7月下旬、上海ではセミの異常発生が大きな話題となっています。街路樹や住宅地の木々には無数のセミが群がり、昼夜を問わず響き渡る鳴き声に住民の苦情が相次いでいます。「夜、眠れない」「頭の上に何かがポタポタ落ちてくる」といった声がSNS上に溢れ、都市生活に新たなストレスをもたらしています。

 中国の動画共有アプリ「抖音(ドウイン)」には、セミが幹や枝にびっしりととまり、そこから排泄されるしずくがまるで小雨のように降り注ぐ様子が次々と投稿されています。ある利用者は「最初は木の露だと思って舐めたが、後からセミの排泄物だと知って愕然とした」と語り、ネット上で笑いと同情を集めました。

 鳴き声の騒音被害も深刻です。特に上海市浦東新区の住民からは「毎朝4〜5時にはセミの声で目が覚める」「帰宅すると360度からセミの声に囲まれ、頭が痛くなる」といった声が寄せられています。一方で、緑が少ないエリアや高層階に住む人々は「あまり気にならない」とするなど、地域によって感じ方には差があるようです。

 専門家によると、今年のこの異常発生は「セミの当たり年」によるものと見られています。中国・煙台市の報道によれば、複数の種類のセミが一斉に羽化する周期が偶然重なり、通常よりも多くの個体が出現したといいます。13年や17年周期で大量羽化するセミの存在は、アメリカや日本でも知られており、過去にも類似の現象が報告されています。

 江蘇省中医薬研究院の研究者によると、セミは植物の樹液を吸いながら頻繁に排泄を行っており、1分あたり3〜6回のペースでしずくを放出することもあるとのことです。排泄物の主成分は水分で、微量の糖分やミネラルを含むものの、人体に大きな害はないとされています。

 そんな中、ネット上では「セミを食べよう」というユーモア交じりの提案も目立ち始めました。「南京の屋台が待ちきれない」「徐州から捕獲部隊を送り込もう」といった冗談めいた投稿が相次ぎ、中国の一部で根付く「昆虫食文化」にも注目が集まっています。

 実際、中国の東北地方や中部の農村部では、セミの幼虫を油で揚げて食べる風習が古くからあり、今でも家庭料理や屋台で見かけることがあります。セミは高タンパク・低脂肪で、100グラムあたり71.4グラムのタンパク質を含むとされ、「天然のプロテイン源」としても知られています。また、セミの抜け殻(蝉退)は漢方薬としても利用され、咳止めや喉の炎症、発疹などに効くとされています。

 とはいえ、都市部で捕獲されたセミについては注意が必要です。上海に多く生息する「クロアブラゼミ」は味に癖があり、また道路沿いの樹木で多く見られることから、大気中の重金属や農薬の影響が懸念されています。専門家は「衛生面を考慮し、都市部での食用は避けるべき」と警告しています。

 こうした“セミ食文化”は、時として国際的な摩擦を生むこともあります。特に2023年の夏、日本のSNSやメディアでは、中国人観光客が東京の公園で大量のセミの幼虫を捕まえ、持ち帰ろうとする様子が報じられ、波紋を呼びました。

 日本ではセミは夏の象徴として広く親しまれており、子どもたちが自然と触れ合いながら命の大切さを学ぶ教材としても位置づけられています。「セミは夏の先生であって、食べるものではない」という価値観が根強く、セミを捕まえる行為自体に違和感を覚える人も少なくありません。

 このため、東京都内をはじめとする各地の公園では、日本語・中国語・英語の三言語で「セミの捕獲禁止」を呼びかける看板が設置され、自然保護やマナーの面からも無断での採集は慎むよう注意喚起が行われています。

 一方、上海市ではこの「セミ騒動」への具体的な行政対応は取られておらず、市の緑化管理局や生態環境局は「自然現象であり、対応の対象外」として静観の姿勢を崩していません。市民からは「せめて夜間の騒音対策を考えてほしい」といった声も上がっているものの、いまだ有効な対策は示されていません。

 都市と自然が共存する現代社会において、今回のセミ大量発生は、便利さを追い求める都市生活と、そこに根付く生態系とのバランスをあらためて考えさせられる出来事となっています。

(翻訳・吉原木子)