2025年7月現在、中国では観測史上まれに見る極端な高温が続いており、華中から華南の広範囲にかけて連日気温が40度を超える異常事態となっています。一部地域では地表温度が80度を超えたとの報告もあり、人々の生活、農業、インフラに深刻な影響が広がっています。
ネット上では「まるで地獄のようだ」「終末を迎えたかのようだ」といった声が相次いで投稿され、多くの市民が命の危険を感じながら生活しています。特に注目を集めたのは、河南省のある住民が投稿した動画です。動画では、自宅でエアコンを使用していたにもかかわらず蚊の羽音が聞こえ、翌朝になると床一面に蚊の死骸が積もっていた様子が映し出されていました。他の地域の住民からも「最近は夜になっても蚊の音がまったくしない」という証言が寄せられています。
専門家によりますと、蚊は変温動物であり、外気温の上昇によって代謝が急激に活発化し、体表の水分が蒸発しやすくなるそうです。水分補給が間に合わないと脱水症状を引き起こし、最終的には体内のたんぱく質が変性し、死に至るとされています。特に気温が45度を超える環境では、数時間で大量死する可能性があるとのことです。この異常現象に対して、「蚊が死ぬなんて今年一番うれしいニュースだ」と冗談を交えたコメントも見られましたが、「蚊すら生きられないなら人間はどうなるのか」と不安を吐露する声も多く見受けられました。
高温は農業にも深刻な被害をもたらしています。河南省鄭州市鞏義では7月15日に気温が44.2度を記録し、省内94か所の観測所で40度超えを確認しました。地表温度は83度を超え、焦作市では85度に達したとの報告もあります。住民の中には、「家のガラス窓が熱で割れた」「道路が膨張してひび割れが生じた」と話す人もおり、インフラにも支障が出ています。
さらに、水道管の破裂が相次いで報告されており、3〜4メートルの高さまで水が吹き出す様子が撮影された地域もあります。その結果、周辺の住宅では断水が発生し、「シャワーを浴びようとしたのに水が出なかった」といった不満の声が広がっています。信陽市の水道当局は「高温が原因と見られる突発的な事故の可能性が高い」との見解を示しています。
農村では、生活様式の見直しを余儀なくされており、信陽市の高さんは「日中は暑すぎて農作業ができないため、夜7時以降に畑へ行くようにしている」と語っています。実際、日中に作業をしていた人が倒れて死亡したケースも確認されており、「まるでサウナの中にいるような暑さで、汗が滝のように流れ、呼吸さえ苦しい」「家の前の川は干上がり、菜園も水不足で壊滅状態だ」と深刻な状況を訴えています。
安徽省や山東省でも干ばつによる作物の枯死が相次いでおり、農民が畑で泣き崩れる動画が拡散され、大きな反響を呼んでいます。あるブロガーは「高温で井戸の水も枯れ、飲み水すら確保できない。40度の中で2日間風呂にも入れなかった」と苦しい現状を報告しています。
都市部でもインフラの破綻が広がっています。西安市の住宅街では停電が発生し、多くの住民がエレベーターに閉じ込められる事故が起きました。重慶や湖北では「夜になっても暑すぎて眠れない」といった声が多く、「卵を茹でるのに火はいらない」と自嘲気味に語る市民もいます。
公共交通機関にも影響が及んでおり、7月17日には深圳発西安行きのK1348列車が機関車の故障で立ち往生し、空調が停止した車内で乗客が40度近い高温に閉じ込められる事態が発生しました。耐えきれなくなった一部の乗客が窓を破って脱出を試みる騒ぎもありました。同様のトラブルは今月に入って3件目で、以前浙江省で乗客が窓ガラスを割って脱出した際には、中国の国営メディアがその行為を厳しく批判していました。
SNS上では、AIチャットボット「豆包」に「このような状況で窓を割っても良いのか」と尋ねたところ、「省委書記が乗っていれば可能」と回答されたとの投稿が拡散され、世論の怒りを買いました。また、「豚には消防士が水をかけて冷やすのに、人間は見捨てられるのか」「中国人の命は省委書記どころか豚以下なのか」といった皮肉のコメントも広がっています。
熱射病による死者も各地で増加しています。江蘇省では、14歳の少年が42度の炎天下で外出中に倒れ、応急処置もむなしく多臓器不全で亡くなりました。医師は「熱射病は熱中症の中でも最も重篤なタイプで、致死率が非常に高い」と警告しています。河南省信陽市では37歳の宅配員が死亡し、江蘇省蘇州市ではエアコンを使わなかった高齢夫婦が命を落とし、杭州でも若い母親が熱射病で亡くなりました。
山東青島大学では管理員が突然倒れ死亡し、重慶では建設現場の労働者が2時間の作業後に昏倒し、体温は42.3度に達していたと報告されています。現場の医師は「内臓が煮えたような状態だった」と述べています。
山東省のある医師は「わずか数日で救急内科に20人が搬送され、そのうち17人が熱射病だった」とSNSに投稿しており、一般のネットユーザーからも「村で1日に3人が亡くなった」「葬儀場が満員になっている」「私の義父も熱射病で亡くなった」といった悲痛な声が数多く寄せられています。
7月13日には四川省彭州市で35歳の宅配員が車内で倒れているのが発見され、搬送時にはすでに心停止状態でした。9分間の心肺蘇生によって心拍は回復しましたが、多臓器不全が進行しており、現在も血液浄化治療が続けられています。
長沙市でも高齢者の熱中症事例が目立っており、7月11日には昼寝中の高齢女性が5時間後に呼吸停止の状態で発見され、体温は42度を超えていたとのことです。医師によれば、救急センターで受け入れる熱中症患者の約7割が高齢者で、自宅で症状に耐えながら病院に行けない人も多いとされています。
しかし、このような事態にもかかわらず、中国の公式メディアは熱中症による死者数や被害状況をほとんど報道しておらず、SNS上の関連情報も次々と削除されています。実際の死者数や被災状況は明らかにされておらず、人々は情報の遮断に不安を募らせています。現在、中国全土を覆うこの異常な高温は、単なる気象現象を超えて、生存をかけた過酷な試練となっています。
(翻訳・吉原木子)
