最近、中国の銀行業界は、緊張が高まっています。広東省深セン市の女性が20万元(約400万円)を送金しようとした際、銀行に拒否され、警察に連行されるという事件が発生し、ネット上で大きな波紋を呼びました。

 同女性はその場で怒りをあらわにし、「皆さん、この真実をネットで拡散してください」と叫んだのです。この事件は瞬く間に世論の注目を集め、中国の金融環境が極めて不安定であること、国民が「財布の安全」に深い不安を抱いていることを浮き彫りにしました。

銀行の「倒産ラッシュ」が庶民の資産を直撃

 経済が低迷し、失業率が高止まりする中で、中国国民の預金の安全に対する関心はかつてないほど高まっています。しかし、相次ぐ中小銀行の破たんが全国規模の不安を引き起こしています。大紀元の報道によると、2025年の最初の5か月間だけで、すでに中国では184の中小銀行が吸収合併または解散を認可されており、この数は前年同期の7倍、昨年一年間の総数にほぼ匹敵しています。特に内モンゴル自治区では、5月16日だけで実に120行もの銀行が「一斉破たん」しました。

 この現象は金融システムに直接打撃を与えるだけでなく、国民の預金への信頼そのものを揺るがしています。SNS上では、「銀行破たんラッシュ」が熱く議論され、一部のネットユーザーは「銀行が破たんしても保証されるのは元本と利息を合わせて最大50万元(約1000万円)に過ぎない。つまり、銀行が破たんしたら全額が戻るとは限らない」と警告を発しています。多くの人々が、リスクを分散するために複数の銀行、特に大手銀行に預金を分散するよう勧めています。

 海外のネットユーザーからも、中国の預金者に対する同情の声が相次いでいます。

 「銀行に預けても安全ではないし、自宅に保管しても危険。警察がさまざまな名目で捜索し、現金を見つけたら『海外資金』などの口実で押収する。実際には不法な略奪である」

 「もし多くの預金者が自由にお金を引き出せなくなれば、社会はより大きな混乱に直面するだろう」

 中小銀行の大量破たん背景には、銀行業界全体が深刻な経営難に陥っている事実があります。複数の銀行関係者によると、現在は貸し出しが極めて難しく、銀行職員全員が週末も返上して顧客獲得に奔走しているものの、成果は乏しいとのことです。

 北京市在住のある女性は「銀行に勤める友人が言っていたが、お金を借りたい企業は返済能力がなく、お金を持つ人はそもそも借りる必要がない。この悪循環から抜け出せない」と話します。

 40代の男性市民は次のように述べました。「今の銀行は本当に苦しい。市場には優良顧客がほとんどおらず、大半が借金漬けで、貸し出しもままならない。仮に職員が見て見ぬふりをしようとしても、ローン審査のシステムが自動で融資を拒否してしまう。金融環境の悪化を裏付けるように、外資系銀行も撤退ラッシュを起こしている。例えば、シティバンクはこのほど、中国の上海と大連で約3500人の人員削減を行うと発表した。その理由として、長期的な赤字で、もはや事業の継続は不可能である」

金融寒波が拡大 ホワイトカラーの「再貧困化」が深刻化

 銀行の破たんラッシュとともに訪れたのは、金融業界全体の「極寒期」です。ここ2年で多くの金融機関や国有銀行が大幅な賃下げを実施し、かつて「高収入で安定した職業」と称されたホワイトカラーの給与は大きく下落しました。

 給与の下落と業界の縮小という二重の打撃を受け、多くの金融関係者が転職しようと、公務員試験に殺到しています。「高給の仕事より、安定した公務員の方が良い」という現象が金融業界で顕著になりつつあります。2025年度の中国証券監督管理委員会(証監会)が採用を予定している287名の公務員のうち、29名が証券会社出身、12名が銀行出身、7名がファンド会社出身という数字は、ホワイトカラー層の「公務員志向の高まり」を象徴しています。

 賃下げの波が押し寄せる中、依然として多くの金融業従事者は「辞職すら恐れている」状況にあります。あるネットユーザーは「給料は下がる一方で、仕事はどんどんきつくなる。でも辞める勇気はない。なぜなら、外の世界には逃げ道がないからだ」と投稿しました。

地方の中小銀行にも広がる危機 農村金融も揺らぐ

 中小銀行の危機は都市部だけにとどまらず、農村部の金融システムにも波及しています。今年に入ってから、各地の金融監督局は頻繁に公告を発し、農村信用合作社や村鎮銀行の解散や吸収合併を告知しています。例えば、浙江省寧波市の江北富民村鎮銀行は、江蘇銀行に吸収され、その業務・資産・職員すべてが新設された寧波支店に移管されました。

 6月10日には、貴州省貴陽市の中国郵政儲蓄銀行衛城支店で、定期預金に関する定期預金が回収不能となる事件が報じられました。地元のブロガーによると、この銀行はかつて村民に対し「毎年1万元(約20万円)を5年間預ければ、満期には元利合わせて5.8万元(約116万円)を返還する」と約束していました。しかし、満期を迎えても元本すら引き出せない事態が発生し、国民の間に再び強い不安が広がりました。この事件は、中国農村部の金融システムが極めて脆弱であることを浮き彫りにしたのです。

銀行破たんラッシュは社会の「時限爆弾」か

 中国銀行業界の根本的な危機は、経済の減速、人口減少、企業活動の縮小などに伴う、社会全体の「デレバレッジ化」にあります。融資難、投資縮小により、銀行自身も利益を上げることができず、業界全体が苦境に立たされています。銀行員による「全員営業」が常態化する一方で、債務不履行リスクの高まりがさらに融資機能を制限する結果となっています。

 さらに深刻なのは、こうした中小銀行の大量破たんが、預金者や金融関係者にとどまらず、社会全体に不安定要因として影響を与え得る点です。万が一、預金者が資金を引き出せなくなれば、大規模な抗議運動、さらには金融パニックに発展する危険性があります。一部のネットユーザーは「国民の我慢はすでに限界に達している。もし預金が引き出せなくなれば、社会は大混乱に陥る」と警鐘を鳴らしています。

金融の混乱収まらず 国民は「財布」をどこに預けるべきか

 経済の減速と金融業界の寒波が強まる中で、都市から農村、銀行の幹部から一般の預金者まで、誰もが不安に苛まれています。中小銀行が次々と姿を消し、金融業界では給与が半減し、失業の波が広がる中で、人々の「財布の置き場所」はますます見いだせなくなっています。

 銀行とは本来、財産を守るための「避難所」であるべき存在でした。しかし今では、それがリスクの源と化しています。庶民にとって「どうすれば預金を守れるか」という問いは、もはや資産運用の問題ではなく、「生き残るための課題」になりつつあります。

 銀行破たんラッシュが続く中、金融システムの混乱は未だ底が見えません。この「資産の安全」を巡る攻防戦の行方は、なお不透明で、人々の不安を募らせています。

(翻訳・藍彧)