2023年に北京・天津・河北省を襲った特大豪雨の後、雄安新区を守るために取られた放流措置により、河北省涿州市(たくしゅうし)や邯鄲市(かんたんし)などの村々が深刻な被害を受けました。災害後、各地で貯水池や堤防の大規模建設が始まりましたが、土地収用に関わる補償の不備や強制的な取り壊し・収用の横行により、村民の強い反発を招き、抗議活動が相次いでいます。
武安市の婁里貯水池、補償なしの強制収用に抗議する村民が暴力的に排除される
6月22日、河北省武安市(ぶあんし)の婁里(ろうり)貯水池建設現場で激しい衝突が発生しました。南峭河(なんしょうが)村の村民らは補償を受けないまま土地を強制収用され、建設現場で抗議活動を展開したところ、施工業者側が100人以上の暴力団の者を雇って村民を暴行、負傷者が救急車で運ばれる事態となりました。
現場の動画では、村民が体を張って重機の前に立ちふさがり、ある女性が「婁里貯水池は強制収用・強制取り壊しだ」と叫ぶ様子が確認できます。混乱の中、多数の負傷者が出ました。村民が「大紀元時報」の記者に語ったところによると、中央テレビ(CCTV)の記者が取材に来ても、施工側に追い返されたとのことです。また、「この工事には多くの問題がある」と村民は強調しました。
抗議の原因は、補償金が未支給であること、そして移転先の住宅も建設されていないまま強制取り壊しが始まったことでした。
土地収用と移転住民の対応を担当しているエンジニアの周さんは、補償案がまだ策定されていない段階で着工していることを認めました。「政府は近隣での集団移転を目指しているが、自主的に分散移転してもらうために一括補償を検討している」と語りました。
しかし村民は、一括補償は不適切だと反発しています。「元の生活・生産水準を下げてはならず、長期的な生計の保障が必要だ」と主張しています。
婁里貯水池の計画総投資額は104億6700万元(約2193億円)で、施工期間は50か月。13の村と洺河(めいが)、马会河(まかいが)、淤泥河(よでいが)の3つの支流の整備を含んでいます。6月10日には、この工事に関わる趙窯村(ちょうようそん)でも補償問題で村民が工事を阻止する事件が起き、1人が負傷しました。
涿州観仙営(かんせんえい)村、村幹部と「村の有力者」が補償金を山分け
涿州市の観仙営村では、貯水池建設が別の土地収用トラブルを引き起こしています。昨年から土地収用が始まり、村民は補償金が得られると期待していましたが、実際には各レベルの官僚がこの事業を利用して国家補償金を横領していたことが明らかになりました。
仮名「李進成(り・しんせい)」という村民によると、昨年4月から土地収用が始まり、市政府が公告を出して土地の接収を告知しました。彼の家の5ムー(約3335平方メートル)の土地は現在に至るまで一銭の補償も受けておらず、本来ならば1ムーあたり11万元(約230万円)は支払われるべきだといいます。
李さんをはじめとする村民は、昨年から村委員会や省の紀律検査委員会にまで訴えを重ねてきましたが、いまだ結果は出ていません。
李さんは、「補償金に関する調査を進める中で、多くの闇が明らかになった」と語ります。村民らが調べたところ、国家からの補償金は1億900万元(約226億円)であるにもかかわらず、地方政府は「9000万元(約188億円)しか受け取っていない」と説明しています。
李さんはまた、「私たちの調査によると、村の書記が350ムーの土地を村の有力者(村民を抑圧してきた人物)に割り当て、その見返りとして4000万元(約83億円)の補償金を一人占めさせた」と暴露しました。村の有力者は長年にわたり違法に砂利を採掘しており、北京の中央政府に親族の後ろ盾があり、横暴を極めていて村民は声を上げられない状況です。
李さんは怒りを込めて「やつらはとにかく、金を国民に渡したくないのだ。自分たちの権力を使って、補償金を親戚や仲間に配ってしまった。土地を持たない者にも金が渡っている」と述べました。
別の村民もこう証言しています。「村幹部は私たちのような一般村民に対して『あなたの土地は対象外だ』と一蹴する。しかし、幹部の親族や顔が利く者には、土地がなくても2〜3ムー分の名義を勝手に記載して補償を受けさせている。関係のない私たちがどれほど生活に困っていても、一切顧みられることはない」。
雲南省出身の建設業界関係者・張正林(ちょう・せいりん)氏は、「こうした腐敗行為は、(中国)共産党政権下の工事の闇のほんの一部に過ぎない」と指摘し、「この体制は、官僚が国民に対してまったく責任を負わない構造になっている」と批判しました。
山東省沂南(ぎなん)貯水池建設で良田が安く買いたたかれ
山東省でも同様の強制収用と抑圧が行われています。
2022年から、山東省政府は蒙河(もうが)双堠(そうか)貯水池の建設プロジェクトを開始し、沂南県東師古村(とうしこそん)の広大な農地を収用しました。当初、1ムーあたり30万元(約627万円)の補償をすると表向きには約束されていましたが、地方政府は土地の性質を「農地」からこっそり「非農地」に変更し、補償額を5〜6万元(約104万〜125万円)に大幅に減額しました。そのうえ、地方政府が一部の補償金を不当に差し引いた結果、村民が手にできたのは実質4万元(約83万円)ほどにとどまりました。
さらに、これらの補償金さえも村民には渡らず、すべて村委員会が掌握し、村民は一銭も受け取っていません。
2024年の秋、東師古村の村民たちは、村のそばの川砂が違法に業者へ販売され、政府がそこから利益を得ていたことに気付きましたが、その影響で農地が損壊しました。10月22日、村民たちは採砂作業を止めようとしましたが、政府は大量の人員を派遣して鎮圧しました。目撃者によると、警察や役人ら約20〜30人が、村民が砂の保護のために建てていた小屋を強制的に取り壊し、「抗議活動をするな」と警告しました。
村民の陳さんは、村主任が村民の同意を得ることなく、政府と勝手に土地収用の契約を結んだことを明かしました。「うちの村には180以上の世帯があり、全体で4〜500人いるのに、村の書記がどうして彼ら全員を代表して、こんな重大な契約を勝手に結べるのか」と疑問を投げかけます。
陳さんは、補償金の総額やその分配の実態がすべて村幹部によって勝手に決められ、村民には一切知らされていないと批判します。「政府は横暴で、当初から一貫して国民をまったく尊重していない」と憤りを隠しませんでした。
専門家「土地収用の腐敗は中国共産党の本質を示す」
元中国人権派弁護士の陳光誠(ちん・こうせい)氏はこう指摘しています。
「(中国)共産党というのは、建国以来ずっと国民への強奪と迫害をやめたことがない。ただ、時代や対象が変わるにつれて、手法や奪う対象が変わってきただけだ。あるときは人権を、あるときは財産を、あるときは物的資源を奪うのである」
河北省武安市から山東省沂南県に至るまで、各地の土地収用をめぐるトラブルは共通の特徴を示しています。補償の未払い、手続きの違法性、情報の不透明性、深刻な腐敗、そして住民の抗議がまったく報われない状況です。こうした問題は、現在の中国共産党政権が進める強権的な「維穩(治安維持)」体制の下では、ますます解決が困難になっています。
農民たちにとって、生活の基盤である土地を奪われ、将来の生計の保障も失われる中、正当な訴えをしようとしても弾圧されるばかりです。彼らの苦しみを、いったい誰が真剣に受け止めてくれるのでしょうか?
(翻訳・藍彧)