7月20日、非常に強い勢力を持つ台風6号が中国南部沿岸を直撃し、広東省、海南省、香港、マカオなどの広範囲にわたって甚大な影響をもたらしました。特に香港では、早朝から猛烈な風と雨に襲われ、市民生活は一時的に完全に麻痺しました。

 香港天文台は午前9時20分、現地で最も高い台風警報レベルにあたる「シグナル10(十号風球)」を発令しました。これは2023年9月1日、台風「ソーラ」以来の発令であり、住民にとっては約1年ぶりの最大級警戒となります。シグナル10は香港独自の警報システムで、最大風速が時速118キロ(秒速32.7メートル)以上になると発令され、市民はすべての屋外活動を中止し、屋内に避難するよう強く求められます。

 実際にこの日、風速は最大で時速118キロに達し、街中では倒木や看板の落下、窓ガラスの破損などが相次ぎました。特に注目を集めたのは、三階建ての観光船「海龍明珠号」が強風に煽られて漂流し、香港島の西営盤にある招商局埠頭に衝突した事故です。事故は午前10時6分ごろ発生し、現場映像には、白波立つ海上で船体が埠頭に勢いよくぶつかる様子が映し出され、衝撃音とともに埠頭の構造物の一部が破損しました。幸いなことに、この事故によるけが人は確認されていませんが、ネット上では「まるでバンパーカーのようだ」と揶揄するコメントが相次ぎました。

 ビクトリア・ハーバー周辺では、風と高波により歩行者が立ち止まってしまうほどの強風が吹き荒れ、街路樹がなぎ倒され、道路は折れた枝や瓦礫で埋め尽くされました。屋外に置かれていた物品や屋台なども吹き飛ばされ、街はまるでゴーストタウンのように人の気配が消えました。

 香港病院管理局によると、午前10時までに2人の男性が台風関連の事故で負傷し、公立病院の救急外来を受診したとのことです。また、香港特別行政区政府のホットライン「1823」には13件の倒木報告が、消防署には72件の通報が寄せられており、被害の広がりがうかがえます。

 SNSでは「台風生存マニュアル」が急速に拡散され、「カップ麺、懐中電灯、モバイルバッテリーは必須」「冷蔵庫はなるべく開けるな」などのサバイバル知識が飛び交い、多くの市民が自己防衛に奔走しました。香港教育局は20日の全学校を休校とし、フェリーやバス、鉄道の多くが運休。香港国際空港では500便以上が欠航となり、約8万人の旅行者に影響が及びました。MTR(香港地下鉄)では露天区間が停止し、空港エクスプレスや軽鉄、ディズニー線、MTRバスも相次いで運行を見合わせる事態に陥りました。

 さらに、香港と中国本土を結ぶ高速鉄道も大きく混乱し、広深港高鉄、杭深線、京広高鉄などで複数の便が運休または徐行運転となりました。香港天文台は、シグナル10を午後4時ごろまで維持する見通しを示し、その後も状況次第で段階的に警戒レベルを下げると発表しました。

 台風6号の影響は香港にとどまらず、広東省、海南省にも広がっています。中国中央気象台の発表によれば、20日午前5時、台風は広東省珠海市の南東約190キロの海上に位置し、中心付近の最大風速は秒速33メートル、中心気圧は975ヘクトパスカル。直径250〜300キロにわたって7級以上の強風域が広がり、10級以上の暴風域は60〜80キロの範囲に及んでいました。

 午前6時には中国政府が「オレンジ色警報」を継続発令。これは中国の気象警報システムにおいて上から2番目に危険度が高いもので、今後さらなる被害拡大の恐れがあるとされています。この影響で、広東省・海南省の複数の鉄道路線が運休に追い込まれました。広州鉄路局は、広珠都市間鉄道を20日11時から21日9時まで運休すると発表し、海南環島西環高鉄も20日0時から21日19時まで運休。広東〜香港間の高速鉄道も部分的に停止しています。

 また、海南島と中国本土を結ぶ琼州海峡では、19日夜21時30分以降すべての旅客船が運休。再開の目途は立っておらず、少なくとも2〜3日間は運行不能が続くとみられています。港珠澳大橋も20日午前2時30分以降、珠海側の出境ゲートを封鎖し、午前3時30分には主桁が完全閉鎖。これにより、人や車の往来は全面的に停止しました。黄茅海跨海通道などの主要道路も同時に通行止めとなり、再開は今後の天候状況に依存すると発表されています。

 広東省当局は、台風への備えとして19日午後9時時点で、海上の1万2千人以上、陸上では26万人以上、合計27万8千人超を安全な場所へ避難させたと報告。台風の勢力拡大に伴い、20日午前3時には防災対応レベルを最高レベルの「台風Ⅰ級」に引き上げました。珠海市や陽江市では、学校、企業、工場、交通、商業施設のすべてを停止する「五つの停止措置」を導入。深圳市でも19日18時以降、すべての公園を閉鎖し、避難所が全面的に開放されています。

 さらに、広西チワン族自治区でも19日正午に防台風レベルをⅣ級からⅢ級へ引き上げ、海南省も午後3時30分に防汛・防風Ⅳ級を発動。19日から22日にかけて、海南島全域での強風と豪雨が予測されており、土砂災害や洪水のリスクが高まっています。

 一方、マカオでも20日の全日を通して、香港・深圳・中山・珠海方面とのフェリー航路がすべて運休。マカオ航空も当日発着予定だった70便以上をキャンセルするなど、交通インフラが大きな打撃を受けました。

 台風6号は単なる自然災害にとどまらず、南中国における都市の防災対応能力やインフラの脆弱性、そして住民の危機管理意識を試す試練となっています。各地では引き続き、非常事態に備えた対応が求められています。

(翻訳・吉原木子)