中国の国産大型旅客機C919が、再び国際的な注目を集めています。フランスの情報機関および航空機製造大手のエアバス(Airbus SE)は最近、C919の技術設計がエアバスのA320型機と酷似しており、核心構造や技術が無断で模倣された可能性があると明らかにしました。こうした疑念は20年ほど前から存在しており、C919が正式に商業運航に投入された現在、国際航空業界や世論の間で激しい議論を呼んでいます。
消えたA320がC919のデザイン原型に?
フランスの経済誌『キャピタル(Capital)』の最新報道によると、2000年代初頭に中国がA320を2機購入した際、そのうちの1機が登録もされずに謎の失踪を遂げたといいます。報道では、この機体が分解され、部品を解析・模倣することでC919の開発に利用された可能性が指摘されています。C919とA320は、機体サイズ、主翼構造、客室設計など多くの面で非常に似通っているとされています。
この報道を受けて、外部からは次のような疑問の声が上がっています。「C919は本当に『自主開発のマイルストーン』なのか、それとも無断模倣による『技術のコピー製品』なのか?」
「クローン旅客機」説の出所とは?
「クローン」という言葉はもともと生物学の分野で、無性繁殖により遺伝的に同一な個体を指しますが、現在ではフランスの航空業界がC919のA320に対する高度な模倣行為を表すのに使っています。
フランス対外治安総局(DGSE)の元局長であるアラン・ジュイエ(Alain Juillet)氏は、フランステレビ局M6が制作したドキュメンタリー『フランス―中国:秘密戦争』の中で「21世紀初頭、我々は中国にA320を2機販売したが、そのうちの1機は一度も飛行せず、まるでレーダーから姿を消したかのようだった」と述べています。
また、元エアバス副社長のパトリック・ドゥヴォー(Patrick Devaux)氏も、今年6月のパリ航空ショーで「大紀元時報」に次のように語っています。「我々がC919を初めて見たときの第一印象は『これはまさにA320だ』だった。まさか中国が機体全体を格納庫に持ち込み、完全に分解して、部品を一つずつコピーするとは誰も思わなかった」
航空フォーラムサイト「airliners.net」には、2007年4月の投稿では、航空雑誌『Air & Cosmos』が、中国に導入されたA320の1機が忽然と姿を消し、引き渡し記録も整備履歴も存在しないと報じたとが指摘されています。この「幽霊機体」がその後どうなったのかは依然として不明ですが、業界内では「分解・模倣されたのでは」とする噂が広くささやかされています。
データによれば、C919の機体長はA320よりわずか1.33メートル長く、幅は0.01メートル広く、高さは0.19メートル高いのみで、翼幅は両機とも完全に一致しています。客室の幅もわずか0.03メートルの差しかなく、「極めて類似」した設計が疑惑を一層深めています。
フランスの航空専門家たちは、「C919は一部の細部を修正しているものの、全体のフレーム構造はA320の完成された設計を明らかに参考にしている」と指摘しており、「逆向き設計(リバースエンジニアリング)」の典型的な事例だとしています。これは中国製造業では決して珍しくない手法です。
主要部品の8割が欧米製 「自主開発」に疑問の声
中国当局はC919を「国産の自主開発大型旅客機」として大々的に宣伝していますが、実際には欧米技術への依存度が非常に高いとされています。フランス航空宇宙工業グループ(GIFAS)の統計によると、C919の約8割の主要部品は、アメリカおよびヨーロッパのサプライヤーから供給されています。
なかでも最も重要なLEAP-1Cエンジンは、フランスのサフラン(Safran)社とアメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)が共同開発したもので、このエンジンはエアバスA320neoやボーイング737 MAXなど世界の主流機種にも搭載されています。
また、C919は現在、アメリカ連邦航空局(FAA)および欧州航空安全機関(EASA)の型式証明を取得していません。今年4月、EASAのフロリアン・ギレメル(Florian Guillermet)事務局長はフランス誌『Air & Cosmos』のインタビューで「C919が欧州の認証を取得するには、少なくともあと3年から6年はかかる。設計や部品の詳細な検証と飛行試験をまだ行う必要がある」と語っています。
現在のところ、C919は中国国内線での運航に限定されており、2028年までに150機の投入が計画されています。しかし、国際的な型式認証がない限り、海外市場での展望は不透明です。
フランスの航空専門家らは「将来的にC919が国際認証を取得すれば、その低コスト戦略は、中国製電気自動車がヨーロッパ市場で巻き起こしている衝撃と同様の影響をエアバスに与える可能性がある」と警告しています。
BYD(比亜迪)やNIO(蔚来)などの中国EVメーカーが価格競争力を武器にヨーロッパ市場を急速に制圧したように、C919も国際線に進出すれば、コスト面でエアバスやボーイングと激しい競争を繰り広げることになるでしょう。このためフランス政財界では、中国の航空産業に対する技術監視と知的財産保護の強化を求める声が高まっています。
「技術盗用」は航空業界に限らず
航空分野における「逆向き設計」は、実は中国による技術戦略の一端にすぎません。アメリカ司法省は2022年、中国の情報機関に所属する徐延軍(じょ・えんぐん)という人物に対し、GEアビエーションおよびサフラン社の商業機密を盗もうとした罪で、禁錮20年の判決を言い渡しました。捜査当局によれば、C919のエンジン技術に直結する機密が標的となっていました。
また、台湾の国防安全研究院の蘇紫雲(そ・しうん)所長は次のように指摘しています。
「中国共産党が最も得意とするのが逆向き設計である。しかし、核心部品のコピーは不可能だ。たとえばエンジンのコア(中心機関)や半導体チップという『二つの心臓』は、いまだに中国は克服できていない。中国の飛行機には『心臓病』があると言われているが、実に的を射ている表現だ」
このような技術をめぐる論争は、航空業界に限った話ではありません。華為(ファーウェイ)や中興(ZTE)といった通信機器企業は、初期に欧米の製品を模倣することで成長を遂げ、多くの国から知的財産権侵害で訴訟や制裁を受けました。また、BYDやChery(奇瑞)などの中国自動車メーカーは、第一世代の車種で欧米のデザインを大量に参考にしています。高速鉄道分野でも「市場開放と引き換えに技術を得る」という戦略のもと、日本・フランス・カナダなどの高速鉄道技術を導入し、次第に国産化に切り替えています。
中国がC919の開発を推し進める背景には、ボーイングとエアバスによる長年の世界民間航空市場の独占を打破しようという戦略があります。しかし、もしC919がフランス側の指摘通り、「創造」ではなく「寄せ集め」の産物であるならば、その技術的持続性には大きな疑問符がつくことになるでしょう。
フランス側の懸念は、単なる商業的競争の反応ではありません。知的財産と産業安全がますます重要となる現代において、西側諸国が自国の技術を「分解―模倣―低価格競争」という連鎖からいかに守るか。それこそが、いま各国が直面する政策的課題となっているのです。
(翻訳・藍彧)
