活環境改善5ヵ年行動計画(2021〜2025年)」を発表・施行し、農村部の公衆トイレの合理的な計画・配置、農村観光用トイレの整備加速、公衆トイレの維持管理責任の明確化を打ち出しました。2022年には、農業農村部など複数の省庁が再び「農村公衆トイレの建設および管理強化に関する通知」を発し、「使える、そして長く使える」トイレを整備すべきだと強調しました。

 しかし現実には、地方政府の官僚たちは上層部の視察対策として、どれだけのトイレを建てたか、外見や設備がどうかにばかり注目し、肝心の維持管理体制を構築していません。その結果、建設されたトイレは管理されることなく放置され、鍵をかけられて誰も使えないという本末転倒な状況に陥っているのです。

国民の怒りと疑問の声が噴出

 7月20日にCCTVの報道が放送された直後、山西省の地元当局は動かざるを得なくなりました。翌21日、稷山県党委員会宣伝部は県内の農村公衆トイレの利用・管理状況について全面的な調査を開始したと発表し、公共施設を正常に開放させると明言し、関連する責任者に対しては追及・処分を行うとしました。

 この報道はSNSでも瞬く間に拡散され、ネットユーザーたちは「同じような状況は全国にある」と相次いで体験談を投稿しました。
 「うちの地域でも建ててからずっと鍵がかかっていて、開放したことは一度もない」
 「市内の住宅地団地のそばに新設された公衆トイレも、10年間一度も開けられたことがない」
 「新任の幹部が来るときだけ開けて、ふだんは鍵すら持っていない」
 「建てたら管理しなきゃいけない。水道代や電気代、清掃費も払わなきゃいけないし、経済的に余裕のない村には大きな負担だ」
 「そもそもこうしたプロジェクトを開始する段階で、維持コストまで考慮されていたのか?」
 「こんな状況になるのは予想できたはず。維持できないなら、なぜ無理に建設したのか?形式主義と『官僚主義』の検査制度が原因ではないか?」
 「トイレなんて氷山の一角に過ぎない。活動センターも、サッカー場も、バスケットコートも、ぜんぶ鍵がかかっている」

 こちらはすでに完成しているバスケットコートですが、門の鍵はすでに錆びついているにもかかわらず、開放されていません。

 私はあるバスケットコートの前を通りかかり、ちょっとシュートでもしていこうかなと思ったのですが、なんと門が施錠されています。このコートはゴム素材で舗装された立派なグラウンドです。しかし、向こうに見える別のコートは、地面には何も敷かれておらず、バスケットゴールにネットも付いていません。なのに、そちらは誰にも管理されていない様子です。

 こちらはちゃんと整備されたコートは、わざわざ囲いをして鍵までかけてしまっています。一方、何もないコートは放置状態です。ここは私たちの臨川県のバスケットコートです。もしこれが晋城市だったら、きっと一般に開放されていて、門が閉ざされることなんてないでしょう。仮に鍵がかけられていたら、すぐに誰かが苦情を入れるはずです。

 でも、ここは違います。もともと人も少ない場所なのに、せっかくのバスケットコートまで閉ざされているのです。

 上海市のあるサッカー場では、2人の子どが「お父さん、どうしてまだ開いてないの?」と不満を口にしました。また、カメラの前で「おじさん、おばさん、僕たちは本当にサッカーがしたい。お願い、門を開けてください」と懇願する様子も映されています。

 これは上海市政府が資金を出して建設した公共のサッカー場ですが、管理側はさまざまな理由をつけて開放を拒んでいます。サッカー場の門にかけられたその1つの錠前は、本来開放されるべき公共施設の門を閉ざすだけでなく、子どもたちのサッカーの夢までも閉ざしているのです。

 河北省石家荘市にある公共の運動場は、完成後長年にわたって開放されていません。記者が管理部門を探そうとしましたが、驚くべきことに、それすらも見つかりませんでした。

 また、数十年にわたって封鎖されたままの地下鉄駅や、開業を一度も迎えないまま荒廃した鉄道駅も、莫大な予算を投じて建設されたにもかかわらず数年で廃線となっています。

 北京市の一部地下鉄駅、たとえば1号線の「福寿嶺(ふくじゅれい)駅」や「高井駅」は、1969年に建設されながら、半世紀以上一般利用されることなく放置されてきました。列車は通過するものの、乗客は乗降できず、「幽霊駅」と呼ばれています。もともとは職員専用として設置され、外部からは存在すら知られていませんでした。最近ようやく一般開放の準備が進められていると報じられています。

 江蘇省南京市にある浦口駅は、2011年に客運駅として建設され、ホーム・駅前広場・照明設備などすべて整備されているにもかかわらず、開業することなく放置されています。記者が現地を訪ねた際には、建物はほこりに覆われ、電光掲示板は稼働しておらず、周辺も人影がないまま荒れ果てていました。住民によると、「そもそも開業する計画がなかったのではないか」との声もあります。

 広東省珠海市で建設された「有軌電車(トラム)1号線」は、2017年に試験運行が始まり、総投資額は26億元(約520億円)に上りました。しかし、技術的トラブルや利用者数の激減により、2021年には全線運行停止となり、2024年には正式に廃線・撤去作業が始まりました。今では車両基地も使われず、線路も錆びついたままとなり、税金の無駄遣いの象徴とされています。

(翻訳・藍彧)