中国広西省柳州市(りゅうしゅうし)で大雨による尾鉱(びこう)流出事故が発生し、毒性の強い重金属「アンチモン」による水源汚染が広がっています。地方政府は「水質は基準を満たしている」と発表していますが、市民の間では不信と怒りが渦巻いています。
毒性廃水が柳江に流出
広西省柳州市の生態環境局は、6月24日に発表した公表文の中で、同市が連日大雨に見舞われた結果、融水(ゆうすい)ミャオ族自治県にある尾鉱の堆積区域の一部が崩落し、有毒な重金属「アンチモン」を含む大量の廃水が柳江(りゅうこう)本流に流入したと明かしました。この事故により、広範囲にわたって水源が深刻に汚染されました。
地方政府は「水道水の水質は基準に適合している」と強調していますが、柳州市内や周辺の複数の住宅地では数日にわたり断水が続いており、市民生活は前例のない困難に直面しています。多くの市民が政府による情報隠蔽を疑い、不信感を募らせています。
柳江は珠江(しゅこう)流域の西江水系に属する重要な支流で、柳州市のみならず、その下流に位置する複数の都市にも大きな影響を及ぼす水系です。「BBC中国語版」によると、今回の汚染事故は、柳州市民の飲用水の安全を脅かすだけでなく、珠江流域全体の生態環境にも重大なリスクをもたらしていると報じています。
当局の「水質基準達成」発表に市民が反発
柳州市政府は公表文で、「市内各地の水道水の水質は生活飲用水の衛生基準を満たしており、すでに第3級の緊急対応を開始した」と説明し、「市民は恐慌を起こさず、デマを信じず、流さないように」と呼びかけています。
しかし、この発表はすぐさま市民の強い反発を招きました。柳州市魚峰山(ぎょほうざん)付近に住む王さんはラジオ・フリー・アジアの取材に対し、次のように語っています。
「うちはもう2日間水が出ていない。今日はちょっと出たので急いで水を溜めたが、黒ずんだ水でとても使える状態ではない。もし水質が本当に合格しているのなら、なぜ断水するのか? なぜ水が黒ずんでいるのか?」と怒りをあらわにしています。
また、朱(しゅ)さんという市民は、「現在、柳州市内の香颂诺丁山(こうしょう・ノッティンガム)マンションや祥源大地(しょうげん・だいち)マンションといった住宅地では、すでに3日連続で断水している」と述べ、住民たちは消防車から水をもらってしのいでいるか、親族や友人の家に行ってなんとか入浴していると話しました。
SNSで広がる怒りと証言
SNS上では、多くの柳州市民が水道から黄色く濁った水が出てくる様子を映したショート動画を投稿しています。スーパーではミネラルウォーターや大型ボトル入りの飲料水が買い占められ、棚は空っぽになりました。
ある住民は「3日間お風呂に入れていない。料理もミネラルウォーターを使っている」と嘆いています。
また、融江流域の住民が6月26日に投稿した動画によると、実は6月20日の時点で、河川の水が変色し、鼻をつくような化学臭が漂っていたことが確認されています。それにもかかわらず、柳州市の生態環境局が汚染に関する発表を出したのは4日後の24日になってからでした。情報がまったく出なかった4日間に、市民の怒りは爆発していま。「政府は何を隠しているのか」と疑問を投げかける声が広がりました。
「飲み水はミネラルウォーター、入浴は友人の家、それでも政府は『慌てるな』と?」「じゃあ、あんたら(政府の役人)がこの水を飲んでみろよ」といった市民の書き込みも見られます。
また、「そもそも、こんなに川の近くに尾鉱を造ること自体がおかしい。大雨が降れば毒性の強い発がん性・催奇形性物質が流出する。設計そのものに問題がある」と訴える声も上がっています。
アンチモンの毒性とリスク
「BBC中国語版」の報道によると、アンチモンは毒性を持つ重金属で、冶金や難燃剤などの産業で広く使用されています。その化合物は慢性毒性を示すことが知られ、潜在的な発がん性もあるとされています。急性中毒では心筋炎、嘔吐、下痢、肝臓や腎臓の損傷を引き起こし、重症化すれば命にも関わる危険があります。アンチモンに汚染された水を長期間摂取することで、がんや胎児の奇形といった健康被害のリスクも高まります。
広西省は、中国の14の重金属汚染重点防止地域の一つに指定されており、実際に柳江流域では過去にも同様の事故が繰り返されています。たとえば2012年には、同省の竜江(りゅうこう)で約20トンのカドミウムが流出し、全国的に注目される環境災害となりました。当時、汚染された河川の延長が300キロメートルに及び、ピーク時の汚染濃度は基準値の80倍を超えていたと報告されています。また、2013年には、賀江(がこう)でカドミウムとタリウムによる汚染事故が発生し、汚染区域は110キロメートルを超えました。
広西省政府は昨年、「過去10年を遡っての環境違法行為の追及」と銘打った環境保護特別活動を開始しましたが、今回の柳江汚染事故は、依然として同地域の環境監督体制に重大な欠陥があることを浮き彫りにしています。
断水が続く中、生活は限界へ
「聯合早報」の6月27日の報道によると、柳州市の一部地域ではすでに断水が1週間以上続いており、複数の大規模住宅団地では消防車による給水に依存していますが、その供給量は数十万人規模の基本的な生活需要を到底満たすものではありません。
柳北区に住んでいる劉さんは「毎朝4時に起きて並ばないと水が手に入らない。足りなければスーパーで大型ボトル水を買い漁るしかない。家には高齢者と子どもがいて、本当に限界だ」と語ります。
あるスーパーの店員によれば、6月24日以降、大型ボトル水やミネラルウォーターは完全に品切れ状態で、一部の業者はこれを機に値上げを実施しているとのことです。一例では、普段は15元(約300円)の純水が60元(約1200円)まで跳ね上がりましたが、それでも供給が追いついていない状態です。
この断水の影響は、一般家庭にとどまらず、飲食店、学校、病院などの公共サービス施設にも及んでいます。一部の小規模飲食店は営業を停止し、診療所や介護施設では水不足が深刻化しています。ある保護者は「学校から『水がなく衛生状態を保てないため休校する』と連絡がきた」と語っています。
汚染の責任所在は未だ不明確
市民の怒りが高まる中、柳州市当局はこれまで複数回にわたり記者会見を開いていますが、汚染物質の具体的な含有量や、事故を引き起こした企業の詳細な責任については、いまだに明らかにしていません。
ある市民は次のように怒りをあらわにしています。
「2012年のカドミウム汚染事件から何も学んでいない。こんな事故は天災じゃなくて完全に人災だ。ちゃんと監督しなければ、企業が川の近くに工場や尾鉱を作り続け、同じことが何度でも起こる」
公式が「情報封鎖」のような状態を続ける中、市民たちはWeChatのグループチャットや掲示板、SNSなどを通じて、給水の時間帯、断水中の住宅地、近隣スーパーのミネラルウォーター在庫などを共有し合っています。また、ボランティア団体が前線に立ち、オンラインとオフラインの両方で市民の訴えを集め、環境問題に詳しい弁護士らと連携しながら、地方政府に対して次のような要求を突きつけています。
-汚染物質の詳細なデータの開示
-尾鉱の安全性評価報告の公開
-事故原因と責任の明確化
-被災住民への補償
SNS上では次のような声が多く見られます。「必要なのは『水質基準を満たした』という曖昧な言葉ではなく、信頼できるデータだ」「必要なのはデマ否定ではなく、透明で説明責任を果たす行政である」
(翻訳・藍彧)
