近年、中国経済は地方財政の逼迫と消費回復の鈍化という大きな課題に直面しており、中国当局は内需を刺激するために一連の政策を打ち出しています。かつての「緊縮財政」から、現在は「買い替え促進(以旧換新)」政策を強く推進し、財政支出を拡大していますが、国民からは「お金がなくて消費できない」との声が相次いでいます。

中央の投入倍増 国債資金が直接市場へ

 人民網の6月8日の報道によると、今年の中央財政は「超長期特別国債」として3000億元(約6.6兆円)を手当てし、消費財の買い替えを支援する方針で、これは前年の1500億元(約3.3兆円)から倍増となります。

 中国商務部のデータによれば、5月31日までに買い替え対象の五つのカテゴリーで約1.1兆元(約24兆円)の売上が喚起され、補助金の申請件数は約1億7500万件に上りました。国家発展改革委員会の李春臨(り・しゅんりん)副主任は、今年第1回分として810億元(約1.78兆円)の国債資金が1月に地方へ配分されたと説明し、その成果が徐々に現れていると語りました。今年最初の2か月間で、新エネルギー乗用車の販売台数は26%増、家電の省エネモデルの売上は36%増、6000元(約13万円)以下のスマートフォンの週平均販売台数と販売額はそれぞれ19%、29%増となりました。

 中国社会科学院財経戦略研究院財政研究室の主任研究員・何代欣(か・だいきん)氏は、次のように述べています。「従来の補助金とは異なり、今回の買い替え政策は地方に直接資金を配分する方式を採用しており、地方の裁量がより発揮される。これにより『現金』による優遇が消費者に直接届くことで、政策と国民との距離が縮まるという利点がある」

補助金枯渇で各地が一時停止 短期的な財源不足も浮き彫りに

 しかし、中国のECセール「6・18」を目前に控え、多くの地域で補助金が既に枯渇し、一部地域では補助券の発行を一時停止または制限する措置が取られました。

 澎湃新聞(ほうはいしんぶん)や早報(ざおばお)など複数のメディアによると、重慶市では家電買い替えに対する補助金が6月初旬で停止されました。これは事前に配分されていた12億元(約260億円)の「国補(国からの補助金)」がすでに全て使用されたためです。重慶市商務委員会の職員や市のホットラインも「新たな通達や政策を待っている」と認めており、第2弾は6月上旬に開始される見通しです。

 一方、江蘇省でもオンライン・オフラインの両方でシステムのアップグレードと配布制限が始まり、補助コードや割引券の配布は一時停止されています。年末まで活動は続けられる予定です。また、広東省の広州市や仏山市(ぶっさん)など一部地域では、スマート家電向けの補助金も一時的に停止されています。

 専門家は、これは第一弾の国補資金の使用スピードが早すぎたことによるものであると指摘しています。一部の調査機関の試算によると、5月末時点で全国家電補助は約1500億元(約3.3兆円)が消化され、さらに「6・18」セールイベントで約500億元(約1.1兆円)が追加消費され、年内総額3000億元の約70%が既に使われたとみられています。

 一時的な中断はあったものの、業界関係者の間では、補助金の数量制限は供給と需要のペースを調整するための措置と見られており、第2・第3弾の資金はすでに準備が進んでおり、制度そのものが中止されるわけではないとしています。

腐敗体質の政権では、政策が実を結ばない

 しかし、補助金の急増とは対照的に、地方政府の財政状況は依然として厳しいままです。不動産規制や土地売却収入の減少によって、「土地財政」の基盤が崩れ、多くの地方政府が維持費やインフラ整備費に苦しんでいます。国民の間では「補助金が市場に投入されたはずなのに、その恩恵が一般消費者に届いていない」との不満が上がっています。

 四川省在住の陸(りく)さんはこう語ります。「いま地方の財政は本当に苦しい。土地を売って得る収入は激減し、治安維持やインフラ投資に使う支出は増えている。お金が銀行に入っても、最終的には各種の公共工事や建設名目で、中央企業や国有企業、あるいは権力者の親族が設立した企業に流れていく。だからどれだけ紙幣を刷っても、市場で流通しない。お金は一部の人に集中していて、国外に流れていくケースもある。それが物価が上がらず、デフレになっている原因である。中国共産党(中共)の政策は、すべて権力に近い人々が抜け道を見つけて利益を得るようになっている。今回の『国補』も、そうした癒着による補助金詐取が起きる可能性がある。つまり、メーカーが正規の手続きで補助を受けられなかったり、庶民が買い物をしてもほんのわずかしか補助を受け取れなかったりする。その結果、実際の消費は発生していないのに、国からの補助金はすでに支払われて、権力者の懐に入っている。中共という組織そのものが腐敗の集合体なのである」

国民「お金がない」 中古市場が活況

 消費者側の実感としては、「補助金はあっても消費を促す力にはならない」という声が多く、中国社会が直面する経済的な重圧がむしろ浮き彫りになっています。

 陸さんは「中共が政策をどれだけ出しても、目的は結局、庶民にお金を使わせること。でも肝心の庶民にお金がないのに、どうやって消費しろというのか」と述べました。

 安徽省合肥市在住の李強(り・きょう)さんは次のように語りました。「6・18の消費セールって、結局は若者を惑わせるためのもの。手元にお金がなくても、ネットで借金して買い物する若者もいる。家庭に余裕がある人は親が返済してあげるけど、うちの近所では、新婚夫婦が結婚で買った家を担保にして借金返済していた。この数年、住宅ローンや自動車ローン、子どものミルク代まで、本当にお金がかかる時代になって、しかもいまは失業者も増えている。医療費も高くて払えない。庶民が何年もかけて貯めたお金は、すでに底を突いている。住宅ローン1つで何世代分の財布を空っぽにしてしまった。だから今さらどんな刺激策を打っても、大した意味はない」

 河南省鄭州の楊さんも、買い替え促進策が実際の消費行動に与える影響は限定的だと指摘します。「今の中国経済は本当に厳しい。だから中古市場がすごく活発になっていて、私は『咸魚(シエンユー)』や『転転(ジュアンジュアン)』という中古品プラットフォームをよく使っている。以前、オフィス用に買った洗濯機や小型冷蔵庫、スマホなんかも全部そこで買った。中古と言っても、新品同様って書かれている商品が多くて、実際には未開封のものまである。たぶん新品としては売れず、二次流通に回されたじゃないかな。政府が買い替え促進を進めても、庶民がそれに乗るかは別問題」

 総じてみれば、現在の買い替え促進政策は、財政投入が大規模で、量的根拠に基づいた設計がなされ、初期の成果も見られています。しかし、実施段階では、補助金の早期消化や地方財政の逼迫、そして国民の消費意欲の弱さといった問題が顕在化しています。

 今後、最も重要なのは「次の資金が速やかに配分されるか」「本当に必要な人に届くか」「消費者がまだ開放していない購買力に火を付けられるか」という三つの点です。形式的な政策ではなく、実効性のある支援こそが、今の中国経済に求められているのです。

(翻訳・藍彧)