中国・北京とその周辺地域では7月下旬、激しい豪雨が続き、一部の市街地が冠水するなど深刻な被害が発生しました。とりわけ隣接する河北省涿州市(たくしゅうし)では、道路がまるで川のようになり、多数の車両が水没。橋の流出も確認され、市民生活に大きな影響が広がっています。

 涿州市の住民たちは、2023年にも「北京と雄安新区を守るため」として人為的な放水により市全体が浸水した経験を持ち、今回の事態に不安や怒りの声を上げています。

 新華社によると、今回の豪雨は副熱帯高気圧の縁に沿った暖かく湿った気流の影響によるもので、北京市では7月24日から明確な降雨が観測されました。北京市気象台は同日、暴雨黄色警報を発令し、24日17時から25日8時にかけて、市内の広い範囲で1時間あたり30ミリを超える雨が予想されたといいます。

 特に房山区(ぼうざんく)、門頭溝区(もんとうこうく)、石景山区(せっけいざんく)、海淀区(かいでんく)、懐柔区(かいじゅうく)、密雲区(みつうんく)、平谷区(へいこくく)、大興区(だいこうく)、通州区(つうしゅうく)などでは、1時間に50ミリを超える非常に激しい雨が観測され、6時間累計では70ミリを超える地点もあったとのことです。山間部では土石流や地滑りのリスクも高まっており、今後の災害拡大が懸念されています。

 今後3日間は引き続き降雨が予想されており、とりわけ山沿いや東南部地域を中心に、さらなる雨量の増加が見込まれています。

 北京市内では25日朝、多くの市民がSNS上に「朝起きたら道路が水に浸かっていた」との動画を投稿。映像には、水が腰まで達し、人々が水をかき分けながら移動する様子や、道路上に放置された多数の水没車両が映し出されています。

 また、通州区の各地では広範囲での冠水が確認されており、「珠江逸景(じゅこういっけい)では朝には膝まで水が来ていた」「亦荘新城(えきそうしんじょう)では馬駒橋(ばくくばし)周辺で夜通し雨が降り続き、涼水河(りょうすいが)の水位が急上昇した。外出には十分注意してほしい」といった市民からの投稿も相次ぎました。

 被害は北京市だけにとどまらず、河北省にも広がっています。涿州市では7月25日時点で多くの道路が冠水し、場所によっては水深が1メートル以上に達し、車が次々と立ち往生している様子が映像で確認されました。

 CCTV(中国中央電視台)の報道によれば、24日午後から続く降雨により、25日9時時点で涿州市全体の平均降水量は137.2ミリ、最大では190.8ミリ(中国農業大学実験観測所)に達したとのことです。これにより市街地の広い範囲で深刻な浸水が発生し、冠雲橋(かんうんきょう)、鎮安寺橋(ちんあんじきょう)、華陽橋(かようきょう)などの主要な橋は通行不能に。さらに東興北街、甲秀路、南関大街といった幹線道路も交通が遮断されています。地元当局は現在、排水作業と被害対応を急いでいます。

 一方、河北省易県(えきけん)の台壇村(たいだんそん)では、洪水の影響により複数の住民が屋上に取り残される事態が発生。ある住民は、「真夜中に家の中に水が押し寄せる音で目が覚めた。起きたときには水位がすでに2メートルを超えていた」と語っています。本人は無事避難しましたが、村内では現在も救助活動が続いています。

 24日夜には易県当局が暴雨赤色警報を発令。尉都郷(いときょう)など多くの郷鎮では、1時間あたり80ミリを超える豪雨が記録され、地元政府関係者が現地入りし避難支援を行っているとのことです。

 こうした状況に対し、SNS上では「これは本当に自然災害なのか、それとも人災なのか?」といった声も上がり、「1時間で80ミリ?放水に違いない。すべて天候のせいにするのは無責任だ」とする批判的な意見も広がっています。

 さらに、「涿州の道路はまるで海のようだ。車が大量に沈んでいる」「今週末に河北に来るのはやめた方がいい」「義和荘大橋(ぎわそうおおはし)がまた壊れた。易水河(えきすいが)はすでに橋の高さに達している」などの投稿も見られ、地元の状況が深刻であることを物語っています。

 中国メディア「界面新聞」によると、河北省中北部の複数の市や県で今回の豪雨による被害が出ており、特に保定市易県では最大456.4ミリの降水が観測されたと報じています。涿州市では再び都市型の水害が発生し、ネット上では「終わった、また涿州が沈む」「歴史は繰り返される」といった悲鳴のような声が相次いでいます。

 実際、2023年7月にも北京や河北省では台風による豪雨が発生し、房山区や門頭溝区で山洪や土石流が発生。当時、当局は「北京と雄安を守るため」として涿州市で緊急放水を実施した結果、市全体が水没。水深は4〜5メートルに達し、60万人の住民のうち避難できたのはごくわずかでした。甚大な人的・物的被害が生じ、多くの住民が生活基盤を失いました。

 被災した住民たちは、「すべてを失った。残ったのは借金だけ」「生きている意味すら見出せない」と口々に語り、政府が当初約束した補償が実現していないことへの不満も広がりました。

 また、「北京と雄安を守るために涿州が犠牲にされた」「地元官僚が避難警報を出さなかったため被害が拡大した」といった非難の声も少なくありません。

 中国水利部の李国英(り・こくえい)部長は過去に「首都北京と大興空港の防災は絶対に確保する」「雄安新区の防洪を死守する」と発言しており、河北省党委員会書記の倪岳峰(げい・がくほう)も「北京の防災負担を軽減し、首都の『外堀』の役割を河北が果たす」と語っていました。これらの発言は今なお、河北省民の間に不信と怒りを呼び起こしています。

(翻訳・吉原木子)