中国政治に関する鋭い分析で知られる法学者、袁紅氷(えん・こうひょう)氏は7月22日、東京都内で講演を行った。中国共産党の本質を鋭く批判し、「中国共産党と決別しなければ、民主化は成功しない」と訴えた。対中強硬のトランプ政権が再登板した今、中国の未来を左右する重大な局面にあると分析した。

 袁氏は北京大学出身の法学者で、かつて同大学で教鞭を執った。習近平とも若き日に交流があったが、毛沢東思想に染まった習近平を毛嫌いしていたという。1989年の天安門事件以降、中国共産党による弾圧を受け、2004年にオーストラリアに亡命した。

講演中の袁紅氷氏(撮影・唐木 衛/看中国)

 講演ではまず、中国共産党が長年政権を維持してきた背景について、西側諸国の金融資本と政治家による継続的な支援があったと指摘した。西側の左派政治家は「経済が発展すれば中国も民主化する」という誤った認識のもと、中国共産党に対して宥和政策を取り、人権侵害に目を瞑ってきた。袁紅氷氏はこれを「悪魔の同盟」と呼び、国際金融資本が中国の安い労働力を搾取し、暴利を貪っていると批判した。

 さらに、中国の民主化運動が失敗する原因について、「最大の誤りは、共産党に改革を求めたことだ」と語った。1989年の天安門事件では、学生や市民らは自由と民主主義を求めたが、それは、中国共産党の統治を前提とした構想だった。「それが間違いだった。中共は人々の声を聞くはずがない。請願者たちを出迎えたのは、戦車のキャタピラーだ」。

 「変革を共産党に期待する限り、真の民主化はあり得ない」。そう語る袁氏は、弾圧を受ける中国人には「尊厳と自由を守るために抵抗する権利がある」と強調した。アメリカ独立戦争を例に挙げ、「自由のための抵抗は普遍的な権利であり、正当な行為だ」と述べた。

 袁紅氷氏は、トランプ政権下の米国と中国共産党の地政学的対立は「歴史的な必然」だと語った。袁紅氷氏によれば、習近平は文化大革命の影響を強く受けており、全世界を共産主義の支配下に置くことを念頭に行動してきた。国際マナーを無視する「戦狼外交」や、既存の国際秩序を変えようとする行動は、まさにその現れだという。一方、米国の国際的地位を高めようとするトランプ政権にとって、中国共産党の存在は最大の脅威であり、「アメリカ・ファースト」実現を阻む最大の邪魔者だと袁紅氷氏は語った。

 「トランプ政権の再登場は、中国民主化にとって千載一遇の好機だ」と袁紅氷氏は語った。中国共産党を抑え込む国際政治の力学が働くなか、中国国内の自由を求める声が今まで以上に重視されるだろうとの分析を示した。

 袁紅氷氏は、台湾を「中華圏における唯一の自由と民主の砦」と位置づけ、故・安倍晋三元首相の「台湾有事は日本有事」との発言が持つ重みを強調した。そのうえで、中国共産党が第一列島線を突破すれば、日本の海上輸送路(シーレーン)が重大な脅威にさらされ、日本の自由と民主主義そのものが深刻な危機に直面することになると警鐘を鳴らした。

 講演後の質疑応答では、参院選に話題が及んだ。袁紅氷氏は、一部の日本の政治家が「中国人」と「中国共産党」を同一視している点について、「それは概念上の誤りであり、戦略的にも賢明ではない」と指摘した。中国共産党の支配下では反日・反米が強制されているが、自由を求めて海外移住を望む中国人が年々増加していることからもわかる通り、大多数の中国人は真の自由と平等を求めていると強調した。

 「アメリカは自由の灯台、日本はアジアの高嶺の花だ」と袁紅氷氏は強調した。中国人にとって、日本や米国、欧州に住むことができれば、少なくとも最低限の自由と尊厳を保つことができる。しかし、中国本土において、それは夢のまた夢だ。

(報道・唐木 衛、黎宜明;撮影・唐木 衛)