6月末、イトーヨーカ堂成都(せいと)店が営業を終了しました。7月1日には、上汽フォルクスワーゲン南京工場が正式に閉鎖され、深セン市にある中順(ちゅうじゅん)半導体も7月2日から2カ月の操業停止を発表しました。
一連の工場閉鎖や店舗閉店の動きは、現在の中国が抱える「内需の低迷」「製造業の過剰生産能力」「外資離れ」という深刻な経済問題を如実に反映しています。
イトーヨーカ堂、中国市場からの全面撤退を検討中
成都市のイトーヨーカ堂金融城店は6月30日に正式閉店となりました。最終日、従業員たちはお辞儀をしながら来店客を見送り、「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」と声をかけました。この光景はSNS上で広く拡散されました。
イトーヨーカ堂はかつて、中国都市部の百貨店小売業のベンチマークとされており、先進的な経営理念、きめ細かな運営管理、高品質な商品によって、多くの消費者に愛されてきました。特に生鮮食品の取扱いでは、中国のスーパーマーケット業界における最高水準とも言われていました。
しかし近年は、北京や成都の店舗数が次々と減少しています。中国での第一号店である成都春熙(しゅんき)店は、2022年末に賃貸契約の終了により閉店を余儀なくされました。北京の店舗数もピーク時の11店舗から1店舗に減少しています。
関係者によれば、イトーヨーカ堂はすでに中国における管理チームを大幅に削減しており、現在は中国市場からの全面撤退を真剣に検討しているとのことです。
成都市民の彭佳(ほう・か)さんは次のように語りました。
「コロナ以降、みんなの購買力は明らかに下がった。また、アメリカの対中制裁が強まり、多くの外資系企業が次々と撤退していった。人々の消費意欲はますます保守的になり、オンラインショッピングに切り替える人が増えている。実店舗は本当に維持できなくなっている」
上汽フォルクスワーゲン南京工場、人影まばらに
「どうやってお別れすればいいのか。最初に会ったときのように。もうあなたには会えないと思うと、本当に名残惜しい。やっぱり寂しい。とても寂しい」
7月1日、上汽フォルクスワーゲン南京工場が正式に閉鎖されました。
上汽フォルクスワーゲンは、上海汽車工業集団とドイツのフォルクスワーゲンによる合弁企業で、設立からすでに40年以上が経過しています。本社は上海の安亭鎮(あんていちん)にあります。
南京工場は年間36万台の生産能力を誇り、かつてはパサートやシュコダ・スーパーブといった人気車種の重要な生産拠点でした。全盛期には3000人を超える雇用を支えていましたが、現在は工場内に人影もなく、閑散としています。
同工場の退職者である何(か)さんは、「大紀元」の取材に対し次のように話しました。
「外資系企業は、給与や福利厚生の良さで知られてきた。うちの息子もこの南京工場で何年も働いてきた。実は去年から、工場閉鎖の話はすでに出ていた。息子は十数年この仕事を頑張ってきたけど、いまの経済状況ではどうしようもない。自動車業界の競争も厳しくて、上汽としても事業縮小でなんとか生き残るしかないだろう」
また、江蘇省の自動車販売員である鐘(しょう)さんは次のように語りました。
「南京工場の閉鎖は始まりにすぎない。今は電気自動車の性能がますます向上し、価格も安い。ガソリン車の市場は縮小の一途で、倉庫には売れ残ったガソリン車が山積みな状況だ。合弁ブランドは、中国の新興EVメーカーに生存空間を奪われつつある」
「中国原産」なら越境輸出でも関税対象に
自動車業界に限らず、中国の電子機器製造業もかつてない困難に直面しています。
7月1日、2019年に設立された深セン中順半導体照明有限公司が実質的に倒産状態に陥り、「休業通知」を発表しました。通知では、「現在、会社は一時的な経営困難により業務の継続が困難となったため、7月2日より2カ月間の操業停止を決定した。再開時期および詳細は後日改めて通知する」としています。
ネット上の情報によると、通知発表後、一部従業員が工場内に集まり抗議行動を起こしました。従業員らは「突然の休業通知」「基本給の未払い」に対して強く反発しており、ある従業員は「これは休暇なんかじゃない。実質的には自発的な退職を強いられているだけだ」と訴えました。
照明業界に携わる陳(ちん)さんは大紀元に対し、次のように語りました。
「中順のケースは、照明器具製造の中心地である中山市(ちゅうざんし)地域とよく似ており、欧米からの注文が大幅に減ったことが直接の原因である。仮にベトナムなどを経由してアメリカに再輸出しようとしても、アメリカ側が『実質的加工がない』と認定すれば、中国原産と見なされ、懲罰的関税を課されるリスクがある。企業にとって、それは到底耐えられるものではない。今後も操業停止や倒産に追い込まれる企業が増えるだろう」
キヤノンが中国従業員に手厚い退職金
2022年1月、キヤノンは中国・珠海市(しゅかいし)で32年間にわたって運営してきた工場を閉鎖しました。
日本政府は、コロナ禍や経済低迷の影響を受けて「製造業の国内回帰支援策」を打ち出しており、設備移転について中小企業には費用の半額、大企業には3分の1の補助金を提供しています。また、カメラ事業はスマートフォンの普及により市場が縮小しており、工場閉鎖はやむを得ない選択でもありました。
注目を集めたのは、キヤノンによる離職補償です。
中国の「労働契約法」では、勤続年数の計算上限を12年と定めていますが、キヤノンはそれを超えて補償を提示しました。例えば、月給が2万元(約44万円)で、勤続年数が20年の従業員には「21 × 2万元で42万元(約924万円)」の基本補償を支給されました。さらに特別慰労金や就業支援金、旧正月に向けた慰問金も支払われたのです。
これは、中国企業の「午前に解雇を通知し、午後にはすべての福利厚生を打ち切る」といった対応とは対照的でした。キヤノンの対応は、他の民間企業と比べても際立って寛大であり、国有企業や中央企業でもここまでの補償は見られません。
しかし、これに対して一部からは、キヤノンのやり方は「悪意ある補償」であり、中国国内の労使間の安定した関係を乱すもので、外資の罠には警戒が必要だといった反発の声も上がりました。
ただし実際のところ、キヤノンの対応は日本企業の伝統的文化に則ったものであり、日本国内での基準に倣っているに過ぎません。
大卒1200万人+失業者 過去最大の就職難に
2025年、中国では新卒大学生が1200万人を超える見込みであり、加えて大量の工場労働者が失業していることで、就職市場はかつてないほど逼迫しています。
広東省の対外貿易商会の責任者、仮名「洪湘(こう・しょう)」を名乗る人物は、大紀元の取材に次のように述べました。
「現場の労働者が失業した後、職業転換の能力が低く、再教育の機会も乏しい。これが中国経済の構造的な問題となっている。低価格帯の半導体、照明、LED、電子玩具といった業種は、中国市場から静かに姿を消しつつある」
企業の大量倒産、外資の撤退、若年層の就職難に直面している現状について、洪湘さんは「2025年の『閉鎖ラッシュ』は、恐らくほんの始まりに過ぎないのである」と述べました。
(翻訳・藍彧)
