先週末、中国の三大デリバリープラットフォームである美団(メイトゥアン)、淘宝閃購(タオバオフラッシュセール)、京東(ジンドン)が再び大規模な補助金合戦を繰り広げました。今回は「0元購(ゼロ元購入、実質無料)」が市場の話題となり、さらに極端なケースでは「マイナス4元購」、つまり購入額を超える割引クーポンまで登場しています。プラットフォームのトラフィックは急増しましたが、多くの店舗では見かけだけの繁栄にとどまり、1件あたり1元すら利益を上げられず、赤字覚悟で集客を強いられている状況です。この競争で本当に得をしたのは誰なのでしょうか。

 「羊城晩報」や「三湘都市報」など中国のメディアによると、湖南省長沙市の市民・熊さんは14日未明、デリバリーアプリ「餓了么(ウーラマ、中国版Uber Eats)」で「吃貨卡紅包」というクーポンを入手しました。その内容は「18.8元以上の注文で22.8元割引」というもので、実質「マイナス4元購」にあたります。熊さんはこのクーポンを使い、「宝貝蒸餃」という店で蒸し餃子と和え野菜のセットを注文し、通常価格は包装代込みで30元(約600円)でしたが、最終的な支払いはわずか7.9元(約158円)になったそうです。一方、美団のアプリでは「ゼロ元デリバリー到着」という大きなポップアップが表示され、クリックするだけで無料デリバリークーポンを獲得できる仕組みが導入されています。このキャンペーンには瑞幸珈琲(ルイシンコーヒー)、蜜雪氷城(ミーシュエビンチェン)、古茗(グーミン)などの人気チェーンが頻繁に登場しています。また、淘宝閃購も「スーパーサタデー」と銘打ち、総額188元分の大型クーポンを配布し、「1日に5食分が無料」と宣伝しています。多くのユーザーが「18.8元購入で18.8元割引」や「28.8元購入で18.8元割引」など、大幅な割引クーポンを手にしているとのことです。京東も毎晩16.18元のザリガニセットを10万セット配布するほか、ユーザー一人当たり最大20元の補助金も提供しています。

 確かにこうした補助金合戦によって注文数は急増しています。広州市番禺区にある奶茶(ナイチャ:ミルクティー)店では、閉店まで残り1時間の時点で137杯もの注文が残っており、受け取りまで1時間以上かかる状況だったそうです。同じエリアの茶百道(Cha Bai Dao:中国の人気タピオカチェーン)でも、注文番号がすでに200番を超えていたといいます。微信(WeChat)の公式アカウント「表里表外」の取材を受けた奶茶店経営者の李斌(リービン)さんによると、「週末は開店直後から注文が途切れず、プリンターが絶え間なく伝票を印刷し続け、6人の従業員が深夜2時まで働き通しでした。しかし、補助金やサービス料などを差し引くと利益はわずか400元程度で、従業員へのボーナスを支払ったら、ほとんど赤字でした」と語っています。ほかの茶飲料店の経営者も「注文数が倍増しても、利益はほとんど増えません。結局、深夜まで働くだけで疲れが残るだけです」と嘆いています。

 「上游新聞」によると、美団のキャンペーンに参加したミルクティーチェーン「沪上阿姨(フーシャンアーニー)」では、1日の売上は1万元(約20万円)を超えたものの、補助金を差し引いた実際の売上は6000元(約12万円)ほどにとどまり、原材料費や人件費、家賃などを差し引くと、1杯あたりの利益はわずか1元(約20円)以下だったそうです。こうした状況は珍しくなく、米粉店を営む徐婷(シューティン)さんも、通常19.8元の料理をお客が9.9元で注文しても、プラットフォームの手数料や包装費、配達料などを差し引くと、利益は1元にも満たず、「見かけだけの繁盛に過ぎません」と話しています。1日に200件以上の注文があっても、そのほとんどが割引目当ての一時的な客で、リピーターにはならないとも指摘しています。

 広東省の個人経営の飲食店主Will(仮名)さんも「時代財経」の取材に対し、6月中旬以降、注文数は前年比で20〜30%増えたものの、売上はそれに追いついていないと話しています。7月13日のデータによると、18元(約390円)の注文では、補助金8.7元(配達料3.7元、クーポン分5元)、配達サービス料5.15元、プラットフォーム手数料0.9元が差し引かれ、店舗に残る収入はわずか4.25元(約92円)しかなかったそうです。一日の利益が400元しかない中で、機器の減価償却まで考えると完全に赤字経営で、「飲食業以外に何ができるかわかりませんが、もう皆と一緒に沈みたくありません」と語り、月末には店を売却する決意を固めたといいます。

 とはいえ、巨額の補助金はプラットフォームにとって莫大なトラフィックと注文数を生み出しています。美団は7月12日の夜時点で即時小売の単日注文数が15億件を突破したと発表し、淘宝閃購と饿了么も共同で単日注文数が8000万件を超え、過去最高を記録したと伝えています。美団の即時小売は7月5日の時点で1日の注文が1億2000万件を超え、そのうち飲食関連だけで1億件を占めたといいます。淘宝閃購も7月7日に8000万件を突破し、非飲食関連の注文も1300万件を超え、日間アクティブユーザーは2億人を超えました。

 こうしたデリバリー競争の背景には、中国全土の小売業界が抱える「ストック市場の成長」への不安があります。北京商報によると、即時小売は中国のネット消費の中でも特に利用頻度が高く、ユーザー層は若年化が進み、都市部の高所得層に集中しているといいます。ゴールドマン・サックスのレポートによると、三大プラットフォームの本当の狙いは、デリバリー単体での利益ではなく、頻繁に利用するユーザーを獲得し、その流れをより利益率の高いECや旅行事業につなげることだと分析しています。美団のCEO王興(Wang Xing)氏は「どんな犠牲を払ってもこの競争に勝つ」と述べ、アリババの呉泳銘(Wu Yongming)氏も「アリババはECプラットフォームから大消費プラットフォームへの進化を目指している」と強調しています。京東もデリバリー分野で「失われた5年」を取り戻そうとしており、美団や天猫(Tmall)との市場争いが激化しています。

 しかし現状では、巨額の補助金合戦によってプラットフォームは莫大な流入とデータを得て、消費者は一時的に得をしていますが、現場で必死に働く飲食店は深夜まで働き詰めでも徒労感ばかりが残るという厳しい現実に直面しているようです。

(翻訳・吉原木子)