中国では経済の低迷が続く中、製造業を中心とする各業界が深刻な打撃を受け、賃金未払いを巡る労働争議が全国的に広がっています。工場封鎖や抗議活動が頻発し、就職詐欺や、労働者と使用者の対立も相次いでおり、その影響は建設、教育、医療、清掃といった生活インフラに直結する分野にまで及んでいます。こうした事態は、基層の労働者たちの生活がかつてないほどヒッパクしている現実を浮き彫りにしています。

 SNS「X」には、7月15日に広東省深圳市の冠博科技実業有限公司で発生した事例が投稿されました。経営者が工場を売却したうえ、賃金を支払わないまま失踪したため、労働者たちは団結して工場の門をふさぎ、深夜まで賃金の支払いを訴えました。しかし、経営者はこれまでにも再三約束を破っており、今回も最終的に給与の支払いはなされませんでした。
 
 また、7月12日には同じく深圳市光明区にある安費諾精密コネクタ会社で、正社員を大量に募集すると謳った求人広告を見て、多数の求職者が仲介業者を通じて面接に臨みました。しかし、実際に採用されたのはごくわずかでした。落選した人々は騙されたとして会社前で抗議活動を展開し、最終的に仲介業者が1人あたり200元の補償を支払うことで騒動は一旦収束しました。
 
 さらに、7月11日には陝西省西安市のハイテク開発区にある建設現場「地電広場」で労使の衝突が発生しました。労働者が消火器で警備員に噴射し、鉄製スコップで倒すなどの激しい対立に至りました。目撃者によれば、現場責任者が賃金を支払わずに警備員を雇い、労働者の強制排除を試みたことが発端だったといいます。
 
 河北省でも同様の事態が起きています。7月4日、中建三局の建設現場では、長期にわたる工事費の未払いを受けて労働者たちが車両や出入り口を封鎖し、団体で賃金支払いを求めました。こうした「賃金未払い → 強制排除 → 暴力的衝突 → 曖昧な解決」といった悪循環は、すでに中国社会において常態化しつつあります。
 
 今年5月には、建設、教育、医療、清掃といった幅広い分野で集団的な賃金請求の動きが多発しました。
 
 自由アジア放送によると、5月18日、河北省石家荘市の中国交通建設グループのプロジェクト現場で、労働者たちが横断幕を掲げて抗議活動を行いました。ある労働者は「年初から何度も支払いを約束されたのに、そのたびに裏切られた。仕事は重労働で、病気の家族を抱える同僚も多い。一刻も早くお金が必要だ」と語っています。
 
 翌19日には、広東省の陽信高速道路プロジェクトでも集団抗議が発生しました。現場にいた労働者は「簡易住宅に寝泊まりして何ヶ月も待っているのに、具体的な支払い日は一向に示されない」と憤りを口にしています。
 
 同様の動きは南方の広西チワン族自治区でも見られました。南寧市では、広西送変電建設有限公司の賃金未払いを受けて、5月16日以降、32人の作業員が会社前にテントを張り、自炊をしながら長期抗議の構えを見せました。
 
 教育現場でも問題は深刻です。5月20日、山東省棗荘市の複数の臨時教員が「6ヶ月にわたって給与が支払われていない」と訴え、生活が困窮している現状を明かしました。また、山西省では学校側が2021年以降に支給した年末賞与や課外指導手当の返還を求めるなど、教員への圧力が強まっています。
 
 同じく5月には、江蘇省南通市海門市区ある千里馬刺繍工場の労働者たちが、経営者の自宅を含めて二日連続で訪れ、賃金の支払いを迫る様子がSNSで拡散されました。それでもなお、給与は支払われなかったといいます。
 
 さらに、浙江省、四川省、黒竜江省などでも同様の動きが確認されています。浙江省金華市では、宅配大手「韻達エクスプレス」の労働者たちがストライキを決行し、支払いを要求しました。四川省遂寧市の大型ショッピングモール「万象匯」では、仲介業者が失踪し、警備員たちが横断幕を掲げてモール前で抗議しました。黒竜江省七台河市では、龍煤グループの元労働者が市政府前に集まり、3ヶ月分の生活保障金や社会保険、医療保険の支給を求めて訴えました。
 
 待遇そのものへの不満の声も多く寄せられています。甘粛省のある公立病院で働く看護師はSNSに「月給はたったの1300元、成果報酬も4ヶ月分滞っている」と投稿しました。江西省の清掃作業員の女性は涙ながらに「朝5時から十数時間働いて月給は1400元。もう人間には生まれたくない」と語っています。
 
 経済専門家は、外資の流出、国内企業の構造改革の遅れ、地方政府の財政圧力、そして労働者保護制度の崩壊といった複数の要因が重なり合い、中国は今、企業の「脱出ラッシュ」と労働者の「無保護化」が同時進行する非常に危険な局面にあると指摘しています。賃金未払いとそれに伴う労使対立は社会全体に波及しており、秩序の崩壊や基層の人々の生活の不安定化が現実のものとなりつつあります。

(翻訳・吉原木子)