浙江省杭州市の余杭区で、水道水から強烈な異臭がするという問題が発生し、地元住民の間で大きな波紋を広げています。発端は7月16日、良渚(りょうしょ)街道や仁和(じんわ)街道を含む複数の住宅地で、住民たちがSNSを通じて「水道水が黄色く濁っている」「明らかに変なにおいがする」と次々に報告したことからでした。最初は個人のつぶやきとして受け取られていたものの、その後の投稿数の急増と、現場で実際に体験した住民の証言が相次いだことで、地域一帯の異常事態として広く認識されるようになりました。
「グループチャットで『水が臭い』と話題になっていて、自宅の蛇口をひねった瞬間、まるで下水のような強烈なにおいが立ち込めたんです。耐えられないほどで、飲料どころか、顔を洗うのも怖くなりました」。そう語るのは良渚エリアに住む呉(ご)さんです。その晩、地域の多くのコンビニではペットボトルの水が一気に売り切れ、水を求める住民が列をなしたといいます。
別の住民、李(り)さん(仮名)は、「午後5時半にマンションの管理会社から『水道水は絶対に飲まないでください』という通知が来ました」と証言します。さらに「試しに水を沸かしてみましたが、熱しても臭いはまったく消えませんでした。夜9時過ぎに水を買いに出かけたのですが、近隣の店はすべて売り切れでした」と話しました。
このような混乱を受け、余杭区の水務グループは同日21時44分に公式WeChatアカウントを通じて対応状況を発表。「仁和・良渚地区の一部で水道水に異臭が確認されたため、直ちに水源を切り替え、管路の洗浄作業を開始した」と説明しました。水質は同日の午後1時半に回復し、午後4時半には主要な供給ルートの復旧も完了。ただし、末端の管路には古い水が残っている可能性があるとして、「使用前に十分な排水を行ってください」との注意喚起も添えられました。排出分の水道料金については免除するとしています。
ところが、その夜、事態はさらに混迷を深めます。SNS上に出回った「警情通報(警察通報文書)」には、「水道局の幹部・劉某が上司への不満から報復目的で市内13か所の給水管を下水管と意図的に接続した」と記されていました。この内容は瞬く間に拡散され、「まさかそんなことが?」と驚く声とともに、住民の不安を一気に加速させました。
杭州市公安局はこの情報をすぐさま否定し、「これは完全なデマであり、事実ではありません」と声明を発表。情報の拡散に警戒するよう呼びかけましたが、住民の間では疑念が残ったままでした。
翌17日、水務グループは再度の声明を発表。「すでに全域の管路および二次供水施設の洗浄を完了しており、水質は安全な状態に戻っています」と強調しました。さらに、不安を抱える市民への対応として、7月分の水道料金を各世帯あたり最大5トン分減免することを決定したと発表。これにより、一定の安心感を与えようとした形ですが、依然として納得しきれない市民の声は少なくありません。
そして19日、余杭区政府はさらなる詳細を公表します。国家および省レベルの専門家チームによる調査結果として、「特定の自然気候条件下において、藻類が酸素のない環境で嫌気性分解を起こし、硫化エーテル類という化学物質を発生させたことが主な原因と考えられる」と説明しました。「原因の最終特定は継続中であり、今後の調査結果を公表する」としています。
さらに政府は、「『糞水が混入した』といったネット上の誤情報については、すでに警察が法に基づいて対処しており、これらのデマを信じたり、拡散したりしないよう強く呼びかけます」と付け加えました。
しかし、「自然原因による現象」という説明には、多くのネットユーザーが懐疑的な目を向けています。SNSでは、「また藻類か?」「同じようなことが以前にもあったのではないか?」という意見が数多く投稿されています。
特に注目されたのが、2007年に江蘇省無錫市で発生した「太湖ブルーグリーンアルジー事件」です。これは、太湖の水源が大量の藍藻に汚染され、水道水に強烈な異臭が混入した実際の事件で、当時は「水が下水臭い」「油っぽい」といった苦情が殺到。市民の間で飲料水の買い占めが起きるなど、大きな社会問題へと発展しました。最終的には水源の切り替えや浄化作業が急がれましたが、根本には「水質管理体制の甘さ」や「行政の対応の遅れ」があったとされ、多くの批判を浴びました。
それだけに、「杭州でもまた同じようなことが起きているのではないか」「行政は十分に教訓を活かしていないのでは」といった声が出るのは当然の流れとも言えます。
さらにSNS上では、ユーザーがAI「Grok」に問い合わせた内容を紹介する投稿も話題となりました。Grokの回答によれば、「硫化エーテル類は藻類だけでなく、家畜の排泄物や食品廃棄物、下水汚泥などの有機廃棄物の嫌気性発酵によっても発生することがある」とされています。この情報が真実であるならば、「自然由来」とする行政の説明は説得力を欠き、かえって不信感を深める結果となっているようです。
一方で、問題に関する関連動画や投稿が次々と削除されているとの報告も複数寄せられており、「情報封鎖が行われているのではないか」と懸念する声も上がっています。「市民の不安に寄り添わず、上から情報を抑え込もうとしているのでは?」という批判も強まっています。
ネット上では、「藻類に責任を押し付けるな」「水をそのまま供給していたということは、ろくに検査もしていなかったという証拠では?」といった強い批判が噴出。「こうした時こそ、正確で誠実な情報公開が必要だ」「誰が責任を取るのかを明確にしてほしい」という冷静ながらも厳しい意見も多く見られました。
今回の「杭州自来水異臭事件」は、地方政府のインフラ管理体制、緊急時の対応力、そして市民との信頼関係の在り方について、改めて多くの課題を浮き彫りにしたと言えるでしょう。情報がリアルタイムで拡散する現代において、「これはデマだ」と切り捨てるだけでは不安や疑念を払拭することはできません。市民が安心して暮らせる社会を目指すのであれば、何よりもまず、誠実で透明性のある説明と対応が求められます。
(翻訳・吉原木子)
